転生1

「ティア! 逃げないと、早く立って!」


 声が聞こえる。なみだじりの、さけぶような声だ。すぐ近くにいる。一体、誰だろうか。そもそも、僕は……いや、私はライニャ……。


 閉じていた目を開ける。めいりょうでない視界の中、深緑の肌をした人型の何かが、緑色のゲルがられた剣を振り上げていた。瞬間、反射的に僕は右手に持っている棒状の物をつかみ、右から左へと思いっきり振り払った。


 にぶい感触を右手に感じながら、緑の人が分断されて倒れるのを見守る。


「何が、起きて……──ッ!?」


 後ろの支えから上半身を起こそうとおなかに力を込める。しかし、それと同時に頭にするどい痛みが生じた。


「がっ、ぁ……!」


 言葉にならないめいを上げながら、持っていた棒も落とし、痛む頭を押さえる。そして、その頭の中には、大量の記憶が流れ込んできていた――


 ――僕、日向空翔は、日本のいたって普通の、両親がともに公務員でたまにぜいたくができる程度にはゆうふくな家庭に生まれた。家族は僕と父、母、三つ下の妹の四人暮らしだ。


 僕が五歳になるまで、僕の生活は実に楽しいものだった。やりたいと言ったことは、両親ともほどのことがない限りやらせてくれたし、それこそ実験や勉強に関することにはせいりょくてきに協力してくれた。僕はアウトドア派、というほどではなかったが、それなりに外での活動もしていた。


 妹が生まれてからは、僕も家事や妹の世話を手伝っていた。妹はすご可愛かわいくて、絶対に不幸な目になんてわせてなるものか、と当時は思ったものだ。


 そして、僕が五歳になった年の夏、僕は家族で県外にりょこうへ向かっていた。行きは父が車を運転して、帰りは母の予定だった。前日までに準備を終わらせ、両親は仕事を出来るかぎり片付けて、家を出発した。妹は凄くワクワクした様子で、僕も楽しみではあったが、妹を見ているといっそうその気持ちが強まった。


 家を出て二時間ほどが経った。高速道路をすでに一時間以上走っており、そろそろ一度SAサービスエリアきゅうけいをしよう、という話が出始めた頃だ。キキキーッ、と耳をつんざくような音が聞こえた。咄嗟とっさに僕は妹におおかぶさり、次の瞬間、僕の乗っていた車の前半分が大きくつぶれた。白いエアバッグが両親の前に出ているのが見え、事故が起きたのだと理解した。


 二秒ほど息が出来なくなったが、すぐに家族のあんを確認しないと、と思い至り、まず僕の下で大きな声で泣いている妹から離れて、怪我がないかを確認する。幸い、あしに擦り傷がある程度で、ほかの怪我はなかった。


 僕自身の体も見回す。所々怪我はあるし、出血もしているが、命にかかわるものはなさそうだった。次に、運転席と助手席に座っている両親に目を向ける。母は、フロントガラスのへんが何個か腕や背中に刺さっており、苦しそうなうめき声を出していた。一刻を争うかもしれないが、助かる可能性はありそうだった。父は……僕が見た時には腕をだらんとぶら下げ、生きているかすら分からなかった。


 父はもうだめかもしれない、そう思ったせいか、僕の中をくやしさがめた。しかし、まだ希望はある、と無理やり自分に言い聞かせ、母のかばんの中からスマホを取り出し、救急車を呼んだ。


 結果として、父は即死、母は腰部分の背骨を骨折しており、せきずいを損傷したことにより下半身ずいとなった。不幸中のさいわいは、僕と妹の怪我が大したことなかったことだろう。事故の原因は、相手側のねむり運転だそうだ。


 その日から、僕は心のそこから笑うことはなくなった。まるで人形のように、家族をらくさせるために勉強、そして家事のスキルを身に着けていった。母の面倒を見るために、筋トレも始めた。やれることを調べては、じっせん、調べては、実践をり返し続けた。


