カップのナイト

灰色の馬に乗る騎士。真横を向いて胸の前にさかずきを掲げる。

鎧に描かれているのは金魚の絵。

大地には細い川が一本流れている。


<正位置の意味>

優しくて人の気持ちが分かる、配慮があって慕われる、共感を得られやすい


<逆位置の意味>

優柔不断で判断が鈍る、周りに流されやすい、発言に思いやりが欠ける、下心がある



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「正位置で出たら理想的な優しい人……カップのナイトは人間が出来てるわね。こんな人ばかりならパワハラもモラハラもモンスタークレーマーもいない平和な世界になるのかしら」


 プリンを食べながら、姉ちゃんはハァとため息をついた。今日もお疲れさまだ。


「人の心をくみ取れるってことは、想像力があるってことよね」


「心情をつかさどるカップのカードだからね。でもナイトは他のコートカードに比べて想像力が低いとされているんだ」


「そんなこと、どこで読み取れるの?」


 俺は背景を指さした。大地に一本の川が流れている。


「ナイトだけ背景の水の量が少ないんだ」


 隣に他のカップのコートカードを並べる。ペイジもクィーンもキングも、足場や背景が水で満たされている。


「杯の象徴である水が少ない、つまり性質としての力が弱いってことらしい。具体的に言えば相手の気持ちを想像する前段階、自分勝手な解釈に留まっているんだって」


「勝手な思い込み……妄想ってこと?」


「かな。だからナイトはカップだけを見つめて、周りを見ていない」


 ただ夢中になれる物があるのは大切だと思う。だから正位置はネガティブに捉えられないと思う。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「逆位置で出ると優しさが行き過ぎるんだ。優柔不断で頼りにならない人になる」


「事情を考慮しすぎると決断が鈍るのよね。ある程度はドライな基準を持っていないと、優しさも悪因になる」


「悪い人じゃないんだけど……ってやつだね」


 俺は嫌いじゃないけど、大人になると優しいだけじゃ不都合が生じるのだろう。

 他にも逆位置には下心や、上辺の優しさで相手を惑わし傷つける意味もあるから。


「いい意味でも悪い意味でも『人たらし』なのかも」



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「ところで前のペイジといいナイトといい、どうして服や鎧に金魚が描かれているの?」


「気がついちゃったかあ」


「気づくでしょ。昨日もなんで触れないのか不思議だったし」


 それは単に忘れていただけなんだけど……。


「金魚柄に触れている文献がなかったんだよ。ワンドの性質である火の象徴として火蜥蜴サラマンダーが描かれていたのと同じで、水を象徴する魚が描かれているんだと思う」


「そもそもこの時代に金魚っていたの?」


 さあ……と首をかしげるしかない。まず金魚かどうかが不明だ。


「どうしてナイトはこんなデザインの鎧を凛々しい顔で着こなせるのかしら」


「気に入ってるとしか言えないよね。この時代のトレンドかもしれないし、意外と受けがいいんじゃない?」


「私だったら『こいつの鎧ダサッ!』って瞬時に思うけど」


 第一印象は様々だろうな。「いや金魚柄の鎧って!」なんて会話のきっかけにもなる。見る人によっては可愛いと言うかもしれない。相手の警戒心は緩む。


 これも人たらしのテクニックか?




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ

↓ブログ「やっぱりたけのこぐらし」小アルカナ:カップの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-cup

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