転生2
体中が冷たい。ざあざあ、ぴちゃぴちゃと
――大丈夫だからね。
意味は分からないけど、何か声が聞こえる。優しくて、ちょっと
私の、最も古い記憶。ママやユキの話を聞いた限りでは、多分私が捨てられて、ユキに拾われた日の記憶。
私の名前はプロティア。シンド村育ち。生まれは、捨て子だから分からない。名前は拾われたときに
そういうわけだから、私の七歳年上の姉であるユキナと私は、血の
「ティアの髪と目、凄く
何度ユキにそう言われたか、覚えてないくらいだ。白い髪に赤い瞳、色白な肌。ママやユキは
シンド村の宿屋を
宿の前はよく日が当たって、夏はちょっと暑いけど心地良い。それに、ママも「プロティアが
けど、そんな日々は七歳になった頃に、終わりを迎えた。
その日の朝も、私は一仕事終えてお気に入りの切り株に
ここ一週間くらいで一気に気温が上がり、服を着ているのが嫌になるくらいだけど、昔
「こんなに暑いのに、よく日向になんていられるね、ティア」
「だってここが一番落ち着くんだも~ん。ねえユキ、涼しくなる魔道具とか持ってないの?」
「あるわけないでしょ、そんなもの。そんなに
「うへぇ、
そもそも、さっき切り株を冷やすのに結構魔法を使ったから、既にちょっと疲れ気味だ。暑いからお仕事や自分用にお水もたくさん用意したし。今日はもうこれ以上使いたくないなぁ、というのが本音。
「こっちもティアの魔法には助けてもらってる身だから、あまり言えないのよね……熱中症にはならないようにね」
ユキが人差し指でこつんと額をつつく。
「はぁ~い」
私の返事にこくりと頷いて、ユキは宿の中へと戻って行った。話し相手がいなくなり、静かになった村の中を見渡す。鳥のさえずり、森の葉が風で
空を見上げて、薄っすらと白く見える真昼の満月を
ふと、頬に何かが伝ったような感覚がした。
「雨……じゃ、ないよね」
空は雲一つない
「……涙?」
でも、涙が流れる理由がない。何かに感動したとか、怖いと思ったとかもない。ただ、ちょっと
「……目にゴミでも入っちゃったかな。別に痛くも何ともないけど」
急に涙が流れるとか、それくらいしか理由が思いつかない。
「何だったんだろう……まあいいや。ふぁ……」
魔法を沢山使ったからかな、まだ昼過ぎなのにもう眠いや。ちょっとの間だけ、寝ようかな。
動くのも
そして、数分もしないうちに眠りに落ちた。
――どれくらいの時間が経ったのだろう。
すると、再び体が強く揺すられる。まだ意識は完全には起きておらず、頭もボーっとするから、背中を向けて丸まるようにしてあとちょっと寝かせてと意思表示する。いつもなら我が姉ユキはこれであと三分くらいは見逃してくれるし、今日もいけると思った。だけど、さっきよりも強く揺すぶられ、
「ティア、起きてってばっ!」
背後から抱き着かれたかと思うと、体が右回りにぐるんと回る。さすがにもう引き延ばせないか、と感じ取って目を開けてみる。ぼやけた視界が徐々に
「ど、どうしたの? そんな、怖い顔して……」
もしかして、驚かせようとした? なんて冗談で雰囲気を
とりあえず、体を起こしてみる。
屋内で、窓も閉まっているせいか、
「ユキ、これ……逃げなきゃ……」
私がそう言うと、ユキは一瞬呼吸を止めたが、私が状況を理解したことを
「逃げるよ!」
そう言うや否や、私に
今日はまだ昼頃で、お客もあまり入っていなかったからか、私は西端の南側の部屋に寝かされていたようだ。部屋を出て、右へと方向を
受付まで行き、右手の宿の正面玄関を出る。火の手が上がっているようで、視界の右半分がいつもより赤みが強い。ユキが左に走り出す前に視線を右へと向けると、燃える家々の間で、
その手前で、ママと
「あんたも二人と逃げろ、女子供は優先させてくれる!」
「私はこれでも魔法使いです。それに、我が身を守る
「……無理だと俺が判断したら逃げろ、いいな。あんたにゃ生きてもらわねぇと、コウの奴に顔向けできねぇ」
「……えぇ」
ママは、ここに残って戦う。少なくとも、そのやり取りだけは確実だった。理解出来るほどの余裕があったのは、もしかしたらユキも会話を聞いていて、立ち止まっていたからかもしれない。一瞬、私の腕を掴むユキの右手に、力が
足取りは共に重く、宿の中を移動していた時に比べて私が本気で走らなくても問題ないペースになっていた。ユキの心中は分からないけど、私と同じ気持ちなのだとすれば、急いで逃げなきゃ行けないけど、ママの所に行きたい、見捨てたくない、そういう気持ち。でも、ここで戻ったらママの
数分走り続けて、村の東端に
「プロティア、ユキナ、来たみたいだな。早く乗れ」
馬車の
「これ以上は待てねぇ、行くぞ!」
御者さんが声を張ると、もう一台の馬車の御者さんがおうと応える。数秒もしないうちに、馬車は森の方へと進み始め、二分もすれば私の育ったシンド村は森の木々に
シンド村と同じ
「……ママ、生きてるよね」
「……うん、きっと生きてるわ。信じて待とう」
そう言い合って、お互いの悲しみと苦しみを
ユキは泊めてもらっていた宿を住み込みで手伝い、私はユキと同じく手伝いながら、貰ったお給金で冒険者さんを
そんな日々が三年続き、私は冒険者学園に通うことになった。
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