再発見
3年が過ぎた。
ある夜のことだった。ヒロシは気分転換にと、久しぶりに東横線の最寄り駅ではなく、池上線の別駅に降りた。少し遠い自宅への道を歩いていると・・商店街を抜けてもう住宅街に入っているあたりでのことだった。
・・うん?、あるものが目に止まった。どこかで見た小さい立て看板・・、えっ!、「Bar オリオン」と書いてある! マスターが戻っている! どうやらまたこのエリアで営業を始めたらしい。
この帰宅ルートは何度か通っているが・・気が付かないはずであった。お店は何かの事務所のガレージを借りて改造していた。通りの看板以外は目立たないのだ。ガレージに入ってみると・・屋台があった。屋台がカウンターがわりになっている面白い作りの店なのだ。
マスターがヒロシを確認してにっこり笑った。
「おー、ひさしぶりだねー。」
「ほんとうにそうだね、おすすめの一杯を。」
「あいよ!」
色々と聞いてみると、マスターは飲み屋横丁を立ち退いてから、この屋台を買い、それを引いて転々とし細々とスコッチバーを営業していたらしい。屋台営業のバーとは逞しい。店の作りは変わっていてもメニューは変わっていなかった。スコッチを楽しむ場所がまた地元に復活したことがヒロシには嬉しかった。
さすがに客層は変わった。ヒロシと同じ業界の人もいれば、コンサルタント、外資製薬会社のMR、ボランティア、地元の飲食店の板前さん、お菓子職人、近くのスポーツジム帰りの人、そして昔からのマスター追っ掛けを自称するおばあさん、等々。
でも・・、あのサバサバした店の雰囲気は変わっていない。あの気持ちの良い挨拶も変わっていない。
先週も入店、「オッス!」、マスターお任せのスコッチを1杯、磯部焼と煮卵を肴に。一杯飲んで早々に引き上げ、すると皆が「お疲れー、お休みー!」。
締めて900円、気楽な一時の幸せなのだ。
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