 事故から七年がけいした。僕は小学六年となり、そんなつもりはないのに学校内では天才、しんどうなどと呼ばれるようになっていた。勉強に関しては、小学二年生の時点で高校までの内容を自学自習でしゅうを終え、大学の範囲に手を出していた。そして、小学校を卒業するころには、大学の範囲も終え、いくつかのかくすら得ていた。


 運動も五歳の頃から少しずつ続けていた筋トレのおかげで、体育ではそうしていたくらいだ。五十メートル走は、小六時点で六秒後半だった。他にも、料理やそうなどなど使えそうなものはかたぱしから触れてきたためか、なんでもできていた。


 ただ、唯一出来なかったものは、交友関係だ。僕が周りと距離を置いていたのも原因だろうが、周りが僕をたかの花とでも思って近寄りがたい存在として扱っていたのも大きなよういんだろう。それに、僕が周りと関わろうとしなかったのには、理由がある。


 父が亡くなった事故以来、僕が近くにいると周りの人にわざわいが降りかかるようになったのだ。階段ですれ違った人は踏みはずして転ぶし、体育でバレーをしていれば僕のスパイクを顔面で受けて鼻血を出すし、調理実習で包丁を使っていれば僕と同じはんの子が指先を切ったりもした。


 きっと、わるかっただけなのだろう。でも、そう思い込むにはあまりにも数が多すぎた。それに、場合によっては怪我で済まないことだってあった。僕と関係が深くなればなるほど、不幸のいは大きくなった。


 そんなこともあって、僕は人との交流を出来る限りち、必要最低限の関係に収めるようにした。


 小学校をそつぎょうする頃、日本政府がある発表を行った。その発表というのは、一定のじょうけんを満たした子供を、試験的に大学へ政府がお金を出して飛び級させるというものだった。


 僕は、時間もお金も母に面倒をかけたくない、それに早く働けるようになって楽をさせたい、そう思ってそのせいを利用することに決めた。ありがたいことに僕は条件を満たしており、家事は妹に一通り教えていたこともあって、実家を出て日本で一番へんの高い大学へと入学した。


 ここならば、きっと母を楽させる方法が見つかる、そんな期待をいだいていたのは、最初だけだった。もちろん、大学の勉強がどうこう、という話ではない。ゆうだったし、行った価値は十分にあった。


 しかし、母を楽させたくてこの制度を受けたのに、逆に母と妹にめいわくをかけることになってしまったのだ。


 制度を受けるメンバーが決まると、テレビや新聞などのマスコミの記者が、実家へと一斉に押し寄せてきた。僕が家族への取材は一切断る、と言っても聞く耳を持たない。子供だからと下に見られていたのだろう。マスコミにとって、僕たちは美味おいしいネタでしかなかった。


 僕に何かあるたびにマスコミは家族に押しかけ、取材をする。そんな日々が四年続き、何度二人から何とかしてほしいと頼まれたか覚えていないくらいだ。最終的に、僕は家族に負担がかかるなら、と大学院へ通うことは諦めた。


 大学を卒業した僕は、母のために作った、人工筋肉や人工骨で組み立てた動作補助装置のとっきょを売り、実家から少し離れた土地を買い、そこに工房を作り、そしてけんから身をかくした。装置をわたしたとき、母と妹は疲れ切った顔をしつつも、非常に喜んでくれた。僕のせいでたくさん面倒をかけたのに、まるで僕は悪くないとでもいうかのような笑顔に、僕は心が痛かった。その笑顔を見たくなくて、僕は家族からもれんらくを絶った。


 それから三年――僕は世間からほとんど忘れ去られ、家族の声すらも忘れかけながら、工房でただ思いついた機械を作ることにせんねんした。


 めいで配信をしたり、企業のアドバイザーをしたりしてお金を得つつ、それで必要最低限の生活と装置の部品を買い集める。どうしても足りないときは、顔を眼鏡めがねやバンダナなどで隠しつつバイトなんかもした。そうして、これまで様々な装置を作り出した。


