第7話 ツーカード・オラクルで占ってみよう

「今日は二つの選択肢で迷っている場合の占い『ツーカード・オラクル・スプレッド』をやってみます」


 これも大アルカナのカードだけで行える初心者向けの占いだ。名前の通り、読み解くカードは二枚。両方の意味を比較すて考える必要があるので『ワンカード・オラクス・スプレッド』よりもステップアップした占いだ。


「少しずつタロット占いっぽさが出てきたわね」


 湯気の立つ饅頭にかぶりつきながら、俺の手際を見守る姉ちゃん。漂ってくる匂いからして、食べているのはピザまんと見た。


「で、何を占ってくれるの?」


「今日は俺自身のことを占ってみようと思って。ちょうどいま悩んでいることがあるから、それをタロットにたずねてみる」


 では始めよう。カードに問いかける内容を心に思い浮かべながら、山札を崩す。



【手順① カードをシャッフルする】


 やり方は基本的なシャッフルと同じ。ぐるぐると両手で回すように混ぜ、山に戻したあと三等分に分けては重ねるを数回繰り返す。中央に山札を戻せば完了だ。



【手順② カードを二枚ドローする】


 質問を思い浮かべながらカードをドロー。「AとBのどちらを選ぶべきか」「○○するべきか、やめておくべきか」など、内容はハッキリとさせておく。


 ドローしたカードは山札の上に置く。左がイエス、右がノーなど示している答えをちゃんと決めておくこと。


「よし……それではカードにたずねます」


 俺は山札の上に右手をかざす。別にそんなことをしなくてもいいけど、なんかこう雰囲気が出て気分が上がる。


 いい集中力だ。きっとカードもこたえてくれるはず。


明後日あさって発売の新作ゲームを買うべきでしょうか、やめておくべきでしょうか」


「待って」


「なんだよ姉ちゃん、いい感じに集中してたのに」


「そんなこと聞くの?」


「おいおいおい、俺にとってはすげー大事なことなんだって!」


 俺が全シリーズをプレイしている新作タイトルだ。発表されたときからずっと楽しみにしていた。


「この日をどんなに待ち望んでいたことか……ああ楽しみだ、早くやりたい!」


「いや、買えば?」


「簡単に言わないでくれよ、ゲームを買うと万札が一枚飛んでいくんだぞ。決断は慎重にするべきだ」


「楽しみなら買えばいいでしょ……あれ、今月お金がないって言ってなかった?」


「学費の積み立て口座から前借りする」


 そのぶん、来月のバイト代はいつもより多めに貯金して返す。


「……姉は今がっかりしているわ」


「なんでだよ、美味しくピザまん食ってくれよ! もちろんそれだけじゃない、ラノベのプロットも考えなきゃいけないし、タロットの勉強もしなきゃいけないだろ? 正直ゲームやる時間が取れるか心配でさ。人生の岐路きろに立っているわけ」


「ぜんぜん共感できない心配だけど……まあ、とりあえず聞いてみたら」



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



 思わぬ中断があったけど、気を取り直して再開する。内容は『新作ゲームを買うべきか、やめるべきか』。

 俺は集中して二枚のカードをドローし、山札の上に伏せたまま置く。


「右側が買うと決めたときの答え、左側がやめるべきと決めたときの答えだ。ではタロット……オープンッ!」


 左右のカードを同時にひっくり返す。


「買う方は『愚者』の正位置」


「やめる方は『皇帝』の逆位置ね。見た感じポジティブとネガティブがはっきりしてるから買うってことで」


「さっさと終わらせないでよ。ちゃんと意味を考えないと勉強にならないだろ」


 占いをしている目的はタロットカードを学ぶためだ。暗示を読み解いてこそカードについての理解が深まる。

 まずは買う方からリーディング開始だ。


「『愚者』が示すのは自由。正位置だと考えている方向への前進が吉、だったっけ」


「つまり購入をよしと暗示しているのね」


 分かりやすい暗示だ。続いて否定側――『皇帝』の逆位置を読み解いてみる。


「意味は横暴とか、自分勝手で周囲に迷惑をかける、だったな。俺自身で積み立ててる金から借りるわけだから、誰かに迷惑かけるわけじゃないし……はまらないぞ」


「リーダーシップの弱さから、計画が上手くいかないって意味もなかったかしら」


「ってことは、購入を見送る計画を立てると失敗するのか」


 失敗と言うより後悔の方が強そうだ。たしかに初回特典にはお得なダウンロードコンテンツが封入されている。ゲームはいつでも買えるが、特典付きを入手するなら今しかない。


「タロットが導いてくれた……俺はゲームを買う!」


「今日の占いって意味あった?」


「あったよ。本当に迷ってたんだから。占いは俺の決断を後押ししてくれたんだ」


 占いは答えを出すものじゃない。何かを決めるときの手助けをしてくれるツール……と、本に書いてあった。


「まあいいけどね。最後に選択するのはあんた自身だから」


 姉ちゃんは浮かれる姿の愚者を見下ろす。


「でも熱中し過ぎて崖から落ちないでね。あんたの将来はこれからなんだから」


「なに、心配してくれてるの?」


「弟がニートになるのが嫌なだけ。勉強もちゃんとしなさいよ」


 食べ終わったピザまんの敷紙をくしゃくしゃとまるめる。もしかしたら愚者の足元で吠える犬も、こんな風に助言しているのかもしれない。


「だいじょうぶ。明後日からゲームは短期間でやりこみまくるから」


 ゲームはきっと楽しいだろうが、いつまでも夢を見ているわけにはいかない。俺の一番の目標は最高の物語を書いて、賞を取ることなんだから。




※)タロット占いのスプレッドを確認したい方はこちらをご覧くださいませ

ブログ「やっぱりたけのこぐらし」:タロット占いのスプレッド紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-spread

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