フェルメウス6
それにしても、今思えば大変な目に
タオルで濡れた体や髪の水気を取り、バスタオルを体に巻いた状態で、僕は今脱衣所にてアトラさんの髪を魔法で乾かしている。方法はドライヤーと一緒だ、温風で水分を蒸発させる。
「髪を乾かしてくださり、ありがとうございます、プロティアさん。本当に、魔法って便利ですのね」
「あ、ああ、はい、どういたしまして……学園でも、言ってくれたらやりますよ」
「本当ですか? ぜひお願いします!」
声を
「いつもはどうやって乾かしてるんですか? アトラさんもボクと同じくらい長いですし、なかなか乾きませんよね」
「
自然乾燥は髪や頭皮に
実際、この世界の魔法や魔力というものはどういった存在なのだろうか。前世で読んでいた異世界ものでは、正直はっきりしないものが多かった。魔石や魔鉱石みたいに、石になっていた以上物質として存在しているだろう作品もあったし、よく分からない謎パワーや謎エネルギーみたいな作品もあった。
先の戦闘から、剣に魔力を
それに、魔法の原理も全く想像つかない。魔力という一つの物質から、火や水、風、土、更には
「プロティアさん、また考え事ですか?」
「……んぁ、すみません、どうかしましたか?」
これは魔王を倒せ、の方が楽なお願いだったかもなぁ、と
「そろそろ乾いたと思うのですが、どうでしょうか?」
そう言われて、髪を
「うん、乾いたな」
無意識に、ほとんど音にもならない、口を動かしているだけのようにも見えるくらい小声で呟く。まだ季節柄、朝夕は冷えるため、乾き残しがないよう手で髪を梳いてしっかりと確認する。頭皮から毛先まで、濡れているところは無さそうだ。
「なんだか、頭を
「え、そ、そですか?」
「ええ。あまり経験がないので、くすぐったくもありますが」
昔妹に髪を乾かしてやったあと、頭撫でて―とよくせがまれていたせいだろうか、撫でながら乾き残しを確認することが癖として残っていたのかもしれない。悪いことをしてしまったかな、と心配になったが、
先に着替えてきますね、と言って脱衣所に用意されていた着替えの下に駆け寄っていくアトラさんを尻目に、
「……何してるんですか?」
「いえ、魔法はこのように手を翳さなくても使えるんですね」
アトラさんが、右手をさっきまで僕がしていたように頭上でうろうろとさせる。その様子が可愛い上に少し面白く、噴き出してしまいそうになるのを堪えながら説明する。
「ああ、それは位置の調整がしやすいからしていたんですよ。自分でするには、見えないし腕も
そう説明すると、なるほどと呟いてから右手を
五分ほど魔法の強さや位置を変えていると、手で触った感じ髪は完全に乾いていた。やっとアトラさんの観察地獄から抜け出せられる、と心の中で
「乾いたので着替えてきますね」
アトラさんにそう告げて脱衣所の端にある
「先日新しく買ったものですので、どうぞお気になさらずお使いになってください。もし気に入ったのなら、差し上げますよ」
「あ、そうなんですね。じゃあ、使わせてもらいます……いただくのは申し訳ないので、洗って
背後から話しかけてきたアトラさんに返答すると、そうですか、と笑みを浮かべる。アトラさんに背を向けたままショーツに足を通し、体に
中世ヨーロッパの肌着って地球ではどうだったっけ、と思い出してみるが、少なくとも今着ているようなものではなかった気がする。パッと思い出せたのはカボチャパンツなどと呼ばれるドロワーズだが、女性はドレスの下はノーパンだったなどの
トランクスを愛用していた前世に比べて圧倒的に布面積の少ないショーツと、精神的には初めて身に着けるブラの締め付けに違和感を感じるが、こればっかりは女性として生きる以上慣れるしかない。我慢しつつワンピースを頭から
「似合ってますわよ」
「あ、ありがとうございます」
褒められたことに素直にお礼を返し、自分の立ち姿を見下ろす。汚れ、
「では、お父様が待っているので移動しましょうか」
「あ、はい」
脱衣所を出て行くアトラさんの後を
しばらくフェルメウス家の
「中で旦那様がお待ちです」
「ありがとうございます、ウェルシャさん」
頭を下げたまま、左手を扉を指すように向けて、僕達が入りやすいように横に
入りましょう、そう言って中に入るアトラさんのお陰で正気に戻り、ウェルシャさんと呼ばれたメイドに一礼してから、アトラさんに続いてワインレッドのカーペットが
「……来たか、アトラ、プロティア」
羊皮紙を見ながら頭を抱えていたフォギプトスが僕とアトラさんを迎える。
「お父様、それは?」
「何、お前には関係ない事だ。気にしなくとも良い」
「そう言われても気になります」
「……壊れた防壁と西門の
唇を
ゴブリンが攻めてきたことを知らないのか、アトラさんは眉をハの字にして首を
「二人とも、座りたまえ」
アトラさんは何を隠しているんだとでも
「さて……プロティア、先にも言ったが、もう一度言っておこう。今回の件、町と人的被害を最小限に抑えたことを感謝すると同時に、
フォギプトスが椅子から立ち上がり、一度深く頭を下げる。地下牢でも見た光景だが、上級貴族が頭を下げるという光景は、恐らく何度見ても慣れることはないだろうを。
「あ、えと、その……今回のことはボクが勝手にやったことですし、冤罪も領主様が危険を
「受け入れてもらえているなら、ありがたい。金額については冒険者ギルドの
「あ、はい、もらえるだけでありがたいので」
壊れた防壁や西門の修繕もあるだろうし、そう多くはもらえないかもしれないが、今のところお金には困っていなさそうなので少しでももらえるなら十分だ。
表情は読み取りにくいが、少し安堵のような雰囲気を
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