三年の時を経て2
「俺はフルドムだ。このAクラスを担当する」
荷物を
見た感じ、ほとんどが貴族だろう。さすがと言うか、当然というか……とはいえ、貴族らしからぬ雰囲気を持つ人も何人かいる。恐らく、平民か貴族の中でも少し
「これから二年間、お前達はここで
クラスを追い出される、なんてこともあり得るのか。でも確かに、付いて行けなくて学園の授業が
「では、今日はこれで
そう言うと、フルドム先生は教室を出ていった。
そんな教室内の様子に
先んじて
「貴族の人達が集まってないってことは、もしかしてあなたも平民?」
女子なのは間違いないのだが、どこか少年味を感じる顔立ちの黒髪少女が、気さくな感じに話しかけてくる。この子の言い回しを
「うん、そうですよ」
「やっぱり! よかったー、あたし達以外にもいたよ、イセリー!」
「そうね。とりあえず、自己紹介をしましょうか」
黒髪っ子が振り返って犬のように喜んでいるが、イセリーと呼ばれたお姉さん系の少女は、透き通るような
「はーい! あたしはカルミナ。ケルシュニルって服屋の一人娘だよー」
よろしく、と言いながら、
ケルシュニル。この国フォーティラスニアの公用語であるフォーティラ語における、
実際、
カルミナとの握手を終えると、後ろに立っていたイセリーが自己紹介を始めた。
「私はイセリーです。農業区の
細工師モールド……確か、冒険者さん達が言うには、腕は確かだが
私もいずれ冒険者になる予定だし、もしかしたら世話になることもあるかもしれない。今のうちにちょっとしたコネを作るのも、ありだろう。
イセリーとよろしくと言い合い、二人の自己紹介が終わり、私の番となった。ただ、二人と違ってこれといった情報もないから、どう紹介したものか。
「私はプロティアと言います。えと、一応、特待生です」
「特待生!?」
「
二人の目がキラキラと輝いて見える。どうやら、すっかり興味を持たれてしまったらしい。とはいえ、
「あ、そうそう。あたし達一緒の部屋にしよって話してたんだけどさ、プロティアも一緒にしない? 貴族様と一緒だと落ち着かないしさ」
「私からもお願いします。あまり
この
「いいですよ。二年間、よろしく」
頭の端っこが少しムズムズするような感覚がしたが、原因が分からなかったため、
――のはよかったが。
昼食をとった後、寮の
しかし、平民だけの落ち着いた時間は、長くは続かなかった。部屋を決めた約三時間後、ベッドに座っての
「アトラスティ・フェルメウスと申します。アトラとお呼びください。三年間、よろしくお願いしますわ」
そう、この街の領主の娘、アトラさんだったのだ。
忘れてた、私、入学式の前にアトラさんと友達になったんだ。ということは、同室になる可能性が高い。カルミナとイセリーの
アトラさんは侯爵――上級貴族だ。平民の私達は本来、
ここは、私が何とかしなければ……! という決意をもって、アトラさんに話しかける。
「えっと……ちなみにですがどうしてこの部屋に? ここ、私も含めて平民しかいないので、アトラさん的には
居心地悪いのは私達の方です、とは言えないため、とりあえずアトラさんに
「別に、居心地が悪いということはないと思いますが……
それを聞いた瞬間、両隣の石になった二人に対する申し訳なさが、更に
「も、もう一つは?」
「この領地を
無理です、とはとても言えない。それに、そもそもこの
とにかく、まずは
「えっと……アトラさんと同じ部屋になれたことは凄く嬉しいです。私も、友達と一緒に過ごせたらいいな、って思っていたので。それでその、一度私達平民組だけで、お手洗いに行ってきてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんが……あ、そういうことですか。すみません、いきなりのことで
どうやら、アトラさんも
仕方ない。ここは多少
「お手洗い行くよー、二人ともー」
左手でカルミナの左手を、右手でイセリーの右手を
寮は三階建てで、それぞれの階にそれぞれの学年の生徒が暮らしている。今年は、一階に私達一年が入り、二階に二年が入っている。三階は教師や部屋が足りなかった場合の
この通路を北に進むと、右手に女子トイレ、左手に男子トイレ、正面にお風呂がある。といっても、お風呂があるのは一階だけで、二階は食堂、三階は
女子トイレに入った私達は、それぞれ個室で用を済ませ、私の魔法を使って手を洗った――平民は基本的にトイレの後には手を洗わないが、私は
「プロティア。どういうことか、教えてもらえる?」
話を切り出したのは、イセリーだった。その目には
その横で、イセリーのその様子を察したのだろうカルミナが、場を
「とりあえず、この状況を生んだことについて、ごめんなさい」
深く頭を下げる。これには、今ここで首を切られても構いません、という意味が込められており、謝罪の際には
今イセリーがどのような表情をしているのかは分からないが、とにかくこれで気を
「謝罪は受け取りました。それで、あなたに聞きたいのは私達に
さっきまでよりワントーン低くなった声で、
それでも、ここは私が取り持つべき場面であることは
「私が平民っていうのは、嘘じゃないよ。少なくとも、平民として育ってきたし、
私の話に口を
「ごめんね。突然の事でちょっと頭がこんがらがってたの。でも、プロティアがちゃんと話してくれたから、ある程度状況は理解出来たわ」
「そ、そっか。ならよかった……」
緊張した雰囲気も
「でも、アトラスティ様と二年間も同じ部屋で過ごすなんて、どうしたら……」
「多分、大丈夫だと思うよ。アトラさんはそこまで
「そうかな……」
「あたし、夜寝られる気がしないよ……人って、二年間寝なくても生きていけるかな?」
「さすがに無理だと思うな。一週間……よくて十日くらいが限界だと思う」
それに、一日や二日寝ないだけでも頭はボーッとするし、
「ミナは我慢強くないから、二日と持たなさそうね」
「そ、そんなことないもん! ……多分!」
イセリーの言う通り、二日ともたなさそうだ。
イセリーに対して
「ねぇ、プロティア。アトラスティ様って、本当に怖くない?」
「そうだね……イタズラしたり、物を
「じゃあ、余裕だね!」
自信満々にそう言うカルミナを横目に、イセリーと
「ミナ、骨は拾ってあげるね」
「
「なんでぇ!?」
予想外の返答だったのか、カルミナは眉を外下がりにして不満を
「ごめん、ちょっとからかっただけよ」
「カルミナは
「なにさー!」
涙を浮かべて笑う私とイセリーに、カルミナが再び頬を膨らませる。しかし、すぐにぷーと息を吐いて、イセリーに優しい視線を向けた。
「カルミナ、どうかした?」
ちょっと意外な表情を見せたカルミナが気になり、聞いてみる。
「別にー。
そう言って、カルミナは一人先に部屋へと向かいだした。
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