第8話 パーラー・アテナの籠城戦(ハ)
「リサ、拳銃で
俺は呻きながら銃口をそいつに向けた。熊型NPCは唸り声で体毛を振動させながら、眼球だけで俺たちを睨んでいる。
「!?」
リサが殺気と視線で俺の発砲を促した。
「フォ!」
獣は殺気に反応する。
のそりとこちらへ頭を向けた熊型NPCへ、決心した俺はリボルバーを立て続けに発砲したが――。
「――うーわ、三五七マグナム弾でもビクともしねェ」
俺の声は引きつった。リサは舌打ちと一緒にP232をホルスターへ戻した。拳銃では効果がないと諦めたのだろう。俺もこの時点で諦めた。七発撃って、そのうちの六発は熊の頭を捉えた筈だ。しかし、熊型NPCは倒れないどころか、それを気にする素振りすらない。俺たちがいる階段の幅は広くはないので、身体が大きすぎる熊型NPCが駆け上がってくることは今のところなさそうだが――。
「リサ、上の駐車場にある武器庫だ、そっちで対物狙撃銃を――」
俺が声をかけている最中、
「フォォォォォォン!」
熊の咆哮と一緒に足元が「バカンガクン!」と傾いた。
横殴りに振られた熊の腕が階段の踊り場の下半分を吹き飛ばしたのだ。
「ぬぅあ!」
手摺へしがみついた俺の呻き声だ。
「!?」
リサは俺の腰にしがみついた。
「うわあぁあ!」
一緒にいた団員が転がったがかろうじて下へは落ちなかった。
「ふっ、ふざけるなよ、一撃で階段の下半分が消えた――リサ、上だ、上へ移動しろ!」
俺が急かしたところで、
「あああっ!」
「くっ、熊だ!」
「熊型NPC!」
「グレネードを持ってこい――」
「いや、もう間に合わねえ!」
「見ろ、手負いだぞ、頭を狙って止めを刺せ!」
声を上げたのは下の出入口から銃を持って戻ってきた団員だ。発砲が始まると同時に、「フォ――」短い唸り声を上げた熊型NPCがそっちへ突っ込んだ。外で銃を撃っていた団員がどうなったのか、俺がいる位置からは見えなかった。だが、ホールまで千切れた手足がぶっとんできたので結果はお察しだ。あの手足の所有者は熊の爪を食らってしまった不運な奴だろう。遅れて悲鳴が聞こえた。それが途絶えてまた悲鳴と銃声が聞こえた。
「俺も熊型のNPCは初めて見たが――」
俺は呻いた。
リサは小さく頷いて見せた。
「あれは信じられないほどタフだぞ――」
熊型の移動した床に印がついていた。巨大なモップへ血を浸して走らせたような感じだ。グレネード弾を食らいながらつっこんできた代償なのだろう。熊型NPCは腹の下から長く内臓を引きずっていた。それで動きが鈍っている様子もない。熊に追われた連中にとっては不幸なのだが、リサと俺にとっては幸いだ。熊型は下の武器庫から戻ってきた団員を狙って外へ出ていった。
「良し、今のうちに銃を――」
俺が階上へ視線を向けると、
「太田、さっさと上の駐車場へ増援を呼んでこい。このままだとまたNPCに侵入されるぞ!」
上の駐車場にいた団員がまた一人、階段を下ってきた。下ってきたところでその先の階段が消えているのを見て、その団員は足と言葉を止めた。
「上の駐車場にいる連中は何をやっているんだ。あんな化け物を前哨基地へ入れやがって――!」
俺が毒づくと、リサが「!」と強く頷いて見せた。
「奴らは、グレネードでも止まらないんだ!」
これは元からここにいた団員――太田の発言だ。
「それはさっき聞いたよ、そこを退いてくれ。あんたは――村松さんっていうのか?」
俺は上から来た団員のジャケットの名札を見て言った。
「ああ、その声は黒神さんだな。これはもう駄目だろう。すぐ春日井新団地まで撤退を――」
ホールの惨状を凝視していた団員――村松が呻き声を上げた。
