Ⅰ 魔術師【THE MAGICIAN】

――Ⅰ 魔術師【THE MAGICIANマジシャン】――


棒を持った右手を掲げる男性。おろした左手は地面を指さしている。

赤いローブを着て、頭上には『∞』マークが浮かぶ。

目の前に置かれたテーブルには剣・杖・盃・金貨が置かれている。

周囲には赤いバラの花が咲いている。


<絵柄のイメージ>

 知性が高くて学のある風体、大きな力を操りそう、数字の『1』は全ての源。


<正位置の意味>

 物事の始まり、閃き、理解力、創造性、知識欲などの『頭の良さ』、コミュニケーション力などの『対話』、技術などの『才能』、エネルギー、チャンスなど


<逆位置の意味>

 混迷、無気力、スランプ、空回りなどの『能力不調』、消極的、再スタートなど



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「二枚目の魔術師は頭の良さ、学問やコミュニケーションに関係した事柄を表す」


 ゲームの魔法使いはだいたい賢さのパラメーターが高い。魔法は頭が良くないと使えないからだろう。そのへんから結びつけていけば意味を紐解きやすい。


「マジシャンって言われたら手品師だと思うけど、普通は」


 ゲームを一切やらない姉ちゃんの意見は一般的だと思う。


 世間でマジシャンと言えば鳩を出したり、トランプマジックを披露する手先の器用な職業だ。あり得ない現象を見せる、という点は共通している。


「昔は手品も魔法も似たようなもので見分けがつかないものだったんだ」


「今もそうよね。タネが分からないと魔法みたいなものだし」


 コーンと千切りキャベツの咀嚼そしゃく音がシャリシャリ響く。


 SF作家のアーサー・C・クラークが提唱した『クラークの三法則』を思い出す。そのうちの一つが「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」だ。


 科学とは奇術、奇術とは現代でいうと手品。

 もしかすると古き時代の魔術師も、仕込んだタネを魔法として見せていたのかもしれない。


「頭がいいと話も上手そう。よく見たらメンタリストみたいな雰囲気あるかも」


「パフォーマーってこと? だんだんうさんくさい奴に見えてきたな……」


 手品師は熟練した技術以外にも、観客をリードする口上力が必要だとテレビで観た。魔術師のカードにも「手先の技術」「コミュニケーション能力」の意味がある。


 ようするに魔術師は頭が良くて口が上手い。なんか詐欺師みたいだな。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「このポーズは? よく見れば顔も軽くドヤってるようにも見える」


「何か披露しているのかな……もしくは魔法的にカッコイイポーズしてるだけとか」


「それで『周囲の注目を集める』って意味があるのね」


 意図しない理由で姉ちゃんが納得してしまった。調べた内容で上書きせねば。


「コホン。右手で棒を掲げて左手で地面を指さしているのは『神の力を地上に降ろす』ことを表しています。頭の『∞』マークはキリスト教の三位一体、もしくは無限の力の象徴。腰の腹帯はギリシャ神話に出てくるウロボロスと呼ばれるヘビを模していて、こっちも無限とか永続を意味している」


「つまり服装やポーズで大きな存在だと表現してると。ファッション雑誌のカリスマモデルなの? 大地ガイアが俺にもっとドヤれとささやいているの?」


「知性を暗示するカードに知性置き去りのキャッチコピーつけないでくれ!」


 やめろよと言いつつ、俺もファッション雑誌のモデルにしか見えなくなってきた。


 実際にすごいやつかどうかは、中身を知らなきゃ見極められない。はたして魔術師なのか、ペテン師なのか、読者が追いつけないファッションリーダーなのか。


「そうそう、服装を解説すると赤いローブは情熱、白いインナーは純粋を表す。赤いバラも同じだ」


「たしかその配色って愚者のカードにもあったわよね」


「そう。愚者と魔術師は対になっているんだ」


 愚者は知恵のない者で魔術師は賢い者。

 無職の愚者と職に就く魔術師。


 当時の魔術師は社会的地位もあり、憧れの存在だったらしい。愚者から見れば魔術師は遠く夢のような職業だったのかも。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「テーブルの上の小道具は……どんなマジック?」


「そろそろ手品から離れてくれよ姉ちゃん。聖杯・金貨・杖・剣の四つは宇宙を構成する四大元素、地水火風を示している」


「宇宙って聞くと壮大だけど、それってすごいの?」


「すごいと思う。だって宇宙だし」


 アホみたいな返答をしてしまった。ラノベ作家志望として語彙力を磨かなければ。


 ゲームだと四つの元素による属性は常識的だ。すべてを操る魔法使いは使い勝手がいい。カードが表すのも自然のエネルギーを手元に置く人間ってことだろう。


 四つのアイテムは小アルカナのトレードマークでもある。それは大アルカナの勉強が終わった後で、あらためて勉強していこう。



 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



 『魔術師のカード』まとめ。


 正位置で引くと、エネルギーの充実や頭の良さに関係したポジティブな意味。

 逆位置で引くと、考えの甘さに付け込まれたり、失敗を招くと捉える意味。


「知性や閃きに優れ、社交性を発揮。何かを始めるも良い頃合いってことね」


 魔術師のカード番号は『1』。一歩目を踏み出すスタートにもふさわしい。


「逆なら未熟さが露呈すると。勉強でも仕事でも、計画性を持って物事に当たれって暗示ね。あんたも気をつけなさい」


「俺はいつでも正位置のようにエネルギッシュだぜ。言葉の魔術師と呼ばれる将来性に期待してくれよな」


「逆位置だと『口は災いの元』って意味もあるわよ。あんたを見てたほうがよっぽど勉強になるかも」


 言ってろ。知性と話術で高みを目指す存在が魔術師だ。




※)タロットの絵柄を確認したい方はこちらをご覧くださいませ。

ブログ「やっぱりたけのこぐらし」:大アルカナの絵柄紹介↓

https://takenokogurashi.com/tarot-arcana-big

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