「12年」

 もうここに通って12年になる。初めは近所にあったその店も移転してバスや車を使わないと少し遠い。それでも髪を切ろうと思う度にここに来る。



 小さい頃は予約すれば大体取れた。月日がたち今ではかなり前から予約しないと取れない人気店になっている。



 いつも散髪のお兄さんと心の中で呼んでいた。私は3人兄弟の次男なのだが兄はどことなく幼く感じてしまい、心の中での兄は散髪のお兄さんだった。



 中学生まではスポーツ刈りしか頼まなかった。高校生になって色づき始める年、どうも私はオシャレが恥ずかしいと感じてしまい、「いつも通りで」と済ます。



 シャイな私は散髪のお兄さんとの会話もぎこちないものになる。自分の話を普段からしないこともあり、最初の5分くらいで会話は終わる。それが心地良い。気を張らなくて良い。自然体でいられるといったところ。そんな理由もあり私は通ってしまうのだろう。



 そんな私も春から社会人となるのだ。次の散髪くらい明るい話ができるように、話題を考えておこう。

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