ミッドナイト・タロットーク

第8話 スリーカード・オラクルで占ってみよう

「今日の占いは『スリーカード・オラクル・スプレッド』いま悩んでいる物事の原因と現状が分かり、さらにこれからどうすればいいのかを暗示する方法だ」

　タロットクロスを広げた食卓テーブルの中央には二十二枚の山札。俺の向かいに座る姉ちゃんはバナナをほおばっている。二本目だ。

「スリーカードってことは三枚使うのね。毎日一枚ずつ増やしていくの？」

「初心者向けの占いはこれでおしまいだよ。そのぶん、昨日よりも発想力が必要になるから、姉ちゃんも手伝ってくれ」

「いつも通り適当に口出すわ。占う内容は？」

「ズバリ、俺が賞の締め切りまでに小説を書き終えるかどうか」

　ただいま十月下旬。俺が応募したい賞の締め切りは来年の四月十日。

　まだ勉強していないタロットは五十六枚。一日一枚消化して約二か月。約四か月で書き上げる計画を立てている。

　これは去年書いた応募作品の執筆期間から計算したものだ。バイトや学校の定期試験などを加味しつつ、これくらいの時間があれば書けるはず……書き上げる。

　ただ不安はついて回る。だから今回タロットに聞いてみることにした。

　頼む、いい結果を教えてくれよ……！

【手順①　カードをシャッフルする】

　お馴染みの手順だ。いつも以上に集中してタロットと心を通わせる。いい結果を期待してしまうのは雑念だろうか。でも真剣だからこそ願ってしまう。

　占いにハマる人の気持ちがちょっとだけ分かった気がする。すがりたいんだ。

【手順②　カードを三等分して、それぞれの山から一枚ドローする】

　山札に戻したカードを三つの山に分けて横一列に置く。各山から直感で一枚ずつ引いたカードが質問の答えだ。

「俺から向かって左が悩みの原因を示す。真ん中が現状、右がこれから起こりうる未来の暗示になる」

　過去・現在・未来を表す三枚から悩みの解決法を導く、それが『スリーカード・オラクル・スプレッド』だ。

「どんなカードが出てくるのか……」

「知るはタロットのみ……いざっ、カードオープンッッ！」

　俺は三枚のカードを素早くめくった。

　☆　　☆　　☆　　☆　　☆

　左側（悩みの原因）に『法王』の逆位置。

　中央（現在の状態）に『塔』の正位置。

　右側（起こりうる未来）に『力』の正位置。

「ハイ詰んだ」

「真ん中のカードだけ気落ちしないの！　ほら、まず左のカードから」

　姉ちゃんは三本目のバナナの先で『法王』を指し示す。

「悩みの原因……期日までに仕上げられるかがなぜ不安なのか、ってことよね。逆位置の場合は頑固とか束縛って意味で、古い型を遵守し過ぎる、杓子定規が不利益につながる……」

　バナナの皮を一枚ずつ剥（む）きながら独り言のようにつぶやき、白い実が露わになったところで言った。

「決めごとが多いのよ、きっと」

「どういうこと？」

「あんたは普段適当だけど、やると決めたことにはしっかり取り組む性格でしょ。タロットの勉強するって決めたら毎日資料（レジュメ）作ってくるし、賞に応募する作品を書くために予定表とか書いたりして」

「……見たの？」

「私は知らないけど」

　お母さんだ。たまに机の上に置いたまま出かけたりしたことがあった。掃除で部屋に入ったときに見られたのかもしれない……あああ恥ずかしい！

「きっちり細かく予定を立てる分、その通りに進まなかったらどうしようって不安があるのよ。ま、世の中思った通りに行かないのが普通だから、柔軟（フレキシブル）に対応することを身につけた方がいいわ。これ、社会人からのアドバイス」

「ありがたく頂戴しておきます」

　原因を探っても意味がないとおもっていたけど、自分の性格や行動と向き合うと今後の参考になる。大切なものは引き出しにきちんとしまおう。

　☆　　☆　　☆　　☆　　☆

　問題は真ん中のカードだ。

　『塔』の正位置――救いなき最悪のカード。

「災難、悲劇、障害、破滅……終わりなの？　まだ一文字も書いてないのに？」

「危機的状況って意味もあったわ。現状が良くないから積極的に取り組まないといけないってことじゃない？」

「執筆期間には余裕を持ったつもりだったけど、予定を組みなおすか」

「時間もそうだけど、準備不足で危うい事態という読み取りもできるわ」

「そういえばタロットの勉強に気を取られて、ほかの部分はまだ全然練ってない……うわ、考えなきゃいけないこといっぱいあるかも」

　行き当たりばったりで書くと途中で詰まったり、支離滅裂な展開で首が締まってくる。最初の頃と同じ轍（てつ）を踏むところだった。あとで調べることをリストアップしておこう。

　☆　　☆　　☆　　☆　　☆

　現状は悪いけど、カードが暗示した未来は『力』の正位置。

　示すのは努力、根気。自分を信じることが成功に導く。

「今から頑張れば可能性はゼロじゃない。はぁ、最後に希望が出てくれて助かった」

「目標に対して手を抜かない……当たり前のことだけど、占いから教えてもらうと印象が強いわ」

「だから占いを信じる人が多いのかも」

　偶然引いたカードに他意はない。それを運命的なメッセージとして捉えるから、素直に受け取れるんだ。

　☆　　☆　　☆　　☆　　☆

「今日の占いはこんなところかな。明日からはゲームをやりこむからタロットの勉強は一時中断だ」

「ずっと思ってたけど『法王』も『塔』もゲームをやめろって暗示じゃない？」

「違うんじゃないかなぁ。昨日の占いでも買ってよしの暗示が出てたし」

　執筆計画にはあらかじめゲームで遊ぶ時間も組み込んでいる。そこには不安もないし、ラノベの資料集めは講義中にやるから問題ない。

　だから一週間は寝食を削って、どっぷりたっぷりプレイするんだ。

「まあいいけど。私も明日は久々に休みだし、寝まくるわ」

「それお母さん喜ぶよ。夜ご飯すげえ豪華になりそう、やったね！」

　来週からはいよいよ小アルカナの勉強だ。さらに道のりは長くなるが、すべてのカードを学び終えた日は達成感でいっぱいになるだろう。今から未来が楽しみだ。

※）タロット占いのスプレッドを確認したい方はこちらをご覧くださいませ

ブログ「やっぱりたけのこぐらし」：タロット占いのスプレッド紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-spread