「すっトロくせェことを言ってるんじゃねェよ。それが気軽にできりゃあ、こんな苦労はしてねェだろうが」
俺は唸った。
「上の武器庫だ。あの熊を片付けるにはでっかい口径の銃がいる――」
リサと俺が太田と村松をそこに置いて、上半分になった階段を上がり始めると、
「フオッォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!」
また熊の咆哮と一緒にパーラー・アテナが揺れた。
「今度は、何だよ?」
「!?」
俺とリサは下へ視線を送ったところで東側の壁がぶっ飛んだ。そこからのそりと入ってきたのは当然、例の熊野郎だった。警報機のブザーが鳴り響いていた。悲鳴は聞こえてこない。熊野郎は真っ赤だ。自分の血と返り血の両方だろうね。
「おいおい、壁を突き破って移動しているのか――無茶苦茶だ、何て奴だ――」
俺は笑い声を上げた。
状況が危機的すぎて笑うしかないよ、もう――。
呆れた様子のリサは無反応だった。
「このまま熊を放っておいたら!」
「前哨基地が穴だらけになるぞ!」
太田と村松が、階段を上がるリサと俺を見上げた。
「いーや、俺も正直ね。マジで居住区へ帰りてェ。これは、畜生、最悪の仕事だぜ――」
俺が笑い声で言い残した直後だ。
「バカヤロー、コノヤロー、こいつを食らいやがれ!」
ホールに駆け込んできた男が熊に負けないほどの音量で咆哮した。
これは内山さんの怒声だ。
「!?」
階段を上がっていた俺の手をリサがを引いた。
「フォォォォォォ――」
迷うような動きのあとだった。
熊型NPCが内山さんへ顔を向けた。熊が自分のほうへ身体を向けるのを待って、内山さんは銃のトリガーを引いた。内山さんが構えているのは、ドラム型のマガジンがついた、フルオートの散弾銃だった。
「――ホォ、フォォオッ!」
熊の頭がかんしゃく弾が炸裂したような光に包まれて体毛と血肉が一緒に散った。見る見るうちに頭が砕けていった。それでも熊型NPCはのろのろ前進した。内山さんは一歩も退かず銃を撃ち続けた。ジャブの連打を浴びながら前進するボクサーのような形で、熊型は内山さんの目の前までいったが、しかし、それまでだ。熊型は前のめりに倒れた。倒れた熊の手の打撃でコンクリの床がビシビシ割れる。
それも、見ているうちに止まった――。
「――ああ、内山さんが使ったのは、AA-12とフラグ弾か」
俺が呟くとリサがこくんと頷いた。
「――ああよゥ、生きてたな、黒神、リサちゃん」
内山さんがAA-12を右手の先にぶら下げて顔を上げた。
「!」
リサがはっと俺へ視線を送った。
「内山さん、血が、どこか怪我を――?」
俺は呻いた。
内山さんの顔が――耐胞子マスクが真っ赤だ。
その身体全体も血に濡れている。
内山さんが自分の身体へ視線を送って、
「ああ、これなァ――俺の血じゃねェぜ。この熊野郎のだ。グレネードを食らいながら突っ込んできたから腹がパックリ割れてやがってな。汚ねェなァ、バカヤロー」
「あれは胞子へ感染させるためにやったのかしら――」
俺の耳元で秋妃さんの声だ。
「わあっ、秋妃さん、いつのまに!」
俺は仰け反った。
「!」
横でリサもビクンと身を固めて秋妃さんを見上げた。やっぱり耐胞子マスクで顔は見えないが女性の肉体と囁くような独特の喋り方で、これはすぐ秋妃さんだとわかる。
俺たちの驚きに特別な反応もない秋妃さんが、
「黒神さん、あの熊型は下の駐車場で集合していた私たちへ突っ込んできて、わざと血をまき散らしたのよ。何人かその血をまともに浴びて――」
秋妃さんが当時の状況を教えてくれた。
「内山さんはNPCの血を頭からかぶったのか――」
俺の声は震えた。NPCの血を浴びて胞子に寄生されたという話を俺は今まで聞いたことがない。だがそれはそんな状況が滅多に発生しないからだ。
