カルミナ4
「……これが、あたしとイセリ―の昔の話」
どう、声をかけたらいいのか、分からなかった。辛かったね? もう大丈夫だよ? 話してくれてありがとう? どれも
カルミナとイセリ―の過去は、ボクの前世と同等以上に辛いものだった。大切な人を
「……ごめんね、暗い話で! 話題変えよっか!」
「……カルミナ。ボクは君を、心から尊敬するよ」
「え? 急にどうしたのさ。そんなこと言われたら照れちゃうよ」
「本当だよ」
真剣な
「そ、そっか。ありがと……」
「……カルミナは、よく頑張ったよ。イセリ―が学園に通えてるのも、ボク達と仲良く出来てるのも、全部カルミナが頑張ったからだ」
だが、それと同時にカルミナが壊れて行ったのも事実だ。
「だからカルミナ。これからは、ボクにも手伝わせて欲しい。ボクだって二人の友達なんだ。イセリーを何とかしたいし、同時にカルミナに苦しんで欲しくもない。ダメかな?」
「ダメなんてことはないよ! 手伝ってくれるのなら、助かるし、心配してくれるのも凄く嬉しい。でも、プロティアに迷惑が……」
「迷惑なんて思わないよ。ボクがしたくてするんだから。大事な友達には、辛い思いはして欲しくないんだよ」
前世で友達なんて呼べる存在はいなかったけど、家族に対しては同じ思いだった。あの子にも……あの子って、誰だ? 脳の
脳内で起きた違和感のために逸らしていた視線を、再度カルミナに戻す。お湯の高さが
「状況によって性格が変わるのは良くないと思うから、まずは誰の前でも元のカルミナを出せるように練習しよう」
「待って! ……元のあたしより、イセリーを演じてる今のあたしの方がいいと思う。弱くて、泣き虫で、
どこの世界でも、
全身に力が
「カルミナ……」
「……プロティア。ちょっと、抱き締めてもらえないかな」
「ゔぇ!?」
予想外の提案に、変な声が出てしまう。抱き締めるって、ハグってことだよな!? 流石にそれは……いやでも、こんな状態のカルミナのお願いなんて、断れないし……何を迷ってる、ボクは大人だ! このくらいどうってことない!
ええいままよ! とカルミナの方に体ごと向けて、バッと両手を限界まで広げる。
「ど、どんとこい!」
「えへへ、なんでそんなに張り切ってるの」
ボクの様子がおかしかったのか、苦笑を溢しながら、カルミナもこちらに体を向ける。笑われはしたが、カルミナに少しでも笑顔が戻ったのならば
緊張を隠すように平静を
胸に押し付けられる柔らかい脂肪塊は言うまでもなく、触れるカルミナの肌はいたるところが
一分程、抱き合った体勢のまま時間が経過する。理性を最大限働かせてなんとか平静を保っているが、いつまでもつか分かったものではない。
「……生きてて、いいのかな」
「え?」
カルミナが発した言葉に、理解が数テンポ遅れる。
「弱いあたしが、生きてて、いいのかな。迷惑ばっかりかけて……今も、プロティアにぎゅーってしてもらわないと、苦しくておかしくなりそうなのに……こんなあたしが、イセリ―を真似した強いあたしじゃなくて、弱くて、泣き虫で、臆病なあたしが、生きててもいいのかな……?」
お風呂に入っていて上がっているカルミナの体温が、僅かに上昇したことを触れている肌から感じ取る。今の言葉も、上擦って、
水を被ったかのように、ボクの思考は冷静になった。今、カルミナはこんなに苦しんでるんだ。性欲なんて働かせている場合じゃない。
どう、答えるのが正解だろうか。こと人間関係においては最弱者の自覚があるボクの、天才と呼ばれた頭脳をフル回転させて、答えを探す。
死にたがっている人を止めるには、どんな言葉を掛けるのが正解なのか。死んじゃだめだ、生きてりゃいいことある、そんな
「生きててほしいよ、ボクは。本来のカルミナに。だって、一緒にいると落ち着くんだもん。こんな風に思えるの、家族以外じゃカルミナが初めてだよ」
本心を伝える。いつも、カルミナと二人きりになって、落ち着いたカルミナに違和感を感じていはしたが、ここ最近はどこか安心感を
「でもっ、迷惑かけちゃう……」
「かけていいんだよ、友達なんだから。他の人はどうかは分からないけど、ボクは
そう、出来やしない。
「……プロティア」
「ん?」
「助けて……あたし、きえたくないよぉ」
ボクを抱き締めるカルミナの力が、少しだが強まる。左肩に乗った顎から、少しヒンヤリした
「任せろ。一緒に、取り戻そう。カルミナも、イセリ―も」
ずっと溜まっていたのだろう。その後、
泣き止んだカルミナとボクは、無言のまま服を着た。他に誰もおらず、静まり返った脱衣所だったが、やはり嫌な感じはしない。カルミナと二人きりだからだろう。慣れた、というのもあるだろうが、カルミナといることがボクの安心感に
さて。ここまでの会話から考えるに、カルミナは恐らく本来の自分を残したいけど、イセリーを演じる自分も捨てたくない、と思っているだろう。何とかしてどちらも残す手法を探さなければいけないが……どうしたものか。
少なくとも、メインとなる性格は本来のものである方がいいだろう。その方が精神的な負担は少ないはずだ。やはりここは、最初に提案した通り、誰の前でもカルミナを維持出来るようにするところから始めるべきか。でも、後から組み込むのは厳しいか? 何らかの方法でどちらもを組み合わせつつ、カルミナの性格を一つに形作った方が確実だろうか。
それ以前に、いきなりカルミナを皆の前で維持するというのは、周囲の理解を得られたとしてもカルミナ自身の負担が大き過ぎる。ボクの前でだけは問題なくカルミナでいられる、という条件を上手く利用しなければ、それこそカルミナが精神的に
「プロティア。助けてって言ってすぐにこう言うのもあれなんだけどさ。やっぱりあたし、イセリ―を演じてるときのあたしもなくしたくないな」
寝間着を着終えたカルミナが俯きがちに横目に視線をこちらへ向けながら、どこか申し訳なさそうな表情でそう言った。
「そうだよね。今、そのことについて考えてたんだ。どうすればいいかなって」
「正直に言って、今のあたしをプロティア以外の前で出せる自信はない……かな」
やはり、ボクの前でのみ、という条件を使うしかなさそうだ。しかしまあ、どうすればその条件をみんながいる前で満たせるのだろうか。
「みんなの前でも、ボクの存在のみを意識する……とか?」
「なるほど……いつどんな時でも、プロティアと二人っきり! って思いこめばいいってこと?」
「うん。
あくまで可能性の話でしかないが。そもそも、こういった医学的な話はボクは専門外なのだ。インターネットがなくググれない以上、推測で正解に近かろう答えを信じて進まない限り、どうにもならない。とにかく、しばらくはこの作戦で進むことになりそうだ。
「プロティアだけを意識かぁ……」
服の中に入って背中を冷やす長髪を出していると、隣でカルミナが腕を組みながら目を閉じてうぅむ……と
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