フェルメウス1
意識が
汗をかき、息も
意識空間で意識を失う直前の温もりはまだ残っているような気がする。それに、最後のあの
「……絶対、取り戻して見せるからな」
誰にも聞こえないような声で
服装は、ゴブリンと戦っていた時の
次に、ベッドを
少なくとも知らない場所だということは確定したため、
あまり使われていないのか、
「まさかの
プロティアが何か罪を犯しただろうか、と記憶を探ってみるが、思い当たることはない。可能性があるとすれば昨夜だが、プロティアはむしろ街を救ったヒーローと言っても
前世からの考えるときの癖で、右手で左肘を支えて左手を
戦闘について何か罪を着せられている、とは考えられない。森への被害は最小限に抑えたし、
「……完全に
脱獄する、という案もあるにはあるが、これは出来れば最後の最後にしたい。それこそ、死刑のような判決を言い渡されない限りはしないでおきたいものだ。
最終手段について考えていると、カツカツという足音が近付いてきた。木製の靴底だろうか、などと考えながら視線を向けると、見覚えのある顔が鉄格子の向こうにあった。必死にプロティアの記憶の中で顔と名前を一致させる。思い出したところで、口を開こうとする――が、言葉が
原因としては簡単だ。僕がかなりのコミュ
とはいえ、ここで何も言わないのはどう考えても不自然だし、今後プロティアとして生きていく以上、この問題は早期に対応しなければならない。これはその第一段階である。
「ギリュスルさんがここの
出来る限り自然に、口角を上げ、子供っぽさを残しつつプロティアの発声方法に
「ああ、起きたのか。いやなに、お前が起きた時に監視が顔見知りの方がいいだろう、と領主様が
「なるほど、それはありがとうございます。ボクも顔見知りがいてくれて、少し安心出来ました」
「? おう、それならよかった」
一瞬クエスチョンマークが浮かんでいそうな顔をしていたが、すぐに笑顔に戻る。何を疑問に思ったのか気になるところだが、今はいくつか聞きたいことがある。そちらを優先しよう。
「いくつか聞きたいことがあるんですけど、質問してもいいですか?」
「ああ、俺に答えられる範囲ならな」
「ええと、まず……あの場にいた人たちは、どうなりました?」
「自分のことより他人の心配が先か……
しみじみ、といった感じでギリュスルが腕を組んでうんうんと頷く。プロティアがこの街に来て冒険者の
「と、悪い、質問に答えないとだな。全員無事だったぞ。俺たち衛兵はかなり傷を負っていたが、冒険者のウィザードが戦闘の
あれだけの
「ならよかったです。一人でも犠牲が出たら、辛いので……次の質問ですが、ボクは何の罪で捕まってるんですか?」
「ああ、そのことか……今、プロティアには
予想は当たっていたようだ。とはいえ、罪が分かってもどう無罪を証明するかが定かではない。能力を伝えてもいいものか分からないし、そもそも話したとして、理解を示してもらえるだろうか。もしダメだったとしたら、この能力を生かして領主の下で騎士団にでも入れてもらえないか
「そんなことしてないんですけどね……あ、そうだ。ボクの装備って、無事ですか?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「あの剣、お父さんの
「なるほど、そういう……心配すんな、ちゃんと保管してある。場所までは言えんがな」
ギリュスルの言葉に、
そうこうしていると、ギリュスルとは別の足音が近付いてきていた。ギリュスルの
しばらく地面を見つめていると、視界の端に先の尖った革靴が入ってくる。中二病を
「目を覚ましたようだな。ギリュスル、他を見回っていてくれ。この少女と話をしたい」
「プロティア、だな」
「は、はい」
話しかけられたことにより一層呼吸が浅くなり、喉の
「そうかしこまらなくともよい、立ち
言われた通り、その場に立ち上がる。そして、威圧感を放つ人物の姿を視界に
装飾の少ない軍服の中では最も目立つ
「私はフォギプトス・フェルメウス侯爵、ここフェルメウス領の領主だ。君には、アトラスティの父と言った方が分かりやすいかな」
そう、プロティアの友達兼ルームメイトであり、領主の次女であるアトラさんの父親だ。どことなく面影を感じなくはないが、この父親から生まれたアトラさんがあそこまで優しい雰囲気を持っているのが突然変異ではないかと思うくらいに圧が違いすぎる。
ここで怯んでいては、無罪証明など出来っこないぞ、と自分に言い聞かせて、この世界でも通用するのかは分からないが、地球ではカーテシーと呼ばれる、右足を半歩引き膝を曲げ、両手でスカートの
「プロティアです。ご用件は何でしょうか?」
フォギプトスが切れ長の目を細める。間違えたか、急ぎすぎたか、と焦りが湧き出てくるが、表に出ないように何とか抑え込む。嫌な沈黙が続き、一度喉の渇きを誤魔化すために唾を飲み込んだのとほぼ同じタイミングで、フォギプトスはふむと呟き
「何、先ほども言ったが、君と話をしたかっただけだ。こうして
いい迷惑だよこちとら! と、大声で言えたならどれだけ気が楽なことだろうか。とはいえ、元々深く疑っている様子ではないため、もしかしたら簡単に容疑を晴らせるかもしれない。さて、どう証明したものか。魔物の襲撃を察知した方法を説明してもいいだろうが、信じてもらえなかったら
「まずは、礼を言っておこう。今回のゴブリンの
「あ、いえ……やれることをしただけですので」
街に魔物を誘き寄せた容疑のかかっている僕に対してもちゃんと功績を
「それで、えっと……ボクに掛けられてる罪なんですが」
「ああ。君の主張を聞かせてもらおうか」
フォギプトスの目が細くなり、眼光が鋭くなる。それと比例するかのように僕が感じる圧も強くなり、再び背中を汗が伝う。心臓の鼓動が早くなり、まるで耳元で鳴り響いてるかの如くドクドクと音が脳を揺らす。拳を握り、目を閉じて、一度深呼吸をする。向こうに緊張が伝わってしまうだろうが、領主と向き合って緊張しない方が無理というもの。相手もこのくらいは目を
「分かりました。ボクの主張は、完全な
手始めに、動機不十分の点で攻めてみる。だが、フォギプトスのギラつく瞳は揺らぐことはなく、鋭く僕を
「一つ確認しますが、ボクの容疑を裏付けるような証拠はありますか? 例えば、森の中にゴブリンを誘き寄せるような仕掛け、ここ数か月の間に街から出て怪しいことをしていた記録がある、といったものです」
「今のところ見つかってはいない。騎士団の過半数を
「では、証拠不十分です。現時点でボクを有罪とするならば、完全なる職権乱用です」
これでも揺らぐことはない、想定の範囲内だ。証拠など探せばいつかは見つかるかもしれないのだ、あまり大きなダメージではないだろう。今有罪にするのは信頼を
だが、こちらもそこまで手札があるわけではない。というかむしろ、真実を話す
「あの、これから話すことは、信じられないかもしれないですけど、本当の話です。今回ボクに起きたことを
「ふむ、よかろう」
よかった、話は聞いてくれそうだ。少し安心しつつ、ここからが
「ボクには、他の人にはないの――」
話を始めた直後、フォギプトスも通ったこの地下牢と思われる場所の入り口の扉の奥から、トタトタという足音と「お待ちください!」という女性の声が響く。何事かと僕とフォギプトス――恐らく、離れたところでギリュスルも――が視線を閉じられている扉に向けていると、大きな音を地下いっぱいに響かせて勢いよく開いた。
扉の奥から現れた、息を切らして両手を
「待ってください、お父様っ!」
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