第14話 意外な一面
初めて心の中を明かしたからなのか、ずっと胸の内側にあった靄が取り去られたように、気分は晴れやかだった。打ち明けた相手が前村だということも理由の一つなのだろう。ただその前村と、行動を共にするのはこれで最後かもしれないのが唯一の心残りだった。
前村からの返答を待つ。きっと言葉よりも、まずは顔色が変わると思い静観していると、予想に反した口角の些かの上昇と、瞳を輝かせる表情になった彼に俺はひどく戸惑った。
「……凄い偶然だな。俺もあの時の試合で太陽高校への進学を決めたんだ。一つ違うのは目標とした先輩だな。俺が尊敬したのは、あの試合を一人で投げ切った加佐屋先輩だよ。あの人を見た時から太陽高校以外考えられなかった。まさかお前の口からあの試合のことが出てくるとは思わなかったよ。本当に驚いた」
前村は嬉しそうだった。それも含め、俺も嬉しかった。ところで、突然浮かんだ疑問を前村に聞いてみることにした。
「実は俺、あの時の試合最後まで見てないんだ。どっちが勝ったんだ?」
「相手だよ。お前の尊敬する先輩が三塁打を打った後、次の打者が三振でゲームセット。ていうか、よくあそこで終われたな! 続きが気にならなかったのか⁉」
「いや……」
家じゃなく家電量販店で見ていた上に、父に言われてその場を離れたとは恥ずかしくて言えない。「どうしても外せない用事があったんだ」と言って誤魔化そうとするが、納得できないと言葉にはしないものの、表情に出ている前村の気を逸らそうと、俺は言葉を続ける。
「前村の尊敬する先輩って、どんな投手だったんだ⁉」
「あ? ああ……、肩の弱い投手だったよ。110か、良くて115kmの球だったな。でも、それでも打たれなかった。コントロールが抜群に良かったんだ。……おい、今あれ? って思っただろ? 甲子園であんなに点を入れられたのにって。確かにあの時はかなり打たれたけど、あの試合だけなんだぜ! それに、相手校はそのまま優勝したんだ。仕方ないだろ? ……とまあ、俺も肩が弱くてピッチャーをしていたから尊敬したんだよ。俺みたいな奴でもきっとやれるんだ‼ って」
嬉しそうに語る前村が、無邪気な少年のように思えた。新たに見た彼の一面だった。また彼が、中学時代には投手だったことを初めて知り、ふと神早の存在が脳裏をかすめた。
奴は一年にして投手としてレギュラー入りになった。あいつのことを良く思っていない俺からすれば、前村にどうしてもレギュラーを勝ち取って欲しい。
「神早がレギュラー入りしているけど、俺はお前を応援するよ‼ 絶対、投手の座を奪えよな‼」
偽りの気持ちが無いまま、前村を鼓舞する。俺の熱い気持ちが彼の心を滾らせ、二人で燃え上がろうと思った。いや、そうなるはずだった。しかし前村は盛り上がるどころか、少し寂しそうな顔を見せた。
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