内山さんはおそらく――。
「――そうなるよなァ、バカヤロー」
内山さんが言った。
耐胞子マスク越しで表情はわからない。
だが、笑っているような声だった。
「内山さん、それってかなりまずいぞ。早く除菌剤をかぶって血を洗い流さないと!」
俺は手摺から身を乗り出して怒鳴った。
「偵察班が戻ってくるのが見えたぞ!」
「NPCの群れと一緒にだ!」
「猪型だ、猪型に追われてる!」
続いて上の駐車場からの怒鳴り声が届いた。
「ああ、そうだ。おい、早く上の駐車場へ増援をよこしてくれ!」
「援護の人手が――射手が全然足りていないんだよ!」
松本と太田が階段を駆け上がっていった。リサと俺は顔を見合わせた。パーラー・アテナの南出入口――駐車場の出入口を塞いでいたバリケードは突破されたらしい。階下の防衛にも人手が必要に思えるが――。
「あァ、黒神、リサちゃんな」
内山さんが言った。
「上の駐車場で援護を頼む。俺は除菌剤をかぶったら、下にいる生き残りをまとめて面倒を見るからよゥ――」
「下にいた連中は全滅したわけじゃないのか!」
俺は怒鳴って訊いた。
「俺だけは熊を追ってきたがな。残りは突破されたバリケードを修復している筈だぜ。空いた穴にヒト型NPCが群れてやがるからな。やれやれ、苦労して作った前哨基地が穴だらけだ――」
内山さんがAA-12で肩を叩きながら廊下へ歩いていった。
「秋妃さんはどうする?」
俺が振り向くと、
「団長、上の駐車場の手がまだ足りないわ。下からもっと応援を回して。外の階段はまだ無事よ、そっち側から上がれるから!」
秋妃さんはもう屋上に走っている。
「ああよゥ、秋妃、これは忙しいよなァ――」
内山さんは振り返らずに笑い声を上げた。
「おい、団長、その恰好はどうした――!」
これは我慢できずに指令室から飛び出てきた島村さんの叫ぶ声だ。
「おゥ、島村、今は俺に近寄るなよ。ちょっと除菌剤と噴霧器を南のバリケードまで持ってきてくれや、とにかくよゥ、忙しいからよゥ――」
内山さんの姿は廊下の南へ消えた。熊型NPCの死体と内山さんの背を見比べて、島村さんはしばらくそこから動かなかったが、やがて「くっそう!」と悪態をついたあと、外の備品置き場へ走っていった。
視線が落ちた俺の脇腹に、
「!?」
リサの肘鉄が刺きささる。
「――痛いよ、リサ」
俺は呟くように言った。
実際、そのときのリサの肘鉄はそう痛くもなかった。
「!」
リサが俺の手を引いた。
「わかってるよ、すぐに行くから――」
俺はリサと一緒に上の駐車場へ出た。
この元パチンコ屋は下に広い駐車場があって、四角い建物の屋上も広い駐車場になっている。営業していたときそこまで客を呼べるほど流行っていたのかどうかは知らないが、とにかく広い敷地のパチンコ屋だ。全体の敷地は野球場二枚分以上の面積があった。屋上駐車場には車載機関銃のついたハンヴィーを東西南北にずらりと並べて固定銃座代わりに使っていた。壁際には探照灯も多く備えつけてある。並んだ銃口の半分は火を噴いていた。残りの半分は銃座に取り付く人員がいなかった。射角が許す限りで周辺から寄ってくるNPCをここから迎撃する形になっている。撃ち漏らしたNPCは下のバリケードの銃眼から対応する。下からも怒声と銃声が聞こえた。
リサと俺は屋上のプレハブ小屋――上の武器庫に入った。リサはラックからバレットM82を持ってきた。仰け反るようにバレットを持ってよたよた歩くリサはすごく重そうだ。
そんな体勢のリサが俺をじっと見上げるので、
「ああ、わかった、わかったよ。そいつは俺が持ってやる。リサはそっちを――M110を持ってこい」
「?」
