ラプロトスティとの試合
突如としてボク対ラプロトスティさんの試合が決まり、その準備が進む。準備と言っても、アトラさんが観客に回って、ラプロトスティさんが剣を持って位置についただけだが。
木剣を肩に乗せ、トントンと上下させているラプロトスティさんの正面に立ち、先程と同じ木剣を正面に構える。一度、視線を生徒達の方へ向けてみると、イセリーに肩を借りたアトラさんが心配そうな表情でこちらを見ていた。ラプロトスティさんの実力や人柄は向こうの方が知っているだろうし、ボクが心配されているという状況に、ラプロトスティさんが滅茶苦茶強くて、本音ではアトラさんの敵討ちをしようとしているのではないか、という
とはいえ、一度申し出を受けてしまった以上やらない訳には行かない。
ボクが視線を戻したのを準備が整ったと受け取ったか、ラプロトスティさんが肩に
恐らく、アトラさんが真似をしたのだろう。憧れているのだから、その可能性の方が高い。適性に合わない太刀筋だったことも、それで納得が行く。
視界の端で、溜息を吐いて少々面倒そうな様子を見せるフルドムが手を上げる。
呼吸を整え、集中力を再び高める。相手の実力は
「初め!」
フルドムの声が
十メートル程度の距離を三歩で
「ぐっ……!」
受けきれない……!
肘を曲げて衝撃を殺そうとするが、あまりのパワーにプロティアの筋力では持ち
即座に後ろ向きに地面を蹴ってバックステップで距離を取るが、次の瞬間には
跳ね返るようにして
地面に足が着くと共に右手だけで持った剣を正面に立て、ラプロトスティさんと向かい合う。こちらは
「初めの一撃で決めるつもりだったんだけどなぁ」
「……簡単に終わったら、つまらないでしょう?」
「分かってるねぇ、そう来なくっちゃ!」
スピードはまだ追い付ける。
ならば、こちらがスピードで推して、向こうに力勝負をさせないようにすればいい。
「シッ!」
短く息を吐いて、一気に接近する。ラプロトスティさんがリーチ内に入ると同時に、右下に下げていた剣を左上がりに振り上げる。
脇腹を狙った一撃を大きく飛び、ラプロトスティさんの頭上を越えたことで
着地をし、すぐにバックステップで距離を取る。時間を置かず再び駆け寄り、
その笑みは、コンマ数秒後に
そう思ったのも
頭一つ分背の高いラプロトスティさんは、そのまま掴んだ剣を頭上まで持ち上げる。剣を
このままでは負けると確信し、宙に浮いた、良く言えば自由になった足を後ろに引き、戻る
両腕の
空中で右回りに回転する中、ラプロトスティさんが剣を頭上に持ち上げていることを
背後に全身が抜ける。滑る速度も
クラウチングスタートをする際に使う、スターティングブロックの様に
「ぜああっ!」
左回りに回転したラプロトスティさんが、左下がりのボクの剣に対して、左上がりの剣で一撃を受け止める。かなりの速度で近付いたボクを受け止めたことにより、周囲に衝撃が生じる。一瞬の
ボクの体が完全に
ラプロトスティさんが右半身を引き、両手で持った剣を限界まで引いた。
木剣の
とはいえ、魔力を纏わせたからと言ってボクにかかる衝撃までは
──バキッ
「んなっ」
刀身の
「痛ってぇ……」
「全力の一撃を『痛ってぇ』で済まされる身にもなって欲しいなぁ」
少しぐらつく視界の中で、ラプロトスティさんが手を差し伸べてくれていることに気付く。ありがたくその手を握り、引っ張ってもらう勢いに従って立ち上がる。
「殺す気ですか」
「んー? 君ならどうにかすると思ってね。あー、スッキリした!」
「……結局、アトラさんの仕返しだったんじゃないですか」
「違う違う、そういうのは本人がやらないと。私のは、可愛い妹を傷付けられてムカついたのをぶつけただけ、私のため、だからアトラの仕返しとかじゃない」
大差ねぇだろ、と思わなくは無いが、一応ベクトルの違いはありそうなのでそれで納得しておく。
「それに、君も一発入れたでしょ? その仕返し」
ニッコリと笑みを浮かべながら、左手で
「それにしても、肋骨の三本くらいは持っていくつもりだったんだけど。どうやって耐えたの?」
「防具に魔力を纏わせたんですよ。少しは耐久力が上がると思って」
「な〜るほど。それでピンピンしてるわけだ」
ピンピンはしてない。まだ全身痛くてゲームならストレス値が上昇中だ。大した怪我はないから治療は既に終えているが、アトラさんにも言った通り一度受けた痛みはしばらく残り続ける。言うなれば脳の錯覚だ。
「ラプロトスティ、ちょっといいか」
いつの間にかフルドムが隣に立っており、少々
「ん? なあに、先生」
「しばらく生徒の指導を任せて構わないか? アトラスティを保健室へ連れて行って、プロティアと話をしたい」
「いいですよ。よーし、ビシバシ行くかぁ!」
「初日だから手加減してやれよ……プロティア、分かってるな」
これは説教かなぁ。ボクに拒否権はないため、頷いて同意を示す。
「アトラスティも着いて来てくれ」
フルドムが声を張ると、他の生徒達とフリーズしていたアトラさんが肩を借りていたイセリーから離れて、ゆっくりと近付いてきた。
「プロティアから治療は受けているようだが、念の為医務室に行っておこう」
「あ、分かりました」
若干放心気味だったアトラさんが、状況の処理をやっと終えたかのようにハッとして
ラプロトスティさんにこの場を任せて、ボク達三人で校舎に向かった。
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