ペンタクルの4

王冠のような被り物をした男が一人、カードの中央に座っている。

男はサッカーボール大の金貨を四枚持っている。頭に一枚乗せ、両手で一枚を抱え、左右の靴底で一枚ずつ金貨を踏んでいる。

背景には街並みが広がる。


<絵柄のイメージ>

金貨を誰にも渡すまいと、大事そうに守っている


<正位置の意味>

「所有」「執着」「独占」経済的な安定、手堅い手腕、所持物を渡さない


<逆位置の意味>

「強欲」安定が崩れる、行き過ぎた保守、私利私欲



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



【幸せの中で 第四話】


 彫刻家として成功したおれの収入は飛躍的に上昇した。生活は潤い、ボロ家からまともな家に移り住んだ。早くも夢が叶う。


 経済的な安定を手放したくないので、仕事は堅実にこなす。

 おれの努力で稼いだ金。誰にも渡したくない。代金を上げてもっと稼いでやる。


 「強欲」「私利私欲が過ぎる」と影口を叩かれる。

 実力で手に入れた金だ、何が悪い? どうしようが自由じゃないか。俺はこの安定を崩したくないんだ。


 数か月後、俺に仕事を頼む奴はいなくなった。

 財産は底をつき、俺はまた貧しいに戻る。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「典型的な増長ぞうちょうからの転落ね。ビジネスは謙虚で誠実な関係を築かないと。お父さんも言ってたでしょ『身の丈に合ったことをしなさい』って」


 涼しい顔でイカソーメンをすする姉ちゃんに、俺は同意を悩んでしまった。


 自分の身の丈なんて、どう測ればいいのだろう。

 別の解釈をすれば「無理だと感じることには挑戦するな」とも聞こえる。冒険をしない人生は安全で安定だ。その代わり、自分の気持ちを抑えなければならない。


 知っているなら教えてほしい。

 俺が小説化を目指すことが正しいのか、測る方法を。


「でも確実なことばっかり続けても上手くいかないのが人生だしね。物語の男はつけあがったからダメだけど、いろいろやってみないと自分の器なんて分からないから」


 誰に言うでもなく、姉ちゃんは静かに夜食を食べ続ける。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「絵柄でも十分伝わってくるけど、正位置の意味は所有だよ」


「カードの男から『財産を渡してなるものか』という執着心が伝わってくるわ。こいつは絶対にケチよ。飲みに行っても自分の飲み食いした分だけを計算して、一円単位で払いそう。悪いとは言わないけど、私は絶対にご飯食べに行かないタイプ」


「ま、まあ執着の度合いはその時々で読み取った方がいいかな」


 所持物の維持という行為は動きがないため、変化を感じにくい暗示かもしれない。


「逆位置の場合なんだけど、より固執するか、手放してしまうかのどちらかになるみたい。どちらを示しているかは、場合によりけりだね」


「こだわった末に手放す……なんてこともあるかも。一周回って嫌いになったりするじゃない。カレーだって毎日食べたら飽きてくるし。そういえば最近食べてないわ……明日はカレーにきーめたっ」


 こだわりは大切だけど、柔軟に変化できることも重要だ。

 筋を通すのもほどほどがいいと思う。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ

↓ブログ「やっぱりたけのこぐらし」小アルカナ:ペンタクルの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-pentacle


※)「幸せの中で」の参考にさせていただいたサイトはこちら

↓++ヨウコのタロット占い++ 小アルカナの意味早見表・ペンタクル↓

http://www.3tail.net/tarot/card/coin.html

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