フェルメウス8
「今回の件、既にギルドの方から報告は
なるほど、アトラさん達を追い出したのは、この話をするためだったのか。理由は分からないが、今のところ昨夜の件はほとんどの人が知らないようだし、知らせるつもりもなさそうだ。領主なりの考えあってのことかもしれないし、ここはボクも
しかし、昨日のことか。恐らくほとんどのことはギルドから報告を受けているだろうし、何を話したものか。
「えと、昨夜の襲撃は、大体日が変わって一時間から二時間後のことだったと思います。攻めてきたのはゴブリンの群れで、数はゴブリンが約五十、ホブ・ゴブリンが三体でした。それで、えと……かなり
ゴブリンが行っていた
「一つ
「何と言ったか、覚えているか?」
どうやら、ゴブリンが言葉を発したこと自体は報告が届いているようだ。しかし、その内容までは伝わっていなかったらしい。しっかりと聞き取れていなかったり、冒険者達もゴブリンが言葉を話したことに
「えと、そうですね……ボクを
「……そうか。分かってはいたが、知りたくなかった事実だな。領主として
フォギプトスの
「しかし、そうか……人の言葉を話すゴブリン……一体、何の
何かを
「……プロティアよ。先程、学園を卒業した後のことについて話をしたな。騎士団に入るつもりはないとのことだが、冒険者になるのか?」
「あ、はい、その予定です。国内に限ってはどこでも仕事がありますし、ある程度自由に活動も出来そうなので」
神に言い渡された「文明を進める」という指令は、ある程度時間も生活も余裕がないと
「そうか。では、シンド村を取り返すつもりはあるか?」
「……いつになるかは分かりませんが、ランクや実力が十分になった時には、ギルドに
「では、その時は我々も協力をしよう。街を守る必要があるためあまり多くは出せないが、戦力足りえる兵は出させてもらう。元々シンド村は私の領地でもあったのだ、本来は私が指揮を
領主として魔物に奪われた領地を取り返そうにも、戦力が足りないとか、街の防衛との両立とか、色々と難しいところがあるのだろう。プロティアの願いでもあるし、彼女にとって大事な人達の
「はい、
「すまない……いや、こういう時はありがとう、と言うべきか。妻によく言われるものでな」
「あ、あはは……そういえば、
「ああ、姉のラプは見合いに行っている。普段は断り続けているのだが、アトラが学園での
……地下牢で家族について何か文句のようなものを呟いていたような気がするが、確かにこれはなかなかに大変そうだ。話を聞くだけで、
「今回聞きたかったことはこのくらいだ。そちらから聞きたいことはあるか?」
「そうですね……」
相手は上級貴族だ。序盤の情報源としては、これ以上ないくらいに有用だろう。せっかくの機会だし聞けることはなるべく聞いておきたい。常識的な部分はプロティアの記憶である程度
「他の領地って、ここと比べてどうなんでしょうか?」
「……妙なことを聞くのだな。まあいい、答えよう。はっきり言えば、王都を
「ちなみに、税ってどのくらいなんですか?」
「その月の生産、収益から三割だ。これを全ての貴族に課している。領地の保有の有無は関係なくな。そして、大半の貴族は己の
フェルメウス家も居宅を見た分には贅沢しているようにも思えるが、普段の暮らしは
「聞きたいことはそれだけか?」
「えと……王都に行くのって、どのくらいかかりますか?」
「馬車で数週間といったところだ。フォーティラスニアは小国だが、ここは国の
「まだ分からないです。今後、活動
「そうか。すまない、そろそろ
それはそうだろう。ただでさえ冒険者学園に娘が入学したり、もう一人の娘がお見合いに行ったりしているのだ。その上、昨夜の件も合わさってやることは幾らでもあるだろう。むしろ、よく時間を作れたものだとすら思う。
「いえ、ボクも色々と聞けたので助かりました。今後ともよろしくお願いします」
「ああ、冤罪をかけた上、時間まで使わせてしまいすまない、感謝する。こちらからも、アトラのことを頼んでも構わないか?」
「えと、はい。ボクなんかで良ければ、仲良くさせていただきます」
「では頼んだ。ウェルシャ、アトラの部屋まで案内してやってくれ」
いつの間にか戻って来ていたウェルシャが、入口の横でお
ウェルシャの後に続き階段を一階上がり、南東の角部屋へと向かう。ちょうど、冒険者学園の寮における、ボク達の部屋と似たような配置の部屋だ。
「こちらでございます。昼食の時にまた呼びに参りますので、ごゆっくりください」
「あ、はい、ありがとうございます」
一礼するウェルシャにつられて、ボクも向き合って深く頭を下げる。お互い頭を上げると、ウェルシャが再び一礼して元きた道を戻って行った。部屋の前に一人立っているのもおかしいので、とりあえずノックをして中に入ろうと思うのだが、この世界でのノックは何回が正解なのだろうか。日本では二回が
どうしよう、と右手で
「何をしているのですか?」
「その、正しいノックの回数が分からなくて……」
「御手洗が二回、親しい仲が三回、社交的な場では四回が正式な回数ですわ。平民の方々にはこういったルールがありませんの?」
「……多分、ボクが
どの世界でも共通なのか、はたまた何らかの理由で日本と同じなのかは分からないが、日本のルールと
部屋の中に戻っていくアトラさんに続き、ボクも部屋に入る。ふわりと花のような香りが
部屋の中を観察していると、アトラさんはベッドの手前にある椅子の一つに腰を下ろした。あなたもどうぞ、と言うかのように、右手でもう一つの椅子を指す。小さく礼をしてから、
「お父様と何を話していたのか、聞きたい気持ちはありますが……やめておきましょうか」
笑みを浮かべながらそう言う。眉の下がった笑みになんとなく違和感を感じるが、その正体が何かまでは分からない。こと人間関係においては
「我が家というのは、居心地はいいですが
入学して一日も
それに、内緒話と聞いて違和感の正体も何となく分かった。恐らく、アトラさんは昨夜のことを何らかの
「じゃあ、何の話をしましょうか。どうも今日は泊まりみたいなので、いくらでもお付き合いしますよ」
「本当ですか? では、無駄にしないようにしませんと!」
パッと表情を明るくし、声のトーンもワントーンほど高くなったアトラさんを見て、この子になら多少騙されてもいっか、などと思ってしまったのだから、ボクも
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