「……出来た。理論上は、これでどうするはずだ」


 目の前にちんする軽自動車並みの大きさの機械を見渡す。実際は、頭上や足元にもつながっているが、パッと目に入るのはこの本体のみだ。これが、今回作った装置、重力操作マシンだ。


「とりあえず、試運転、してみるか」


 設計図を近くの机の上に置き、重力操作マシンの操作パネルに手をえる。電源ボタンである緑のボタンを押し込み、数秒経つと操作パネルが光をともしキーボードが浮かび上がる。そこに僕が事前にさだめたコマンドを打ち込む。


「とりあえず、月の重力から試してみるか」


 月の重力は、地球のおよそ六分の一だ。キーボードに重力加速度のおよそのすうを入力し、緑のボタンの下にある黄色のボタン――作動ボタンを押し込む。


 ギューーン、というモーター音が工房内にひびき、わずかに体にかかる重力がけいげんしたように感じる。軽く地面を蹴ってみると、ふわりと体が浮かび上がった。


「よし、とりあえずは成功かな」


 あんの一息をこぼした瞬間、小さくなっていた僕にかかる重力加速度が、とつじょとして元のものに戻る。足が地面に着くと同時にひざを曲げて衝撃を殺す。何が起きたのかを確認するために視線を上げると、重力操作マシンがせきねつしていた。


 若干のあせりが生じ、立ち上がって辺りを見渡す。そして、設計図を置いた机の横にあるかごの中に、いくつかの部品が残されていた。は買っていないはずなので、あれは確実に付け忘れだ。そして、その部品はれいきゃくに関わるものだった。


「クソッ」


 あくたいきつつ、これまでのれきだいの装置類をまとめて置いてある一角へと近づく。この中に、瞬間冷却の装置を置いているはずだ。


「どこだ……!」


 視線を右、左とばやく動かす。見た目はタンクとロケットランチャーがせつぞくされているような見た目だ。体感温度が上がっているのを肌で感じながら、十秒ほどかけてやっと見つけた。


 すぐに近づき、腰を落として引っ張る。しかし、他の装置に引っかかっているのか、おおきなかぶよろしく全く動かない。


「こんな時に……!」


 最近筋トレをさぼっていたのと、普段から整理していなかったせいだろう。過去の自分をのろいつつも、どこか諦めがついているような気もした。これまで、沢山の人にめいわくをかけたんだ。死にぎわどくで、自分のミスで死ぬ。まさに僕らしいじゃないか。そんな考えが焦りに満たされている脳内をめぐった。


 体感温度は五十度を超えただろう。全身から汗が吹き出し、呼吸をすれば気管やはいが焼けているかのように痛い。けいの人は、焼け死ぬ前に肺や気管が焼かれてちっそく死する、という話を聞いたことがあるが、まさにこのような感じなのだろう。僕の場合は、火刑というよりサウナ刑の方がてきしていそうだが。


 冷却マシンをにぎる手から力が抜けていく。温度が上がるにつれて、僕の体温も上昇して正常に機能しなくなってきているのだろう。重力操作マシンに目を向けると、すでに表面は赤というより白に近いほど温度が上がっていた。


「はっ、爆発落ちなんて、さいてーだ」


 昔どこかで聞いたようなセリフを口ずさんだ直後、視界がじゅんぱくに包まれ、感覚は世界とゆうかいした。



 意識が戻った……という表現が正しいのかは分からないが、人間時代のそれと似たような感覚で目が覚める。上半身を起こし、辺りを見回す。見渡す限りの白だ。一瞬、まだ爆発の中にいるのか、とさっかくしそうになるが、そんなはずはないとすぐに脳内から捨て去る。


 なぜか固いベッドや床の上で寝た後のような痛みをもつ体を動かし、お尻をじくに少し回転すると、僕が寝ていた場所は周りより少し高くに位置していたことに気付く。


 もう少し回転してから、下の段に足を下ろして、手で上の段を押す勢いを使って立ち上がる。まるで寝起きのような感覚に、つい伸びをしてしまう。長い間同じ姿勢でいたのか、背骨がぽきぽきとのいい音を鳴らした。


