第7話 幕引き

 試合の続きがどうなったのか、それは知らない。あの後、用事を済ませた父が俺を呼び、そのままあの場を後にした。だが、俺にとって、試合の結果なぞ、どうでも良かった。あの代打の彼が、太陽高校野球部に在籍している。その事実だけで十分だった。

 彼がきっかけで俺は、太陽高校に入学し野球部に入ると決めた。その頃にはもう彼は卒業しているはずだが、それでも良い。彼と同じユニフォームを着て、試合に出たいと思った。それが俺の夢となった。

 野球部に入ると決めた時点で、野球を習うべきだと思ったが、何も成していないまま剣道を辞めるのは筋が通っていないと感じ、剣道を続けることにした。

 新たな目標を掲げた俺は、さらに剣道の練習に身が入った。それは、剣道からすれば不純な動機ではあったが、活力剤としては申し分なかった。

 中学に上がり、剣道の最終目標をインターハイ優勝と掲げた俺だったが、インターハイどころか、県大会で優勝することも叶わなかった。

 言い訳になるが、同じ地域の同学年に、天才剣士や剣豪と言われる者が何人かいた。その者たちに俺は、どうやっても勝つことができなかった。

 努力は、自他が認める程に行った。「あれで勝てないなら仕方が無い」言葉にしなくとも、父の表情から、それが伝わった。

 結局剣道において、何かを成し遂げることができなかったが、自分には絶対に届かない者たちを早くに知ったお蔭で、心置きなく剣道を辞める心の準備ができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る