大アルカナだけで占ってみよう

第4話 実際に占ってみよう【集中する・場を整える】

「昨日で大アルカナの勉強は完了、いよいよ実践に入りたいと思います!」


 真夜中にガッツポーズを掲げテンションブーストする俺。食卓テーブルの中央には二十二枚のカードが積み重なっている。


「全部使わなくてもタロット占いって出来るの?」


 姉ちゃんはプリンを食べながら、プラスチックスプーンの先を五十六枚の山札へと向ける。


「正確に占うには七十八枚すべて使うべきだけど、大アルカナだけを使って占うのもありって本に書いてあった」


 初心者はまず大アルカナだけで占うのがやりやすい。入門書にはそう書いてある。


 一日一枚勉強するペースで進めると、小アルカナの意味を全部知るのは約三か月後。さすがにちょっと飽きそうだ。やっぱり勉強は楽しくやりたい。


 それにせっかくタロットを題材にしたラノベを書くんだ、きっちり知識を入れてから取り掛かった方がいいものが書けそうな気がする。時間にも余裕あるし。


「物量と効率は一般的に反比例するしね。いいんじゃない」


「よっし、じゃあいよいよ占いスタートだ。高ぶってきたぁ~!」


 俺は入門書の実践編ページを開いた。いつもと違って予習はしていない。三週間前に一度ペラ読みして以来、久しぶりに目を通す。


 とりあえずテキストの説明をそのまま読みあげる。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



【準備その一:占いを始める前に】


「『占いをする前に集中力を高めましょう。集中することでカードが伝えたいメッセージを受け取りやすくなります』」


 なるほど、と口から出た後に思う。


「集中ってどうやるんだろう」


「あんたの一番苦手な行動ね」


「姉ちゃんはいつもどうやって集中してるの? 仕事のときとか」


「そうねー……」


 スプーンを口にくわえたまま部屋の照明を見上げた。持ち手部分がぴょこぴょこと上下する。


「仕事中は特に集中しようとか思ってないわ。やらなきゃいけない環境だし。家で仕事するときは……早くやらないと寝る時間が少なくなるから自然と集中してるかも」


「つまり集中する環境にいれば自動的に集中するってこと?」


「うん」


 参考にならない……ていうか、寝てるとき以外は全部仕事みたいな状態で生きているのがすごい。俺には地獄だ。


「外部要因じゃなくて自発的に集中する方法とかないかな」


「リラックス状態がいい集中を生み出すって、何かの本に書いてあったけど」


「俺リラックスすると眠くなっちゃうんだけど」


 だからこそ初めにテンションを上げたのだ。

 落ち着いたら負ける、眠気に。


「じゃあ諦めるしかないわね。閉店ガラガラ」


「店じまいしないでよ!」


 目の前で引き下ろされる両手を掴んで止める。こんなところで苦戦している場合じゃない。


「変なところでつまづいてるな……いい集中法を見つけないと」


「とりあえずやってみたら? 頭を使えば自然に集中力はついてくるだろうし、大事なのって集中力じゃなくて暗示を読み取る発想力でしょ」


「たしかに」


 考えても分からないなら進むしかない。『戦車』のように行動第一だ。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



【準備その二:占いの場を整える】


「『カードを大きく混ぜるため、占いは広い場所で行いましょう』姉ちゃん、このテーブルでやっていい?」


「今さらでしょ」


 置いてあったプリンカップを持ち上げて、カラメル部分を口に運ぶ。これで食卓テーブルの上にはカードしかない。


「次は『片づけたらタロットカードを広げるためのマットを敷きます』……」


「? どうしたの?」


「マット……ない」


 しまったああああ。タロットカードさえあれば占いができると思い込んでいた。

 まさか他にも道具が必要だなんて。


「マットは必ず敷かないと駄目なの?」


「『タロットに傷がつかないようにする保護目的と、カードのパワーを強めるという意味があります』」


 これを『場を整える』と言うらしい。


「整えるかあ。代用できそうなものはないの?」


「えーと手ぬぐい、ハンカチ、汗拭きタオル、ランチョンマット、パソコンのほこり避け布……」


 だめだ。全然大きくないし、タロットパワーが逃げていきそうだ。姉ちゃんも代用できそうな布は持っていないらしい。


「実戦はまた明日ね」


 占いの道は遠く険しい。今日は閉店ガラガラ。

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