XVIII 月【THE MOON】

XVIII 月【THE MOONムーン


夜空に月が浮かぶ。太陽のような光を放ち、月面には目をつぶる人の横顔が映る。

月の両側には塔が建っていて、月の光が散っている。

カード下部の地上には月を見上げる犬と狼。湖からザリガニがい出ている。

ザリガニの前には、一対の塔のはるか先へと続く一本の道。


<絵柄のイメージ>

 満ち欠けする月に犬と狼が吠えている


<正位置の意味>

 曖昧・幻惑・変化などの『不安定』、嘘・裏切り・隠れた敵など『見えない不安』


<逆位置の意味>

 解消・回復などの『好転』、誠実さなど



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「星のあとが月って覚えやすい並びね。内容も良さげだし」


 箸でつまんだギョーザを三日月のように浮かべる姉ちゃん。白いパック容器にタレがぽたりと落ちた。


「ところが『月』は一癖あるんだよ」


「不穏な空気を出すじゃない。優しくないってこと?」


「月は無慈悲な夜の女王なんだよ」


 有名なSF小説のタイトルを意味ありげに言ってみる。読んだことはないし、関係もない。でもあやふやな言葉は、このカードの暗示にぴったりだ。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「まずは月そのものから読み解きます」


 謎多きは絵柄の下半分なので、まずは分かりやすい部分から。

 といっても簡単な説明じゃ済まない。


「月は女性の象徴とか、人間の内面を示す。それと月は満ち欠けして、形が変化し続けるから『不安定』の象徴なんだ」


 カードの絵柄も満月に三日月が重なっていて、満ち欠けを表現している。


 月から伸びている三十二本の光線は解釈が多数あったが『太陽』との対比説がしっくりきた。月と太陽は対極に位置する。詳しくは明日の勉強で説明しよう。


「月の下に散っているしずくみたいなのは『塔』の絵柄に書かれたもの一緒。神の手が介入していることを表していると思う」


 雫の両側に建つ塔も『死神』に描かれていたものと同じく、次のステージへ続く門であることも付け加える。


 後半に時間をかけたいので、ここまではサックリと説明した。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「意味が気になるのは三つの生き物ね。中央のザリガニは分かるけど、右で吠えているのが狼で、左が犬……かな? なんでこの三匹?」


 『月』最大の謎である。事前に考えておいた分かりやすい説明を始める。


「今まで勉強した絵柄って、ワンペアの物が多くなかった?」


「『女教皇』『正義』の柱、『法王』の僧侶、『恋人』『悪魔』のアダムとイブ、『戦車』のスフィンクス、『死神』『月』の塔、『節制』の杯、『塔』の権力者、『星』の水瓶……」


「ギョーザをもぐもぐしながら全部出てくるのがすごいな」


 ちゃんと俺の話聞いてくれてるんだな……嬉しい。


「ペアになっている物は何かしらの対立を象徴していた。四足歩行の動物も同じ」


 右の狼は野生=内面の本能を示し、左の犬は理性や知性、協調性を示す。


「人間の本能と理性、二つの間で揺れる心の葛藤を表しているのがこの二匹なんだ。月と同じく心の中、精神面の表現にあたる」


 心の感じ方とは別に欺瞞ぎまんや物事の真偽を計って、信じるべきか疑うべきか答えを出す。人間社会でバランスを保たなければならない感性だ。


 そしてザリガニ。

 『節制』や『星』で学んだ通り、水は無意識の象徴だと前置きしておく。


「神話の時代、ザリガニは下等で弱い生物だったんだって。それが水から地面に上がって、月に向かって……あるいは二つの塔の先に続く道を進む」


 道の先には新しいステージが待っている。しかし弱い生物が到達できるのかは果敢なチャレンジだ。つまり、


「このザリガニは挑戦、試練の象徴。外の世界へ向かう意志の力を示している。同時に『自分はたどり着けるだろうか、怖いなあ』という憶する気持ち、戸惑い、不安を持っている」


「なるほどねえ。どうしてザリガニは別の場所に行こうと思ったのかな」


「うーん……月の光に当てられたんじゃないかな。居心地のいい場所を捨ててもいいから、神の雫が注ぐ先へ行ってみたいと」


 月光ルナティックには『精神異常』という意味もある。脆弱な生き物に魔性の光を射し、魅了させたのかもしれない。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


 『月』のカードまとめ。司るのは心の安定だ。


 正位置で引くと、迷宮に迷い込んだような手探り感や不安で、脱出が難しい。そのうえ周囲の情報が嘘だったり、裏切られたり、結構散々な状態に陥る。


 逆位置で引くと、現状からの出口を見つけられる、もしくは迷い込んでしまった原因を特定できる。光明が差し込むような意味合いだ。


「『塔』と並んで出てほしくないカードだな」


「最初のイメージは幻想的だったのに、意味を知るとまったく違う印象になったわ」


 一見悪いカードには見えない、というのが落とし穴なのだろう。

 人の心は移ろいやすく、自分の見たものすら信用できなかったりする。そんな揺らぎやすい心の弱さを暗示するカードなのかも。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ。

ブログ「やっぱりたけのこぐらし」:大アルカナの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-big

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