リサが顔を傾けた。
「ああ、わからないか? えーと、そこにあるセミオートの狙撃銃だ。まだ敵は遠いだろうから車載機関銃だと、弾が当たらんだろ――」
俺はリサから受け取ったバレットを肩に担いで棚から弾の箱を取った。
武器を手に屋上駐車場の壁面へ寄ると、下ではヒト型NPCがバリケードへ向かって突っ込んでいた。ヒト型NPCは下の機関銃類で対応できているようだ。下の駐車場にはヒト型NPCの死体が散らばっていた。熊と一緒に突っ込んできた個体なのか、バリケードの突破に反応して集まってきたのか――。
まあ、今はよくわからない。
とにかく屋上の俺たちが注視しなくてはいけないのは東南だ。
偵察班が撤退中の方角――。
「――どんな状況だ、秋妃さん」
「?」
俺は壁面にとりついて双眼鏡を覗いていた秋妃さんに声をかけた。その背に愛用のSAKO RK95を背負っている。
「無線の連絡通りよ。南の道を分散して偵察班が撤退してきているわ」
秋妃さんが双眼鏡から目を外した。
「ああ、もう肉眼でも見えるけど――撤退してくる装甲車が少なすぎるだろ――」
リサに促された俺は壁際にバレットを設置した。
「少ないわね――」
秋妃さんが溜息と一緒に言った。
「偵察に出た奴らはほとんど全滅なのか――」
俺は呟いた。
「――そうみたい。でも生きている団員だっているわ」
秋妃さんがRK95を背から下ろした。
「くっそ、マジで帰りてェな――」
俺は呻いた。リサはバレットのスコープを覗いてすぐズドンとやった。肉眼では見えないが、スコープで捉えたNPCをたぶん撃ったのだろう。俺は一二カンマ七ミリ弾が飛んだ方向とは真逆を眺めていた。
バレットの反動でリサが仰向けにひっくり返っている――。
「――!」
ふんっと仰向けになったままリサが手を出した。
「ああ、リサ、大丈夫なのか。怪我はない?」
俺はリサを助け起こした。
「!?」
立ち上がったリサがものすごく不満そうに俺を見上げた。怪我はないみたいだ。バレットM82という対物狙撃銃はマジで反動がおかしくて、よほど銃を撃ち慣れたひとでも、発砲時の反動で後ろへ下がるスコープ部分で眉間を割ってしまうことがある。リサの身長と体重だとすっ転んでも不思議でない。
でもなあ、その拍子に耐胞子マスクが外れたら大変だぞ。
気を付けろよな――。
ふーっ殺気立ちながらバレットを睨むリサへ、
「ああ、うん、リサね。一二カンマ七ミリ弾ってのはさ、元々が固定銃座向けに開発された大口径弾だから手打ちの銃で撃つのは、かなり無理があるんだよ」
俺は説明した。
リサは頷かない。
納得できないようだ――。
「ああ、やっぱり、リサはこっちを――M110を使いなよ。な?」
俺が勧めると、
「!」
M110に取り付いたリサがぶんっと顎をしゃくって見せた。
「ああ、俺もやるけどさ――」
俺はバレットの方へついた。
秋妃さんはRK95で、前哨基地の近くにいる近くにいるヒト型NPCへ銃弾を浴びせていた。ハンヴィーの銃座にいる連中も似たようなものだ。南東から逃走してくる装甲車が何台か肉眼ではっきり確認できるようになると、それにつれてパーラー・アテナ周辺のNPCが多くなってきた。
そのたいていはヒト型NPCだから銃弾で処理できるが――。
「リサ、これは最悪だぜ――」
俺は呻いた。バレットのスコープを覗いた先だ。こちら走ってくる装甲車が横転した。車列に突っ込んで暴れているのは熊型NPCだった。俺は奴の頭を照準に捉えてトリガーを引いた。もう一度、トリガーを引いて熊の頭を叩き潰した。動きを止めるのに二発必要だった。横転した装甲車にいた連中が這いずりだしてきたが、そこで待ちかまえているのは仲間ではなくヒト型NPCだった。並走していた装甲車はヒト型NPCを跳ね飛ばして撤退を続けている。どの装甲車も止まらない。止まってももう助けることができないからだ――。
