Ⅲ 女帝【THE EMPRESS】

――Ⅲ 女帝【THE EMPRESSエンプレス】――


豪華な椅子に堂々と座り、顔の横で杖を掲げる女性。

冠を乗せ、赤と緑の果物柄のローブを纏う。

椅子にはハートの形の細工が立てかけてあり、金星のマークが彫られている。

背後には森と小川、手前には黄金の穀物畑が広がる。


<絵柄のイメージ>

 気品、高貴、美しさ、自然の豊かさなど、3は『生産』『増加』を示す。


<正位置の意味>

  愛情、結婚、妊娠と出産、家庭の形成などの『繁栄』『豊穣』『生命力』、包容力などの『母性』


<逆位置の意味>

 軽率、意志薄弱、優柔不断などの『浪費』、わがまま、嫉妬、虚栄心などの『過剰なエネルギーの暴発』



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「前回の女教皇に続いてまた権力者」


 カップラーメンをすする姉ちゃんが重そうな視線をカードに向ける。汁は飛ばさないでくれよ。


「愚者みたいな一般人がアポイントメント取れるような立場じゃないでしょ」


「城の外でたまたま出会ったんじゃないかな。絵柄を見ると、川のほとりで余暇を過ごしているように見えるし」


 なんともドラマチックな偶然性だ。愚者がどうやって女帝と出会ったのか……想像力を膨らませると面白い。


 人物のモデルはエジプトの女神イシス説が強い。女教皇のモデルもイシスであることから、2枚のカードは関連性があるとされる。つまり女教皇が結婚して女帝になったのだ。


「子会社の女社長が親会社の社長と結婚して業務を引継ぎ、ホールディングカンパニーの代表になっちゃったってこと?」


「よく分からんけど全然違うと思う」


 姉ちゃんのファンタジー設定を現代社会の縮図に当てはめる思考はどうにかならないのだろうか……その方が分かりやすいなら、それでいいけど。


 女教皇は顔のヴェールによって神秘性を増していたが、女帝は付けていない。これは精神的位置づけの存在が、現実的位置づけへと変化したことを表すようだ。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「女帝の服の模様って、女教皇のタペストリーと似てるっぽいわね」


「よく覚えてるなあ。服もタペストリーも両方ザクロ、これは女性を象徴しているんだって。ついでにいうと、女帝のお腹には赤ちゃんがいるらしい」


 たしかに女教皇よりも輪郭がふっくらしていて、母親っぽい顔つきに見える。


「それで母性や母親に関することを暗示しているのね」


「新しい命が生まれて家庭が豊かになる。これが繁栄と豊穣だ」


 豊穣に関しては、背景の豊かな自然が大地の産出力を表している。 


 十二の星をあしらった冠は宇宙の産出力を表し、宝玉を飾った杖は生きとし生ける万物に対しての影響力を示す。その力は地母神と言ってもいい。


 母は強し、なんだろうな。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「椅子の横にあるハートマークは何かしら。インスタ映え?」


「『いいね』稼ぐための写真じゃないから……それは盾だよ。『攻撃はせず防御だけですよ、だって平和を愛しているのですもの』の象徴」


「あと金星だっけ? このマークは何、映え狙い?」


「なんで女帝にインスタグラムさせたがるんだよ。金星は愛とか平和を意味する惑星だから描かれているんだと思う」


「母性推しばっかり……フォロアー増やしに必死な感じがちょっと引くわ」


 そんな角度でタロット掘り下げるのは姉ちゃんくらいだよ。


 ちなみに金星は英語でヴィーナス。ギリシャ神話に出てくる愛の女神だ。

 女神イシスは他国でヴィーナスと姿を変え、崇め奉られていたなんて話があったりする。深いつながりがあってカードに刻まれているのだろう。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



 『女帝のカード』まとめ。


 示しているのは『母性』と『実り』の二つ。

 正位置で引くと、それらがポジティブに出る。新しい命が実る、努力が実る。

 逆位置で引くと、意味は枯れてしまう。なんとも悲しい暗示だ。


「結婚に関するイメージもあるけど、妊娠とか出産を重視した意味合いが強いかな。愛の力が結晶化するって感じ」


「あんた言ってて恥ずかしくないの?」


「ほっとけよ。作家は恥ずかしさで単語を選ばないんだ」


 言葉同士を関連付けると、効率よく記憶を定着できるらしい。誰に言うわけでもないから恥ずかしくても構わない。大切なのは意味を覚えること。


「逆位置の枯れるってイメージは覚えやすいわね。対義語じゃないけど」


「あくまでもイメージだからな。果実が実っている木の反対は、やせ細って枯れた木だろ。他の文献を読むと逆位置は『生命が溢れすぎた故の不都合』って解釈も多い」


 エネルギーが余り過ぎて浪費してしまう。主張が強くなってしまう。依存し過ぎてしまう。


「過剰な力を使いこなすには相応の器が必要なんだ」


 有り余る力は暴走し身を亡ぼす。小説やゲームの悪役から学んだ教訓だ。

 分相応の大切さ。


「逆位置に現れる心の乱れってのも女教皇と近い気がするな」


「同一人物なんでしょ。大人になってからの性格なんて簡単に変わらないもんよ」


 差別化するなら女教皇の逆位置は精神の不安定、女帝は精神の増長だろうか。

 どちらにしても心の穏やかさを大切にしたい。そう思わせてくれるカードだ。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ。

ブログ「やっぱりたけのこぐらし」:大アルカナの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-big

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