第5話 今度こそ占ってみよう【タロットクロスを敷く・シャッフルする】
「で、テーブルに敷く布は用意したの?」
エビがたっぷり入った海鮮ドリアをふーふーしながら、姉ちゃんが昨日の準備不足を
漂う香りを嗅いでいるとグゥゥ、と腹が鳴る。
「あんた夜ご飯たべてないの?」
「今日は肉じゃがと鮭だった……そうだ、お母さん心配してたよ『あの子ちゃんと食べてるのかしら』って」
姉ちゃんは帰ってくるのがいつも遅いので、ご飯はいらないと言っている。だからコンビニやテイクアウトの夜食ばかりだ。たまに「それでいいの?」って思うものを夜食にしているときがある。昨日のプリンとか。
もちろん休みの日は家でご飯を食べるが、そもそも休みの日がない。少なくとも俺が大アルカナを勉強した二十二日間はすべて外食――つまり毎日朝から晩まで仕事だった。
お母さんはゴミ箱を開けるたびに増えていく容器を見ては、一つ屋根の下で暮らしているのに会えない姉ちゃんを想っている。そして俺は毎日それを見ている。
「心配しないでって言っといて」
お決まりの言葉だ。伝える俺の身にもなってくれ。
「それより敷くものは?」
「用意……できませんでした」
数分間忘れていた悲しみが戻ってくる。
「占いの時に敷くマット――正式名称はタロットクロスって名前だけど、それってどこにでも売っているようなメジャーなアイテムじゃないんだよ」
大学が終わった後に雑貨屋を数件まわってみたが、どこにも売っていなかった。
タロットカードを買った店にも行ったけど、売り場自体がなかった。どうやら一時的なフェアとしてタロットカードを取り扱っていただけらしい。
「そもそもクロス自体が高いんだよ。ネットで調べたら三千円近くするのばっかりでさ……布一枚だよ? 千円あれば買えるって思うじゃん」
今月はタロットカードや入門書を買ってるので、すでに結構な出費をしている。そのうえ千円札三枚が飛んでいくのはかなりキツい。学費の積み立てにはもちろん手を出せない。
「やっぱり世の中、金なんだよな……」
「専門の道具なんだからある程度は値が張るに決まってるでしょ。あんたのことだから、そんなことだろうと思ってたけど。はい」
俺の目の前に黄色いビニール袋が置かれた。
「なにこれ? ……うおぁ、布だ!」
中身はネイビーブルーの布が入っていた。広げると食卓テーブルと同じくらい大きくて、何より表面がふわふわと柔らかい。いつまでも触っていられる気持ち良さ。
「どうしたのこれ!? どこで買ったの!?」
「手芸用品店よ。他店舗の応援から自店に戻る途中に見かけて寄ったの。タロットクロスはベロアやベルベット生地が多いってネットに書いてあったから、それでも代用できるでしょ」
「ね、姉ちゃん……」
忙しいのにわざわざ買ってきてくれたなんて。泣いてしまいそうだ。
「金払うよ。いくら?」
「いいわよ別に。千円もしなかったし、私はお金持ってるから」
「神……いや女神さま!」
「いいから早く始めなさいって」
俺はさっそく卓上にクロスを敷いた。手触り滑らかな一メートル四方のベロア生地が木目のテーブルに夜空を広げる。
本当に質感が気持ちいい。ずっとさすさすしてしまう。
生地の端にはガタついている箇所もあるが、使うのは中心なので全く問題がない。
「これで準備は整った!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【準備その三:カードをシャッフル・カットする】
「『かーどのシャッフルにはいくつかの方法があります。いずれも優しく静かに、ゆっくりと行いましょう。リフルなど、カジノのディーラーが行うやり方はカードを
俺は入門書に書いてあるやり方を真似する。
① 中央に置いたカードをスライドするように山を崩す
② 両手で円を描くように混ぜる
③ 再びカードを山に戻し、適当に三つに分けてランダムに重ねる
特に難しい作業ではない。慣れれば自然とできるようになるだろう。
「決まったやり方があるのね。これで完了?」
「シャッフルした後はカットするって書いてある」
やってもやらなくてもいいと書いてあるが、せっかくなので覚えておく。
手順はカードの山を三つに分けて再び重ねる。これを数回繰り返すだけ。
「『分ける山の数や回数はタロティストによって異なります』……タロット占いする人のことをタロティストって言うんだ。これ登場キャラの職業に使えるな」
表記するなら
「じゃあいよいよ占い開始だ。初めは初心者向けの簡単なやり方で、一日の運勢を占ってみよう」
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