アトラスティとの試合2
アトラスティの追撃に次ぐ追撃を、プロティアは難なく防ぎ、
「アトラさん、ずっと攻めてるね。プロティアが
「どうだろう。私としては、プロティアの方が余裕があるように見えるかな……まるで、実力を測ってるみたい」
隣から聞こえたカルミナの意見に、自分の
実際、試合が始まって以来アトラスティがずっと攻めていて、プロティアは防戦一方。しかし、防御や
「平民共は、相変わらず見る目がないな……アトラスティ様が負けるわけが無いだろう? 立場を考えたまえ」
カルミナの向こうにいた貴族が、イセリーとカルミナに目もくれずに言い捨てた。下級貴族の一人だが、二人にとっては名前もよく知らないクラスメイトの一人でしか無かった。カルミナはキョトンとした表情を浮かべているが、イセリーはその言葉の意味を理解していた。相手は
「
「言わねば分からぬのか。平民はそんな常識も知らないのだな。階級が上の方に試合で勝っていいのは、貴族間で
言うて下級貴族の子供のくせに、口が
会話が済んだのか、プロティアがアトラスティから距離をとる。一秒もせずに、イセリーの右側から聞き覚えのない声が聞こえてくる。
「……プロティアの勝ちだ。
「おい、
「……見る目がないのはお前の方だと、すぐに分かる」
常識については
「次で決着を付けましょう。あなたも、本気を出してください」
プロティアは
「せやあ!!」
アトラスティが地面を蹴る。数メートルを一気に
数分にも感じた僅か一秒、気が付くと、木剣がぶつかり合う
♢
アトラさんと距離を取る。お互い、剣を正面に構えて、試合開始時と同じような
「次で決着を付けましょう。あなたも、本気を出してください」
アトラさんの声が、
この決断をすれば、恐らくこの先一年半、学園生活は
魔力振動を
だから、ボクは……貴族生徒達の敵になる。
あの構えなら、上段からの攻撃が来るだろうと推測し、相手の性格も
「せやあ!!」
アトラさんが地面を蹴る。正面に構えた剣を振り上げ、やはり上段の攻撃を仕掛けてくる。
攻撃が当たるまで、約一秒あるかどうか。ここまでの間に集中を更に深めて、ゾーンにも入っている。必要なのは、あと一つ。
既に古く感じる転生初日。ホブ・ゴブリンの殺意を脳内に鮮明に思い出し、描く。そして、それを演技に落とし込み、アトラさんに──
「っ!」
無音の圧を発する。殺す。アトラスティを殺す。その思考が脳内に染み渡り、全身を
上げた視界の中で、アトラさんの表情が
「やあああ──っ!」
木剣がボクの顔目掛けて振り下ろされる。剣先がアトラさんの顔の前に至ると同時に、ボクは下段に構えた剣を左上がりに振り上げる。腰を捻り、曲げた肘を伸ばし、手首のスナップを利用して、最大限の威力を乗せた木剣は、アトラさんの木剣と
だが、まだ終わらない。剣を振り切る勢いそのまま左に構え、下げた右足で地面を蹴り、剣を右手だけで持ち、手首を切り返して、上体が
木剣同士のぶつかり合う音もまだ響き渡ってすらいない中、ガッと鈍い音に演技の奥にある良心を痛める。
剣を振り切る。体をくの字に曲げて宙に浮いたアトラさんは、二メートル以上飛んで受け身も取れないまま、地面に落下した。数瞬後、
剣を右へ振り抜いた姿勢から、
それを皮切りに、周囲の生徒も
「アトラスティ! おいプロティア、お前──」
「待った」
状況に理解が追いついたらしいフルドムがボクを
「続けて」
何かしようとしてるのだろう? 目がそう告げている。一度短く
「言ってましたよね、外の世界に自分がどれだけ通用するのか知りたいと……魔物との戦いとは、こういうものです。老若男女なんて関係ない。
アトラさんに近付きながら、他の生徒にも聞こえるよう、いつもより低い声を張る。地面で丸まり、剣の直撃を受けた脇腹を抑えながら、リズムの崩れた呼吸で命を繋ぎ、乱れた前髪の下から鋭い視線を向けてくるアトラさんへ、今までにないくらい冷めた視線を下ろす。
「今のあなたでは、ゴブリンにも
「なんだとっ!」
この場の全員が視線をボクに向ける中、貴族は大半が怒りを隠しもせずに睨みつけている。一人の生徒が声を荒らげると、他の生徒も口々にボクを
「不敬を働けばどうなるか分かっているのか!? 貴様などいつでも死刑に──」
「死刑? はっ、自分に向けられた
死刑と発言した生徒は、ボクの挑発に
「いつでも相手をしてやる。前もって挑戦を申し込めば時間も作る。自信のある奴からかかって来い。……殺せるといいね、卒業までに」
前世で好きだった作品のセリフを
彼らの闘争心を
敵の言葉を聞き入れるかは分からないが……そこは上手くやるとしよう。頑張れ、これからのボク。
生徒達は言い返して来ることも無く静まってしまったため、数分ほどそのままにしてしまったアトラさんの横にしゃがんで、魔力振動で怪我の具合を確認しながら話しかける。
「……泣かないんですね」
顔は痛みのせいでか
「……約束、しましたから。怪我しても、泣かない……と」
そう言えば、そんな話もしたっけ。
魔力振動で、右手の指と右の肋骨が折れていることを確認し、最近かなりマスターしてきた時空回復魔法により治療を行う。脇腹を抑えている右手に
アトラさんも痛みが若干でも引いたのか、表情が
「……治ったのですか?」
「はい。しばらく痛みは残るかもしれないので、我慢してください」
「ええ、分かりましたわ」
体を起こしながら、同意を示す。左頬に土を付けたまま微笑を浮かべる様子に、いたたまれず立ち上がって背を向ける。
「ちょっといいかな」
アトラさんの治療のために魔力振動の範囲を狭めていたせいで、数メートル離れた先にいた人物に、話しかけられるまで気付かなかった。フーデッドケープを脱ぎ、装飾は少ないが
「……妹の仕返しですか?」
「いや、単に興味が湧いただけだよ。私と戦わない?
確かに、アトラさんとの戦いは不完全燃焼感が否めないでいた。最後に剣だけで出せる最大火力の剣技は見せたものの、あれではただの一発屋に見られてもおかしくないだろう。
それに、アトラさんが
「火炎大蛇じゃなくて、プロティアです。その試合、受けて立ちます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます