三年の時を経て4
私には、少し特別な力……なのかは分からないが、
どういう
そして、この涙は三年前のある夏の日──シンド村が魔物に攻め込まれて
当時はまだ、この涙のことがよく分かっていなかったため、何もすることが出来なかった。もちろん、分かっていたとしても役に立てたかは分からないが、前もって
でも、実際は何も出来ず、ユキに引かれてただ逃げることしか出来なかった。そのせいで、ママや仲の良かった村の冒険者の人達は、みんな魔物に殺された。ユキや大人の人達も、きっと私は悪くないって言ってくれるだろう。それでも、私はずっと
後悔してきたからこそ、今度は守る。そう決意して、私は宿の手伝いをしてお金をもらい、そのなけなしのお金で冒険者さんを
もしかしたら、
だとしても、何もしないでいる訳には行かなかった。
学園配布の革製の防具を身に付け、腰や肩にある
入学の前日……つまり、一昨日にユキに貰った、腕の形に合わせて曲げた金属板という
一張羅の上から、剣帯を
「……ユキのお父さん。初めての実戦です……どうか、支えてください」
顔も名前も知らない、ユキの父親から受け
涙が流れてから、二十分くらいが経っただろうか。時間はまだあるが、今のうちに出た方がいいだろう。ちょうど、同室の三人も
音を立てないように
「どこかへ行かれるのですか?」
ドアノブに手をかけようとした瞬間に背後から話しかけられ、肩と
ゆっくりと左回りに振り返り、二段ベッドの上段で上半身を起こして、暗くてハッキリとは見えないが、
「全然寝付けなくて……ちょっと、外の空気を吸ってこようかな、と思いまして」
ついさっきまで外にいた理由を述べる。嘘を吐いていることに
「……そうですか。まだ夜は冷えますから、風邪を引かないよう、気を付けてください」
だから、もしアトラさんに深く
そういうわけで、アトラさんがすぐに睡眠に戻ったのは、私としてはこの上なくありがたかった。
「帰ったらちゃんと説明します」
聞いていないだろうが、そう言い残して部屋を出る。
足音に気を付けつつ、走って寮の入口に向かう。入口の扉の前に立ち、静かに扉を押し、少し開いたところで体を
外はまだ
シンド村の時は昼間だった。その後、フェルメリアに移り住んでからの二回も、日がまだ出ている間の事だった。私が経験し、記憶している魔物の
そのため、
これまでの特訓は、どれも昼間に行っていた。魔物の襲来は昼間に起こるものだと思い込んでいたからだ。
しかし、今回は夜だ。ゆえに、私は夜における戦い方を知らない。視界の
「不安になってきた……ううん! やるって決めたんだ、やらなきゃ!」
小声でそう呟き、先程と同じ詠唱で火を作り出して視界を確保し、学園を取り囲む
中の見える正門から見つからないよう、
それに、いざとなれば私には
暗闇での戦い方を色々とイメージしながら進んでいると、前に伸ばしていた右手が塀に触れた。もう一度火を作って、空中に
「索敵」
目を閉じて、小さく呟く。私の周りにある魔力へ
学園周りの地図を思い浮かべ、私がいる近くの塀の外に視界を移動させる。すると、
息を殺し、
立っていた場所から数歩下がり、塀から数フォティラスの距離を取り、前後に足を開いて腰を落とす。そして、息を整えたところで、左足で地面を強く
数歩走ったところで、壁まで一フォティラスを切り、勢いそのまま両足を地面について深く
三フォティラスはあろう塀の
「バレてないよね。今のうち」
まさか、学園を抜け出すことなんてないだろう、などと考えた数十分後に抜け出すことになろうとは、誰が思っただろうか。もしかしたら、これがママやユキが言ってたフラグというやつなのかもしれない。
そんなことを考えたせいで、胸がキュッと苦しくなる。今は
走りはしない。この後、どのような
さすがに、こんな時間に人はいない。場所によっては衛兵が見回りをしているだろうが、大通りなどという目立つ場所は基本少し
まあ、それも領主の
静かな広い道を、西へ向けてゆっくりと歩く。たまに大通りに
そうこうしているうちに、街のほぼ西端まで来ていた。あと
「……まだ、一日も経ってないのに」
胸の
寂しさを感じたのは、離れて暮らすから……では、ないだろう。
「寝てる、よね。うん、寝てるはず。起こしちゃ悪いし……」
体の向きを宿から西門へと向ける。しかし、足が動かない。どうしても、宿の方へ──ユキのいる場所へと
「……少しなら、いいよね。ちょっと
このままじゃ行くに行けないと
一度深呼吸をして、
そうだよね、仕方ない。そう思い、
「……誰?」
少し
「私、プロティアだよ」
小声でそう言うと、ユキの視線が私に向く。半分しか開いていなかった目が
「
と、少し嬉しそうに問いかけてくる。そんないつも通りのことなのに、涙が込み上げて来そうになるが、なんとか
「そんなわけないでしょ、もうそんなに子供じゃないし」
「知ってる、ティアはしっかりしてるもんね……じゃあ、あれかな、例の涙」
「……うん」
寝起きのくせに
「そっか……行くんだね」
「うん。この日のために、頑張ってきたから」
「何か出来ること、ある?」
ユキの言葉に、少し思考を
「宿に
「分かった」
ユキが小さく頷く。恐らく、最後の付け加えは無視されるのだろう。ユキのことだ、絶対に誰かは連れて来る。そんな確信があった。
「じゃあ、行くね」
「待って、ティア」
ユキは私を呼び止めると、両腕を私の
どうして落ち着くのかは分からないが、私が赤ちゃんの頃からしていたそうなので、ユキの心臓は落ち着くサインだ、と
ユキの
「頑張って」
「うん、行ってくる」
そして、私は宿から離れ、再び西門へと歩みを進めた。
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