第11幕


「うう……また朝から大変な目にあった」


 ラルカによる無慈悲な『早朝森林引き回しの刑』に処された陽葵ひまり

 ようやく泥だらけになった寝間着におさらばして、今は普段着へと着替えたところである。

 ちなみに今、陽葵の着ている服はアディリスから借りた物だ。

 アディリスの方が長身な為、陽葵には少しサイズが大きいのだが、着替えの無い現状では致し方ない。


「うーん……早く自分の服もどうにかしないとだよね」


 姿見の前で自身の姿を見つめながら。

 陽葵はちょっぴり難しい顔をして唸った。

 姿見に映る衣装は、いかにもアディリスの物らしく、品があって落ち着いていた。


 自分にはもったいないくらいのデザインだ。


 陽葵はそう考えながら、裾をつまんでポージングしてみる……のだが──衣装に着られてる感はどうしても拭えなかった。

 どうやら陽葵は、ステータスにある『大人の魅力』って項目の数値がすっからかんらしい。

 やはりアディリスの様な妙齢の女性に似合う衣装は、陽葵の様な『女の子』が着てしまうと、ちょっと浮いてしまう。

 サイズ違いだって事も、それに拍車をかけていた。

 この世界での生活が続くのなら、早いところ色んな意味で自分にピッタリの衣服が欲しいところだった。

 あまりアディリスの好意に甘えてばかりなのも申し訳ない。


 そして、なによりも。


 陽葵が自前の服を欲しがる一番の理由。

 いかんせん、アディリスの服は──胸回りに余裕がありすぎる。


「なんだろ、この違い……」


 自身の胸元に手を当てて、陽葵は再び唸った。

「アディリスの方が歳上だから……」と言うだけでは説明のつかなさそうな格差がそこにはあった。

 陽葵とて別に大きな胸になりたいと言うわけではないが、アディリスのあのスタイルの良さにはあやかりたいって気持ちがある。

 まるで素数定理の証明に挑むかの様な表情で。

 陽葵はこの格差問題について思考を巡らせたが、無論その答えは考えもつかなかった。

 素数定理もおっぱいも、彼女にとっては謎だらけである。


「──ヒマリー! まだかー!」


 そんな思考の砂漠に旅立ちかけていた陽葵の意識を、ラルカの声が現実へと引き戻す。

 脳みそを占有した大いなる問題のせいで、彼女が外で待っているのをすっかり失念していた。

 おかげさまで、だいぶ焦れているのだろう。

 まるでゲームセンターにある太鼓のゲームもかくやと言う勢いで、部屋のドアを乱打している。この調子だと50コンボの達成なんてあっと言う間に違いない。


「ごめんごめん、もう出るね」


 このままではボコボコにされてる扉の耐久値が心配だ。

 下手すると冗談抜きで、扉をぶち破って突入してくるんじゃないかって勢いである。


 陽葵は大きく苦笑いを顔に張り付けると。

 ラルカのコンボを阻止する為、部屋の扉へ手をかけた。







 

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