第1話 アリシア、王都に立つ
ウルフィーネの王都、ナーサリア。そこの活気あふれる風景にアリシアは圧倒されていた。
小国とはいえ王都の中心街。周りには様々な商店が建ち並び、大通りをたくさんの人たちが行き来している。
道行く人が彼女の側を通り過ぎる際、たまに
周りからかなり浮いた格好をしているアリシアと言えば、そんなことに気が回る事もなく、道の真ん中で棒立ちになっていた。と、突然横から思い切り押されて地面に倒れてしまった。
「きゃっ⁉」
「おおっと、ごめんなお嬢ちゃん、急いでたもんでよ。でも大通りの真ん中で突っ立ってると危ないぜ?」
大きな荷物を肩に担いだ大男から差しのべられた腕に捕まり、アリシアは立ち上がった。
「い、いえ、こちらこそすみませんでした……」
服についた汚れを払い、頭を下げるアリシア。
「おう、怪我もないようだし、俺は先を急ぐんでな。それじゃあな」
そう言うと、大男はその場を去って行った。
「大きかった……けど優しい人だったな」
自分の生まれ育った集落とは、比較できない大きさの街に沢山の人々。それらに
ナーサリアに着いてまだ何もできていない。まずは宿を探さなければ。
彼女がその場を立ち去った後、地面に
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特徴的な刺繍(ししゅう)が施されたその巾着袋を通りすがりの男が拾い上げた。
「なんだこれ。ん? 珍しい生地の巾着だな……中身は~っと」
巾着袋の口を開き中身を確認した男の、少し伸び気味な栗色の前髪。その奥で嬉しそうに瞳が光る。
「こいつはついてるぜ」
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「あれ⁉ ない‼ 私の財布‼」
中心街から少し離れた場所にある宿屋の受付。そこでアリシアは悲鳴を上げていた。
「確かに、確かにここに入れていたのに!」
しかし、何度服のポケットをひっくり返したところで、彼女の全財産が入った巾着袋は出てこない。
「まさかあの時……落とした……?」
脳裏によみがえるのはつい先ほどの記憶。不運にも倒れた拍子にポケットから転がり落ちたに違いない。
あれはここに来るにあたって両親がこしらえてくれた大切な巾着袋だった。都会での暮らしに憧れ、森を出たいという願いを許してくれるばかりか、さらに
それだけあれば、無駄遣いをしなければ働かなくても一年は余裕で暮らせる額である。
しかし、その全財産の入った巾着袋を無くしてしまった。
背筋に
「……大変だ」
アリシアは全速力で宿屋を飛び出した。
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がっくりと肩を落とし、アリシアはまたも中央街を歩いていた。
「どうしよう……」
結局、日が落ちるまで探し回ったが、アリシアの落とした巾着袋は見つからなかった。新生活の始まりと思いきや、一文無しになったアリシアの表情は暗く陰っていた。
とぼとぼと歩いていると、やたら騒がしい店が目に入った。
十人くらいの男達が、店のテラス席で
「今まで借金しっぱなしで悪かったな! しかしそれも今日でチャラ! さらに飯も俺のおごりだ! 食ってけ泥棒‼」
その男達の中で、栗色の髪をした青年が乾杯(かんぱい)の音頭(おんど)をとっていた。
「いいなぁ、楽しそうで。今の私とは正反対……ん?」
彼の胸ポケットからはみ出ている物を見て、アリシアの心に静かに怒りの炎が灯る。あの色の生地、
ゆっくりと、宴会の席へと向かって来るアリシアに気づいた青年が声をかけた。
「どうしたんだ、そんな怖い顔して。腹減ってんの? それなら食ってくか? 今日のアレン様は太っ腹だぜ」
「───────です」
「ん? なんだって? 聞こえなかったもう一度言ってくれ」
小首をかしげ、目を細めるアレンと名乗る青年の胸ポケットを指さし、彼女は凍えるような声色で言い放った。
「それ、私の財布ですって言ったんです、この
「……おっと急用を思い出したッ」
聞くやいなや、アレンは全速力で逃げ出した。
そんな彼に向けて、アリシアは持っていた杖を
「
逃げるアレンの足下から、突然何本もの木の根が飛び出し、彼の足に
「なんだ? 知らない魔術だのわっ‼」
足を絡め取られ体勢を崩したアレンは
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