M110の弾倉の弾を撃ち尽くしたリサが、並んでバレットを使っていた俺へ顔を向けた。横目で見ると耐胞子マスク越しにある天使の瞳が揺らいでいる。
狙撃で多少数を減らしても助けられない――。
俺はただ頷いて見せた。何も言わなかった。言う言葉がなかったからだ。バレットのスコープに目を戻した俺はヒト型NPCの腕力で生きたまま引き裂かれる団員を見つめた。その中年男の団員は俺のよく知った顔ではなかった。でも確かに団で見たことはある。言葉を交わしたこともあったかも知れない。内山狩人団の――将棋組にいた誰かだったと思う。俺のほうに悪い印象は残っていないから、たぶん、気分のいいひとだったのだろう。俺はNPCの腕に捕らえられた彼が絶命するのを見計らって、ヒト型NPCの頭をぶっ飛ばした。中途半端なことをして死の苦しみを長引かせるのは残酷だと思ったからだ。
ええと、あのオッサンの名前は何といったかな――。
「――言っても仕方ないってことくらい、俺にもわかっているけどね」
俺は横目でリサを見やった。リサは弾倉を次々代えてM110を撃ちまくっている。溜息をついた俺は秋妃さんがそこに残していった双眼鏡ででかい的を探した。熊型か猪型のNPCだ。あの化け物どもを相手にすると装甲車は裏返しになって走行不能になる。
焼石に水だろうがな――。
俺は双眼鏡と目視を使って撤退してくる車列を狙う熊型NPCと猪型NPCを探し出し、それをバレットで撃ち殺す作業に集中した。リサはM110から弾を飛ばしまくっている。
それをしばらく続けたあとだ。
「参ったな、俺たちはここまでかも知れんぞ?」
俺は呟いた。
「!?」
リサが横目で睨んできた。
涙に揺らいでも不屈の闘志に燃える天使の瞳だ。
泣き言を言うな!
戦え!
「斎藤君達は人間のまま帰ってきたのかな――いや、生きているとは限らないけどさ。いやだな、例え男でも知った顔に死なれるのは、やっぱり気分がひどく落ち込むからな――」
俺は笑い声で泣き言を並べた。
リサは返事をしなかった。
俺は偵察班の全滅を予想していたが、パーラー・アテナの北側にある開けた駐車場へ辿りついた装甲車は何台かあった。
運がいいのか、
判断がいいのか、
腕がいいのか。
俺から言わせれば、生きて帰れた奴は運がよかっただけだ。偵察班への援護は陽が落ちるまで続いた。撤退する装甲車がなくなると、パーラー・アテナの周辺に押し寄せていたNPCの群れも引けた。理由はよくわからない。化け物の考えることだ。人間の頭で考えてわかるわけないだろ。
リサと俺はホールへ降りた。そこに撤退してきた偵察班の連中が集まっていた。みんな疲労困憊して表情が鈍い。俺の知った顔もそこにいた。
斎藤君と三久保だ。
「八反田と橋本は帰ってこれなかった――」
ベッドに腰かけてロザリオを握った斎藤君の表情はこれまでにないほど暗かった。
「そうか――」
俺はそれだけしか言えなかった。
リサは俺の横で床を睨んでいた。
その瞳から火を噴きそうな勢いだ。
将棋組のリーダー的な深沢さん双子兄弟も兄のほうが帰ってこれなかったらしい。これは近くにいた三久保が俺に教えてくれた。深沢さん双子兄弟は顔も体格もそっくりで髪型まで同じ角刈りだったから、俺はどっちが兄なのだか弟なのだかわからなかったが――。
ともあれ今日の明け方だ。
輸送路の確保のため南方へ突出した偵察班は総勢で二百名以上いた。
生きて帰ってきたのは五十名足らず――。
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