ワンドの10

男が十本の木の棒を抱えて、右遠方にある街の方へと歩いていく。

木の棒は男の背丈ほどある。背を向けていて表情は見えない。


<絵柄のイメージ>

何本もの棒を必死に運んでいる


<正位置の意味>

「負荷」「重圧」自分の力量を超えている、手に余る、責任に対するプレッシャー


<逆位置の意味>

「限界」「分離」「外圧」維持していたものを手放す、失敗



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



【商人シーマの大陸繁盛記 最終話】


 大陸一の商人になる夢を忘れてしまったのは、いつからだろう。


 周りの国を滅ぼして強国に導くなど、自分の身に余る仕事だった。人の命がかかる以上、責任も重い。精神的な重圧から目を背けていた。


 もう限界だ。そう思って抱えていたものをすべて手放すと、一気に心が軽くなる。無理をしていたんだ。


 シーマは商人としてあらゆる物を流通させ、人々の生活を豊かにしたかった。

 しかし、気が付けば国の役人となり、英雄と担ぎ上げられ、裏切り者の烙印を押されて、生まれた国へと逃げ戻っている。


 これで終わりなのか……違う。初心に帰ろう、商人として一からやり直すのだ。

 シーマの心の火は消えていない。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「シーマはいい人っていうか、周りに炊きつけられやすい性格だったのかしら」


 姉ちゃんは白いかりんとうをジャクジャクかみ砕きながら、緑茶のペットボトルに口をつける。


「なんでも上手くこなせるから周りどんどん大きなことを頼んでしまう。気がついたらもう断れなくなっていて、その繰り返しで自分を見失っていく……今の社会にもこういう人が結構いそう」


 しみじみと読後の余韻に浸ってくれてるけど、俺はそんなこと考えずに書いていた。姉ちゃんが深読みしたのだ。なんだか申し訳ない気持ちになってくる。


 だけどそこに水を差すわけにもいかないので「……だよね」と考え深くあいづちを打ってしまう。


 創作で人の心を動かすのが文章家なら、そこを目指す俺にとっては望むところ。そういう意図があったことにしよう。

 でも一応謝る。ごめんよ姉ちゃん。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「さてカードの勉強だ。ワンドの9と同じく、どちらの位置でも状況に押しつぶされそうな状態を暗示している」


「相当なストレスを感じている状態ね。こういう時は深夜も営業しているスーパー銭湯に行ってサウナで頭を空っぽにすべきよ」


 姉ちゃんはストレスが溜まるとサウナに行くのか……。


「えーと、正位置で出れば改善が見込める、ただし迅速な対処ができればだけど。逆位置だと失敗したり、持っている物を失う暗示になる」


 どちらにしてもつらい現状。あまり引きたくないカードだ。


「私はてっきり大アルカナと同じで、最後はいい意味を暗示するカードだと思ってたのに。ハッピーエンドじゃ終わらないんだ」


「でもさ、カードの男は右に向かっている。タロットで右は未来を示すから、ここで終わりじゃないんだよ」


 どんな状況でも進むしかないし、間違っても本人次第でやり直しができる。

 ワンドのスートは人生の根源を教えてくれる物語だった。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ

↓ブログ「やっぱりたけのこぐらし」小アルカナ:ワンドの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-wand


※)「商人シーマの大陸繁盛記」の参考にさせていただいたサイトはこちら

↓++ヨウコのタロット占い++ 小アルカナの意味早見表・ワンド↓

http://www.3tail.net/tarot/card/wand.html

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