転生1
「ティア! 逃げないと、早く立って!」
声が聞こえる。
閉じていた目を開ける。
「何が、起きて……──ッ!?」
後ろの支えから上半身を起こそうとお
「がっ、ぁ……!」
言葉にならない
――僕、日向空翔は、日本のいたって普通の、両親がともに公務員でたまに
僕が五歳になるまで、僕の生活は実に楽しいものだった。やりたいと言ったことは、両親とも
妹が生まれてからは、僕も家事や妹の世話を手伝っていた。妹は
そして、僕が五歳になった年の夏、僕は家族で県外に
家を出て二時間ほどが経った。高速道路を
二秒ほど息が出来なくなったが、すぐに家族の
僕自身の体も見回す。所々怪我はあるし、出血もしているが、命にかかわるものはなさそうだった。次に、運転席と助手席に座っている両親に目を向ける。母は、フロントガラスの
父はもうだめかもしれない、そう思ったせいか、僕の中を
結果として、父は即死、母は腰部分の背骨を骨折しており、
その日から、僕は心の
事故から七年が
運動も五歳の頃から少しずつ続けていた筋トレのおかげで、体育では
ただ、唯一出来なかったものは、交友関係だ。僕が周りと距離を置いていたのも原因だろうが、周りが僕を
父が亡くなった事故以来、僕が近くにいると周りの人に
きっと、
そんなこともあって、僕は人との交流を出来る限り
小学校を
僕は、時間もお金も母に面倒をかけたくない、それに早く働けるようになって楽をさせたい、そう思ってその
ここならば、きっと母を楽させる方法が見つかる、そんな期待を
しかし、母を楽させたくてこの制度を受けたのに、逆に母と妹に
制度を受けるメンバーが決まると、テレビや新聞などのマスコミの記者が、実家へと一斉に押し寄せてきた。僕が家族への取材は一切断る、と言っても聞く耳を持たない。子供だからと下に見られていたのだろう。マスコミにとって、僕たちは
僕に何かある
大学を卒業した僕は、母のために作った、人工筋肉や人工骨で組み立てた動作補助装置の
それから三年――僕は世間からほとんど忘れ去られ、家族の声すらも忘れかけながら、工房でただ思いついた機械を作ることに
「……出来た。理論上は、これで
目の前に
「とりあえず、試運転、してみるか」
設計図を近くの机の上に置き、重力操作マシンの操作パネルに手を
「とりあえず、月の重力から試してみるか」
月の重力は、地球のおよそ六分の一だ。キーボードに重力加速度のおよその
ギューーン、というモーター音が工房内に
「よし、とりあえずは成功かな」
若干の
「クソッ」
「どこだ……!」
視線を右、左と
すぐに近づき、腰を落として引っ張る。しかし、他の装置に引っかかっているのか、おおきなかぶよろしく全く動かない。
「こんな時に……!」
最近筋トレをさぼっていたのと、普段から整理していなかったせいだろう。過去の自分を
体感温度は五十度を超えただろう。全身から汗が吹き出し、呼吸をすれば気管や
冷却マシンを
「はっ、爆発落ちなんて、さいてーだ」
昔どこかで聞いたようなセリフを口ずさんだ直後、視界が
♢
意識が戻った……という表現が正しいのかは分からないが、人間時代のそれと似たような感覚で目が覚める。上半身を起こし、辺りを見回す。見渡す限りの白だ。一瞬、まだ爆発の中にいるのか、と
なぜか固いベッドや床の上で寝た後のような痛みをもつ体を動かし、お尻を
もう少し回転してから、下の段に足を下ろして、手で上の段を押す勢いを使って立ち上がる。まるで寝起きのような感覚に、つい伸びをしてしまう。長い間同じ姿勢でいたのか、背骨がぽきぽきと
「……にしても、ここはどこだ? 僕は爆発に巻き込まれて死んで……天国、はないだろうし、ともすれば
「目を覚ましたようですね」
「……あなたは?」
「私は神です」
初学者用の外国語の教科書に
「そうですか。ここは、天国や地獄なのでしょうか?」
「いいえ、ここは
審判の間、ということは、
「ですが、ここでは先んじて私たち代理の神があなたがたに審判を下すこともできます」
「つまり、あなたが僕を天国か地獄、または転生のような
「はい」
老人とは思えない
「……僕は、地獄で構いません。それだけのことを、してきましたから」
「それを決めるのは、あなたではありませんが……私が
「救われた? 例え僕がしたことで救われた人がいても、僕が傷つけた人の数は
頭の中に黒い
「……そうですか。私は、あなたに一つお願いがしたかったのですが、それも聞いていただけませんか?」
「お願い? ……聞くだけ聞きます」
「ありがとうございます」
そう
「私は神として、いくつかの世界を観測しています。そのうちの一つが、どういうわけかあなたのいた世界で言う中世のまま文明が
「……そうですか。それなら、僕以外でもいいのではないですか? 僕はしがない一般人です。それこそ、アインシュタインみたいな人の方が、よっぽどいいと思いますよ」
「何を言いますか。あなたの発明は世間に公表すればきっと、現代の文明すら先へと進める可能性を含むものだってありました。そんなあなたなら、中世の文明を推し進めることなど、
「……別にいいです。僕はもう、罪を背負ったまま地獄に生きる覚悟はできてますから」
「……日本人であるあなたに分かりやすくするため、天国や地獄のような言い方をしましたが、実際はそのようなものはありません。すべての魂は無限なる一であり、唯一なる無限なのです。現世で死して
魂や無限なる一などと、
迷いが生じる。もし、転生してこの神の頼みを
「救いは万人に与えられた権利です。求めるか、
「……今より、悪い状況になるかもしれませんよ。僕は、
「すべては承知の上で頼んでいます。どのような結果になろうとも、構いません」
欲張っていい立場ではないのかもしれない。でも、欲張っていいと言われてしまえば、断る理由などなかった。覚悟なんて、
「分かりました。やれるだけのことはやってみます」
僕の返答を聞いてか、神様は僅かに白髭を動かした。
「あなたに行ってもらう世界は、魔法の存在する世界です。ですが、それ以外はほとんど地球と変わりありません」
魔法ありの地球、か。でも、文明を進めるなら定数の測定や、法則や公式の実験と再計算は必要かもしれない。時間はかかるだろうが、地球で初めて測定をした物理学者や哲学者などに比べれば、
「また、あなたには、その世界で生まれ育った人物として転生してもらいます。あなた自身を転生させることも可能ですが、時空の
「それって、転生先の人は死ぬのと同じなんじゃないですか?」
「ご心配なく。転生先の魂は、体の中で眠りに近い状態として生きています」
それはそれで、その人の人生を
転生先の人に対して若干の申し訳なさを残しつつも、自分に無理やり納得させる。その時、ふとこんな疑問が浮かんだ。神様というのは、ここまで人間らしいものなのだろうか、と。
僕の勝手なイメージだが、神というのは人間の命だの善悪だのは関係なく、自分の
ここはひとつ、
「一つ、質問してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「この世界は、神が見捨てた世界ですか?」
僕の質問に数秒の
「……ええ、そうです。この世界は、遠い昔に神が見捨てた世界です。なぜ、そのような質問を?」
「……神様がもしいるなら、活動に
「分かりました。それでは、あなたの新たなる人生に、大いなる
神様が
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