カップの8

険しい岩場を歩く一人の人物。杖を突き、右奥へと向かっていく。

カード手前には五つのさかずきが並べられ、その上に三つの杯が乗る。

薄暗い空には満月が浮かぶ。その手前に顔の描かれた丸い太陽が重なる。


<絵柄のイメージ>

杯に興味を失った男が、別の場所へ向かう


<正位置の意味>

「倦怠」「現状放棄」興味を失う、大切なものが移り変わる、成功を放棄する


<逆位置の意味>

「区切り」「祝宴」心の整理がつく、未練を捨てる、お祭りごとやパーティー



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



【Calm water surface 第八話】


 子供の頃に遊んでいた公園。ベンチに座り、砂場でよくお城を作っていたことを懐かしむ。


 なぜあの頃は砂の城を作ることに夢中だったのか。いつ飽きてしまったのか。失った興味は何に移ったのか……。

 ともかく、成長したぼくは城を捨てた。潮時だったんだ。


 放棄は成長の区切りだったのだろう。未練なく次の段階へ上がったのだ。それは喜ぶべきことだ。もしかして倦怠とは次の段階へ移るサインなのか。だとしたら、元には戻れないのだろうか。


 気が付けば空に月が浮かんでいた。僕は立ち上がり、歩き始めた。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「カップって悩んだり悔んだりしてる人多くない? また背中向けてるし」


「最初は明るかったんだけどね」


 姉ちゃんの言う通りネガティブな多い気はする。そのため逆位置がポジティブになる読み取りも増え、変則的なスートという印象は否めない。


 だからこそ、感情を示す『水』にふさわしい。そんな風に思える。


「人間の気持ちなんて浮き沈みが激しいし、顔で笑って心で泣いている人だってきっとたくさんいる。そういう意味では人の本質を暗示しているんじゃないのかな」


「カードの絵柄が人の内面を暗示してると考えれば、そうかもね」


 カップ焼きそばを勢いよくすする音に、納得を感じた。

 着目点を定めると、心情の変化を表すにふさわしいカードだ。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「絵柄の説明なんだけど、手前の積み上がった杯は今までの成果を象徴。それに背を向けて歩いていくのは、今まで関心があったことに目が向かなくなることを表す」


「空に浮かぶ月は大アルカナの『月』と似てるけど、三日月なの、満月なの?」


「月が太陽の前を通過しているらしい」


 つまり絵柄は日食の最中だ。


「太陽が人の外見、月が内面の象徴とすると、内面が前に出る——心の奥にあったものが表層に現れ、秘めていた思いに気が付いたってことじゃないかな」


これまで・・・・やってきたことよりも、これから・・・・やりたいことに目を向けた……これじゃポジティブな解釈になっちゃう」


「いいんじゃないかな。大切なものがその時々で変わっても」


 だから絵柄の人物は右へ向かって歩き始めた。未来に続く方向へ。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ

↓ブログ「やっぱりたけのこぐらし」小アルカナ:カップの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-cup


※)「Calm water surface」の参考にさせていただいたサイトはこちら

↓++ヨウコのタロット占い++ 小アルカナの意味早見表・カップ↓

http://www.3tail.net/tarot/card/cup.html

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