カップのクイーン

豪華な装飾の玉座に座り、手に乗せたさかずきを見つめる女王。

杯は今まで描かれてきた形とまったく異なり、装飾が施されている。

足場の周囲は水に囲まれている。


<正位置の意味>

母性愛が溢れる、感受性に優れる、癒しや安らぎがある


<逆位置の意味>

依存心が強い、愛情が深すぎて独占、内向的で自己主張できない



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「なにこれ?」


 姉ちゃんはフォークに刺した缶詰の桃を空中に留めたまま、カードを凝視する。


「クィーンが手に持ってるのって」


「杯だけど」


「この画を見て杯って答えられる人いる? せいぜいオブジェか工芸品よ」


 俺だって「なんだこのカッコいい物体は!」とワクワクした。それくらい杯とかけ離れている。ごついし重そうだし持ちづらいし、水を入れられない。


「クィーンも『これ本当に杯なのかしら……?』って疑ってるとしか思えない」


「杯の形が他と違うのは、スートの性質が同調してパワーを発揮したせいらしいよ。カップもクイーンも水の性質だから」


 性質の力が同調した結果、原型すら留めない形状へと進化エボリューションしたのだ。だから玉座も一等豪華に描かれている。


「でもワンドのスートではキングの棒は他と一緒だったわ。火の性質同士でパワーアップしてなかったけど」


「確かに……きっと見た目は据え置きで中身が強力になったんだよ」


「リニューアルしたら見た目もしっかり変えないと、売れる物も売れないわ」


 パワーアップしたら大幅にデザインが変わるのはあらゆる創作世界の伝統だ。きっとカップのクィーンは空気を読んだのだろう。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「クイーンは愛に溢れる母親的な存在。感受性が高く芸術的なセンスがある」


「男が惹かれそう……私知ってるわ。今ネットで母性が強い女を『バブみが高い』って言うんでしょ。職場のバイトの子が話してた」


「日常で普通に使ってる人、いるんだ」


 ネット界隈の専門用語を日常で使うなんて……俺は使えない。


「女性は母性あふれる同性に魅力を感じたりしないの?」


「魅力っていうより普通にお母さんっぽいなと感じくらいよ。男だけでしょ、赤ちゃんプレイを求めるのは。ったく、私はお前の母親じゃないっての」


 職場で面倒見がいいんだな、姉ちゃんは。

 それはさておき。


「適度な愛情ならいいんだけど、逆位置になると愛情が行き過ぎて過保護になる」


「モンスターペアレントの女王なんてきついわね。権力があるから止められない。愛ゆえに子供を閉じ込め、自立できず内向的になっていく……終わったわこの国」


「周りが大変そうだね」


 何事も原型を残す程度のほどほどが一番だ。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ

↓ブログ「やっぱりたけのこぐらし」小アルカナ:カップの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-cup

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