ミッドナイト・タロットーク

竹乃子椎武

序章 長い旅の始まり

第1話 興味を持つきっかけはなんでもいい

「姉ちゃん、俺タロットカードの勉強をしようと思う」


 ある日の深夜のリビング。しんどそうにコンビニ弁当をつつく姉ちゃんに向かって、俺はこれからの目標を宣言する。


「すれば」


「そこは『なんで?』って聞いてくれよ」


 黙々と夕食にいそしむ姉ちゃんは、面倒な仕事をこなすように言葉を出す。


「なんで」


「俺さ、すっごいアイディアを思いついたんだ!」


 待ってましたと言わんばかりにせきを切り、姉ちゃんの体面に座る。


「これなら次の新人賞は絶対獲れる、書籍化確定の一大アクションファンタジーの世界観がバイト中に振ってきたんだ!」


「真面目にコーヒー運びなさい」


「姉ちゃん知ってる? アイディアっていうのはリラックスしているときに湧き出るものなんだぜ」


「仕事中でしょうが……あんたのとこの大学生アルバイターってみんなそうなの?」


「三人称視点は苦手なんだよね、俺」


 姉ちゃんはつっこんでくれなかった。ちょっと高度な比喩だったかもしれない。


「とにかくさ。登場人物の能力ちからをタロットカードになぞらえたものにしたいんだ」


「……なんで」


「だってかっこいいだろ!」


 即答した。タロットをモチーフにした作品と言えば、ジョジョの第3部とかペルソナシリーズとか。どちらも国民的人気を誇る。俺の作品も名を連ねたい。


「タロットを題材にしてるだけでテンション上がるだろ。『その能力は帝国最強と謳われた審判ジャッジメントのカード……!』とか。あ、これは敵側の設定なんだけど、実は主人公の親友が黒幕だから」


 弁当の空容器を持って、姉ちゃんは台所に向かった。俺も後ろを追っかける。


「でも肝心のタロットカードについて全然詳しくないんだよね。だからタロットカードの勉強するんだ」


「私に言ってどうするの」


「誰かに目標を宣言すると達成しやすくなるんだぜ。でも俺がラノベ書いてることは姉ちゃん以外の人類は知らないし秘密だからさ。姉ちゃんに言うしかないじゃん」


「あっそう。がんばって」


 淡泊な応援を残すと、スーツの上着ととバッグを持って部屋に戻っていった。



 いよいよ明日から本格的に勉強開始だ。まずは勉強するための本がいるな。

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