「……にしても、ここはどこだ? 僕は爆発に巻き込まれて死んで……天国、はないだろうし、ともすればごく? 地獄ってこんなに真っ白なのか?」


「目を覚ましたようですね」


 とつじょ聞こえた少ししゃがれた声に、肩がぴくっとねる。方向は、背後からだ。


「……あなたは?」


「私は神です」


 初学者用の外国語の教科書にりそうな短さで、載らなさそうな内容の返事がくる。全身を少し灰色がかった白いローブで包み、フードをぶかに被っている。その下には長いはくはつしろひげが見えており、僅かに覗く瞳の色ははく色だ。肌は見た目の年齢の割にきれいで、しわこそあるもののまだ若さを感じられる見た目だ。それこそ、いけおじといったふうぼうである。


「そうですか。ここは、天国や地獄なのでしょうか?」


「いいえ、ここはしんぱんの間への入り口です」


 審判の間、ということは、えん大王のような存在がいるのだろう。そして、入り口ということは、ここからその審判の間まで進む必要があるということだ。


「ですが、ここでは先んじて私たち代理の神があなたがたに審判を下すこともできます」


「つまり、あなたが僕を天国か地獄、または転生のようなけつをする、という解釈でいいですか?」


「はい」


 老人とは思えないのこもった声で答える。僕はなんだかんだでいくつもの試練を越えてきた身だから何ともないが、普通の人ならば状況も相まってされてしまいそうだ。


「……僕は、地獄で構いません。それだけのことを、してきましたから」


「それを決めるのは、あなたではありませんが……私がかんそくしていた限りでは、あなたはあくまで間が悪かっただけだと思いますよ。そこまで思いつめる必要はありません。むしろ、あなたのおかげで救われた人だっているのですよ」


「救われた? 例え僕がしたことで救われた人がいても、僕が傷つけた人の数はゆうに超えていますよ。僕はマイナスの存在だ。転生なんてして迷惑もかけたくないし、天国に行く資格だってない……いや、僕が欲しくない」


 頭の中に黒いもやがかかっていくかのように、悪い考えばかりが浮かんでいく。でも、これは僕の本心でもあった。


「……そうですか。私は、あなたに一つお願いがしたかったのですが、それも聞いていただけませんか?」


「お願い? ……聞くだけ聞きます」


「ありがとうございます」


 そうしょうを浮かべて礼をべ、神は一つ呼吸を整えてから話し始めた。


「私は神として、いくつかの世界を観測しています。そのうちの一つが、どういうわけかあなたのいた世界で言う中世のまま文明がていたいしているのです。私のお願いというのは、あなたにこの世界の文明を進歩させてほしいというものです」


「……そうですか。それなら、僕以外でもいいのではないですか? 僕はしがない一般人です。それこそ、アインシュタインみたいな人の方が、よっぽどいいと思いますよ」


「何を言いますか。あなたの発明は世間に公表すればきっと、現代の文明すら先へと進める可能性を含むものだってありました。そんなあなたなら、中世の文明を推し進めることなど、容易たやすいことでしょう。それに、考えてもみてください。あなたは前世で沢山の人を苦しめたと思っているのですよね? でしたら、ここで沢山の人のためになることをすれば、つみほろぼしになるのではありませんか?」


「……別にいいです。僕はもう、罪を背負ったまま地獄に生きる覚悟はできてますから」


「……日本人であるあなたに分かりやすくするため、天国や地獄のような言い方をしましたが、実際はそのようなものはありません。すべての魂は無限なる一であり、唯一なる無限なのです。現世で死してうつわをなくした魂は、核とも呼べる高次元の空間へと帰り、新たな生を待つのです。すなわち、あなたはこのまま私の要求を聞かず無限なる一へと帰れば、父親と再会し、いずれは母親や妹とも再会するでしょう。その時、あなたは三人にどのような顔で接するつもりですか?」


