XIII 死神【DEATH】

――XIII 死神【DEATHデス】――


白馬に乗った甲冑かっちゅう姿の騎士が右を向いている。騎士の顔は骸骨がいこつ

騎士の左手には黒い旗が握られており、描かれているのは白い薔薇。

地上には騎士に手を伸ばす聖職者、顔をそむける女性、花を差し出す子供がいる。仰向けに倒れる男性のそばには冠。背景には滝、船、二つの塔の間から太陽が昇る。


<絵柄のイメージ>

 終わりを告げに来た死神に対して、様々な人間の様子。13は『不吉』を示す。


<正位置の意味>

 終局・決着などの『清算』、リセット・転機などの『ターニングポイント』など


<逆位置の意味>

 再生・始まりなどの『誕生』、立ち直り・望ましい変転などの『上昇』



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「ついに死神の元にたどり着いた……今こそ決着の時!」


「クライマックス感を出してるけど、進捗は全体の二割くらいでしょ」


 アップルパイを食べながらのん気に指摘してくる姉ちゃん。

 そりゃあまだ七十八枚には遠いけど、大アルカナ全体でいえば折り返し。二クールのアニメで言えば第十二話だ、ひとつの山場ではある。


「タロットのこと知らなくてもパッと見で感じるマイナスカードね」


「実はそうでもないんだよ。世間一般では負の意味しか知られてないけど」


 引きたくないカードはこの後に控えている。真のボスはそいつだ。

 外国では忌み数とされる「13」を掲げる死神とはどんなカードなのか。じっくりと絵柄を勉強していこう。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「あれちょっと待って。タロットって愚者が順番に遭遇している場面を描いているのよね。じゃあ愚者はここで死ぬってこと?」


「調べた解釈だと、『死神』以降は肉体を離れて精神世界に移動するらしい」


 ここからは魂となって進んでいく。だからこその折り返し地点だ。強まるファンタジー感にワクワクしてしまう。

 十四枚目以降は具体的な人物がほぼいない。よりイメージが大切になるはずだ。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「私の死神のイメージって黒い服に鎌なんだけど、これは騎士みたいな格好ね」


 姉ちゃんのイメージは一般的だろう。近年のラノベ界では死神の種類も多様を極め、メイド服を着ていたりツインテールだったり普通に美少女だったりする。


 もちろんタロットの死神に萌え要素はない。ちゃんとモチーフがあるのだ。


「これは新約聖書『ヨハネの黙示録』に登場する死の騎士をモデルにしているらしい。軍旗に描かれた薔薇は魔術団体『薔薇十字団』のシンボルで、生命とか、苦しみからの解放を表すんだって」


 鎧の黒は生命の終焉にして『源泉』、馬の白は純粋と共に『無』を表す。

 人生を白紙にし、死後の行き先を案内する……そんな暗示だろうか。


「解放はありがたいけど、命がなくなるのは人間としてちょっとねえ……描かれている人の反応もいろいろだし、みんな考え方が違うのかも」


「実際に四人は死ぬことに対して別々の意味を暗示しているみたい」


 死神と向き合う聖職者が示すのは信仰の価値。恐怖を乗り越える支えになる。

 倒れている男は王様。変化に耐えられなくて自分を見失っている様子。

 顔を背けている女性は変化を受け入れられず、子供は純真無垢であるがゆえに死神と向き合い、花を差し出す。


 もしも明日で世界が終わるなら、と質問したみたいだ。答えはみんなばらばら。


「この聖職者、お金を積むから天国に行きたいとか取引してそう。着てるものも豪華だし、お布施で稼いでるのね」


「また下衆げすな想像するなあ」 


 地獄の沙汰も金次第と言うけれど、この死神には通用しなさそうだ。骸骨の顔向きをよく見ると、聖職者を無視して子供を見ているようにも取れる。

 やはり純粋な魂こそ導くべきと考えているのか。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「背景もいろいろ書き込まれているわね」


 船、滝、カード右側には二本の柱からのぞく太陽。東西南北に当てはめると右は東なので、太陽は朝日を意味する。よく見ると滝には洞窟らしき穴が開いているなど、情報が多い。


「背景は船が洞窟を通って滝の上に出て、太陽にたどり着く流れなんだとか。これは魂が次のステージへ到達する通路らしいよ」


 高いところに上らなければ太陽の出る場所にたどり着けない。そんな暗示だ。

 もはやお馴染みとなった二本の柱は、奥に神の世界があることを示している。


「なんだか命を奪いに来たとは思えない意味ばっかり」


「元から魂を取るつもりじゃないんだよ。だから刈り取るための鎌を持っていない」


 死神が暗示するのは肉体の終わりではなく、精神の終わりだと読み取れる。魂は一度死んで、より高みに生まれ変わる。


「つまり死神が意味するのは死と、その先にある再生なんだ」



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



 『死神』のカードまとめ。


 正位置で引けば、これまで手に入れたものを失い、真っさらになる可能性。

 逆位置で引けば、結論まで時間がかかるも、生まれ変わり新しいスタートを切る。


「どっちにしても終わりだけじゃなくて、その先があることを前提としている。違いはそこに至るまでの過程だ」


 逆位置の場合は精神の死=無気力状態を濃く暗示しているから、再びスタート地点に立つまで時間がかかる。気持ちの切り替えが重要だ。


「未練を残さず、新しいレールに切り替えた方がいいみたいね」


「ゲームオーバーになってもやり直しはできるってことだな」


 朝日が必ず昇るのだから。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ。

ブログ「やっぱりたけのこぐらし」:大アルカナの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-big

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