第2話 参考書とカードを買ってこよう

「姉ちゃん、俺はどうやって勉強すればいいと思う?」


 夜も更けたある日のリビング。食卓テーブルに座る姉ちゃんの疲労が濃くなる。きっと家に帰ってきて疲れが一気に出たんだろう。社会人は大変だ。


「あんたは昔っから目標だけ決めて手順を考えないわね」


「小説は中身より先に結末を考えるのがセオリーなんだぜ」


「知らないけど」


 テイクアウトしてきた牛丼をほおばり、インスタントの味噌汁をすする姉ちゃん。


「どのくらいの知識があれば書けるの」


「うーん……とりあえず占いができるくらいの知識があればいいかも。あっ、ラノベ作家兼タロット占い師ってスーパーかっこいいかも!?」


「手段が目的を追い越してるから。まずは占いの本でも買ってきて読みなさい」


「それはもうやった」


 俺がテーブルの上に本を出すと、姉ちゃんが牛丼容器の隣まで引き寄せる。


「『ゼロから始める入門書シリーズ 簡単に占える超やさしいタロットカード』どうしてこれにしたの」


「ビビっときたから。で、講義の間に全部読んだ」


「親が聞いたら泣くわ。読み終わったなら、あとは見ながら書けばいいじゃない」


「なーんかイマイチ頭に入らなかったんだよね。やっぱり実物を触った方が覚えやすいっていうか、俺って実戦派だし」


 静まり返ったリビングにずずず、と味噌汁を飲む音が染み渡る。


「てゆーわけで、学校終わりにカードも買ってきた」


 俺はタロットカードの箱を見せた。ちょうどトランプが入りそうな大きさだ。

 パッケージの上部には『THE RIDERライダー TAROTタロット DECKデッキ』と書かれている。


「こんな箱に入ってるのね」


「タロットカードってすげーいろんな種類があるんだ。その中で初心者向けが二種類あって、入門書に書かれてた絵柄と同じやつにした」


 それにさ、と箱の下部に書かれた英語を指さす。


「『THE MAGICIANマジシャン』。テーブルの上に剣とかも置いてあるし、ラノベ作家を目指す俺と巡り合わせ――運命さだめを感じたね」


「取り扱い店舗が多いだけの必然でしょ。タロットもいいけど大学の勉強もしなさい。ごちそうさま」


 姉ちゃんが流し台で容器をすすぐ後ろで、俺は冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出す。


「そういやあんた就活は? 三年の秋なら動いてる友達とかいないの」


「周りはもうやってる。でも俺は文章でお金を稼ぐから」


「趣味は自由だけど現実も見なさいよ。大学生の肩書きがなくなったら完全に大人扱いなんだから」


「分かってる。早く寝ろよ姉ちゃん」


「まだ寝ないわよ。来週の販売コンクールの準備するんだから」


 姉ちゃんは自分の部屋に戻っていった。

 あんな生活を見て、社会人になりたいとは思えない。


 

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