三年の時を経て7
「……へ?」
状況が理解出来ないでいると、頭上にいくつかの
「よう、プロティア。楽しそうなことしてるじゃないか。俺達も
そう言って
「オリとアントは衛兵に
トルーナーさんが言うと同時に、三人が
「状況は?」
そう聞かれて、今は泣いている場合ではないことを思い出す。
「ゴブリンの数は少なくとも五十です。そのうち、ホブ・ゴブリンが三体、ウィザードが一体います。攻撃してもウィザードに回復されて、こちらは数の不利もあり
「
トルーナーさんが視線を瓦礫の上へと向ける。それに
「わっ」
「ユキ!」
剣をその場に置き、残り少しのところで
「ありがと、ティア。それと……約束通り、
「……ばか。無理しないでって言ったのに」
私の言葉を聞いて、ユキが笑みを浮かべる。安心感が
「顔、
そう言って、ユキが私の
「時間は
そう言って、トルーナーさんは検問室を出ていった。
「ティア、これからどうするの?」
「……戻るよ。怖いけど……逃げないって、決めたから」
「……そっか。強くなったんだね、本当に」
そう言って、ユキがこの戦いに来る
二十秒ほどでユキの
「じゃあ、行ってくる。ユキは、気を付けて街の中まで戻ってね」
ユキの後ろには、人二人分以上の高さの瓦礫の山がある。私は
「うん。待ってるね、頑張って」
ユキの言葉に一つ
やってやる。そう声にならないくらい小さな声で、一人呟く。
ユキを傷つけないよう地面に置いたままにしていた剣を
扉を
「プロティア、もういいのか?」
ゴブリンを斬り伏せ、その頭を
「はい、プロティア、いけます!」
質問に対してそう答えると、トルーナーさんは
「何とか、個体を減らす方法までは見つけたが、まだ
「そうですね」
相手の主力や切り札を封じることは、集団戦において大きな意味を持つ。そのくらいは、経験の浅い私でもわかる。しかし、それと同時に、そういった存在は
「斬り込んでもいいが、あいつらの剣、何やら
「
「エネルギー切れか。分かった、方法は考える。プロティアは回復に回ってくれ。レーダ、攻撃中心に
「はい!」
少し離れたところで回復と攻撃の両方を担っていたオプレーダさんが、いつもの優しい声とは似ても似つかない力強い声で答える。そして、数秒も
爆風に耐えるべく、少し重心を落として左腕で顔を守っていると、爆発で巻き上がった
「まずい……
指示を飛ばすと同時に、トルーナーさんは前線へと戻っていった。ホブ・ゴブリンと
その少し離れたところでは、オリューントさんも同様にホブ・ゴブリンの剣を盾で受けていた。一瞬動きが止まったホブ・ゴブリンの顔を、石の
トルーナーさんは棍棒を力で弾き返し、
しかし、トルーナーさんはそんなことは気にも
「私も何かしないと……!」
「ユキ……!」
まだ逃げられていなかったみたいだ。一瞬気を取られていると、ゴブリンが一匹、扉に向けて走っていた。恐らく、私と同様に、守っていた
ユキを助けないと……! でも、私は回復担当で……!
「レーダ、回復に回れ! アントは前に出てオリの
トルーナーさんは、ホブ・ゴブリンから距離を取りながら、パーティーメンバーと私に指示を飛ばした。まるで私の
「はいっ!」
今日一番の力強い声で返事をし、検問室に着こうとしているゴブリンへ向けて、地面を
しかし、このままだと私の足では間に合わないだろう。魔法を
「だったら……! 燃えろぉっ!」
左手を前に伸ばしつつ、頭の中でゴブリンの足元から炎が
本来、魔法というものは詠唱を行って、詠唱が意味する現象を魔力を使って具現化するものだ。しかし、強くイメージをする、もしくは頭の中で詠唱を唱えることで、表向きは無詠唱のように見える魔法も使える。私も練習を
「っ!」
魔法が消え、全身が
無詠唱の魔法の欠点というのは、慣れないうちは
「でも、これでユキは……――ッ!」
立ち上がろうと顔を上げる。そして、私の視界に映ったのは、緑の液体が
もちろん、先ほど燃やしたゴブリンとは別だ。もう一匹、同時か遅れてかは分からないが、防衛線を抜けられていたらしい。
力の入りにくい体に
どうする? 魔法は正直、撃つ時間も余力もない。剣を投げる? いや、当たるか分からないし、もし外れてユキにあたったらいけない。全力で走ってゴブリンを斬る? ユキに当たるかもしれないし、斬ったとしてもゴブリンの剣が止まるとは限らない。思いつく方法で、ユキを守れる方法は――。
「ああぁぁぁぁぁっ!」
掠れた声を上げながら、全速力で扉へ向かう。最中、剣を
「てぃ……」
ユキの声が聞こえたと思った瞬間、背中に
歯を食いしばり、剣を掴む右手と瓦礫を掴む左手に力がこもり、
「ティア、大丈夫っ!?」
ユキが上ずった声で聞いてくる。
「うん、ただの切り傷だよ」
そんはずがないというのは分かっているし、ユキも
重い体を動かして、振り返る。私を斬ったゴブリンは、生け捕りにしろと言われた私を弱らせたことが
「こいつ、すぐに片付け……ぅぁ?」
剣を正面に構えた瞬間、全身から力が完全に抜けて、後ろへと、ユキの腕の中へと倒れ込んだ。
「……ぁ」
声を出そうとする。しかし、僅かにのどが
そっか。あの剣に塗られてる液体、本当に毒だったんだ。思ったより早く効いたな……痛みが
肩を持ってユキが私を
ああ、守りたかったな、ユキのこと。このまま私が意識を
……そんなの、やだよ。私は、みんなを守りたくてここに来たんだ。足手まといになりに来たんじゃないんだ。でも、もう動けない。どうすることもできない。毒をなんとかするなんて
……だれか、たすけて。みんなを、まもって。
何とか動かせる瞼を動かし、目を
「分かりました」
声が聞こえた。女性にしては低い……男性の声だろう。でも、歌うように
「だれ?」
声が出た。周りを見ると、白で
「死んでないですよ。君はまだ生きてる。僕は、そうだな……転生者の、
「転、生者……? よく分からないけど、助けてくれるんですか?」
「ま、どこまでやれるかは分かんないですけど……やれるだけのことはしてみます。これでも、前世では
状況は理解出来ていない。でも、もうこの人に頼るしかないのだろう。
伸びた黒髪から
「お願いします。みんなを……ユキを、助けてください!」
青年は一つ頷き、右手を
「任せてください」
優しい声で青年が言うと、私の意識がすーっと
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