XIV 節制【TEMPERANCE】
――XIV 節制【
中央に天使が立つ。白いローブに赤い翼。額には丸い装飾品をつけている。
顔には後光が差す。両手にはそれぞれ
胸の部分には枠に囲まれた「△」の印。右の素足は湖に
背景には花が咲き、山へ続く一本の細い道が見える。二つの山の間から太陽が輝く。
<絵柄のイメージ>
両手の盃で水の流れをコントロールしている。
<正位置の意味>
自制・調整などの『節度』、安定・調和などの『中庸』
<逆位置の意味>
波乱・不調などの『不安定』、浪費・消耗など
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「節制……日常では聞かない言葉だけど。本来の意味は知っているの?」
「『欲望におぼれて度を越すことがないように適度につつしむこと』ってGoogle先生が教えてくれた」
「節度って意味に近いわね」
言いながら姉ちゃんはサラミの乗ったピザにかじりつく。深夜にそんな高カロリーのもの食べて大丈夫なのか。
「
「いや……いつもお疲れさまです」
欲望じゃなくて必要だから摂取している、と考えておこう。
しかし姉ちゃんと同じく、絵柄からも節制というイメージは感じられない。一体なにをつつしんでいるのか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「まずは天使が何をしているのか、そこから見ていこう」
赤い翼の天使は『恋人』にも登場した。同じならミカエル説を当てはめたい。
ウェイトの作ったタロットには同じ天使が描かれている。きっと推し天使なんだろうな。
「頭に着けている医者の
「胸の三角形にも意味があるの? なかったらただのダサいデザインの服よね」
「天使の服装は実用性重視なんだよ、たぶん」
おしゃれな服を身に着けるのは創作の世界だけだ。
「三角形は錬金術の三元素――『運命の輪』で勉強した硫黄・水銀・塩だな。周りを囲う四角形は地水火風の四大元素なんだって」
「今まで学んだことが盛り込まれているわね」
「世界を構成する要素だし、完全な存在には欠かせないんだと思う」
完璧キャラの設定としては申し分ない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「で、この天使は
「暇つぶししている天使に後光は差さないよ。天使の行為にはいくつか解釈がある」
まずは杯の水を均等にしている説。バランスやコントロールを表し、世の中の節度を守っていると捉えられる。
水で杯に入っているぶどう酒を薄めている説。ストレートで飲まず、水で割って飲めば泥酔せず、節度を守ることができる。妙にしっくりくる捉え方だ。
実は水を入れ替えて遊んでいる説もある。
超絶技巧な注ぎテクニックで丁度良い量に配分しているのだとか。さすが天使、訳の分からない遊びにも手を抜かない。
「ちょっと、私の暇つぶし説と変わらないじゃない。なに真剣な顔して描かれてるの? サボってる間にも給料は発生してるのよ、働きなさい」
「休日かもしれないじゃんか……いずれにしても節制を暗示する行為なんだ」
さらに二つの杯は対極を表している。陰と陽、男と女、霊と肉などなど。
また水を移し替える行為は、錬金術の基礎である調合を示唆している。二つを混ぜ合わせることで世界は作られているのだ。水の流れは力の流れを表しているとも考えられる。
人も金も流動しているから世界が
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「背景の補足もしておくよ」
後ろの二つの山へ続く道と輝く太陽は、上位の世界を表す。死神のカードにもあった次のステージに進む道だ。魂はさらに高みを目指す。
咲いている花は
イリスは水差しに汲んだ水をまき、世界に潤いを与えるそうだ。花は杯から連想して描かれたのだろうか。詳しいことは分からなかった。
「天使が片足だけ水の中に入れてるのは、ぶつけたから冷やしているとか……冗談で言ったけど当たってるかも」
「絶対に違うけど、なんでそう思ったの?」
「だって我慢を見せないために落ち着いた顔をして、することがないから杯で水遊びする……ぜんぶ繋がるわ!」
「無理やりだろ。水面は無意識、地面は意識を表しているんだ。無意識と意識を両立して上手に節度を守りましょうとか、そんな暗示かな」
何事も
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『節制』のカードまとめ。カードが示すのは日頃のバランスだ。
正位置で引くと、節度を保っているので穏やかに過ごすことがよい。
逆位置で引くと、生活リズムが乱れているので、物事がうまくいかなくなる。
「言いたいことは分かるけど、自覚しにくいわよ、節度って」
「日々平穏がベストってことじゃない?」
「常に波風の立つ人生を順風満帆とは言わないものね」
人生は目立たず引っ込まず、穏やかが一番。そんなことを示してくれるカードだ。
※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ。
ブログ「やっぱりたけのこぐらし」:大アルカナの絵柄紹介↓
https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-big
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