 魂や無限なる一などと、てつがくのような話が続いたが、家族のことを持ち出されたことにより、僕の中の黒いもやは、強い後悔へと姿を変えた。父さんは、どんな風に今の僕のことを思っているのだろう。母さんは、音信不通のまま勝手に死んだ僕を、沢山の人を傷つけた僕を許してくれるのかな。妹――みどりは、沢山辛い思いも悲しい思いもさせた僕を、嫌っちゃったかな。


 迷いが生じる。もし、転生してこの神の頼みをかんすいして、前世で出来なかった分その世界の人を幸せにすれば、僕は家族に面と向かってただいまと言えるのだろうか、と。お帰りと、いいよと、言ってもらえるだろうか、と。こんな僕が、救いを求めていいのだろうか、と。


「救いは万人に与えられた権利です。求めるか、するかはあなた次第です」


「……今より、悪い状況になるかもしれませんよ。僕は、やくを引き寄せるみたいなので」


「すべては承知の上で頼んでいます。どのような結果になろうとも、構いません」


 欲張っていい立場ではないのかもしれない。でも、欲張っていいと言われてしまえば、断る理由などなかった。覚悟なんて、しょせんきょうと似たようなものだ。解決する可能性、欲望をかなえられる手段があるのなら、取らない手などない。


「分かりました。やれるだけのことはやってみます」


 僕の返答を聞いてか、神様は僅かに白髭を動かした。


「あなたに行ってもらう世界は、魔法の存在する世界です。ですが、それ以外はほとんど地球と変わりありません」


 魔法ありの地球、か。でも、文明を進めるなら定数の測定や、法則や公式の実験と再計算は必要かもしれない。時間はかかるだろうが、地球で初めて測定をした物理学者や哲学者などに比べれば、ぜんてい知識や現代の測定装置の知識がある分、楽だろう。


「また、あなたには、その世界で生まれ育った人物として転生してもらいます。あなた自身を転生させることも可能ですが、時空のゆがみが生じてぶんな手間が生じてしまうため、この方法を取らせていただきます」


「それって、転生先の人は死ぬのと同じなんじゃないですか?」


「ご心配なく。転生先の魂は、体の中で眠りに近い状態として生きています」


 それはそれで、その人の人生をうばっているような気もするが。でも、効率をよくしてかつ誰も死なないのなら、さいぜんなのかもしれない。転生なんて、小説や神話の世界の話と言ってもごんではないため、そのじったいは分からないが。


 転生先の人に対して若干の申し訳なさを残しつつも、自分に無理やり納得させる。その時、ふとこんな疑問が浮かんだ。神様というのは、ここまで人間らしいものなのだろうか、と。


 僕の勝手なイメージだが、神というのは人間の命だの善悪だのは関係なく、自分のさいりょうで勝手に殺したり転生させたりするものだと思っていた。それこそ、神話の神なんかはそうだ。だが、目の前の神様は、転生の決定権を僕にゆだねているし、転生先の人の命のことも考えている。神というのは、本当にここまで人道的なのだろうか。


 ここはひとつ、かまをかけてみよう。


「一つ、質問してもいいですか?」


「ええ、どうぞ」


「この世界は、神が見捨てた世界ですか?」


 僕の質問に数秒のせいじゃくが続く。そして、一度フスと鼻から息を吐いた神様が、口を開いた。


「……ええ、そうです。この世界は、遠い昔に神が見捨てた世界です。なぜ、そのような質問を?」


「……神様がもしいるなら、活動にしょうが出そうだな、と思ったからです。他に質問はないので、転生、お願いします」


 かくしんではないが、一つの仮説を頭の中に浮かべつつ、僕は転生の時を待った。


「分かりました。それでは、あなたの新たなる人生に、大いなるさちがあらんことを」


 神様が祝詞のりとのようにそう唱えると、感覚が徐々に薄れていった。痛む体も、神様の呼吸音も、僅かに香るうみに似た匂いも、徐々に消えていった。

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