第11話 佐久間前哨基地の攻防戦(ロ)

 俺たちは南検問ゲートを制圧したあと佐久間前哨基地へ押し入った。

 感染者駆除作戦の開始だ。

 陽が落ちる寸前に到着した天竜自警団二百名近くも俺たちに合流した。前もって口裏を合わせてあったのだろう。先行した俺たちの後ろをえっちらおっちらついてきていたのだ。俺は船明でも秋葉でも状況を詳しく訊いたが、そこにいた人員の口は一様に重かった。つまりそういうことだったわけだ。まあ「騙されるマヌケが100%悪いよな?」だ。リサがこの増援に来た連中からもらったフルーツの缶詰の数々は欺瞞のような罪滅ぼし――。

 佐久間前哨基地へ散在する感染者を処理するのは伊里弥狩人団の役割だった。感染者はたいてい家屋に隠れている。その四方を取り囲んで催涙ガスを撃ち込むと感染者が外へ飛び出てきた。それを待ち構えていた連中で撃ち殺すわけだ。始末が悪いことに感染者は抵抗もすれば恨みごとも言う。銃を持っていれば反撃もしてくる。感染者の駆除作業を続ける伊里弥団長以下百三十名余は顔が真っ青だった。手際も悪い。爆発物を持って突っ込んできた感染者がいた。手榴弾か何かを腹へ巻いてあったらしい。それでドカンだ。伊里弥狩人団の連中がまとめて何人も吹っ飛んだ。ほとんどは即死だった。

 遠巻きに駆除作業を眺めていた俺とリサは怪我をしなかった。

 天竜自警団の死者も出なかった。

 カルロスももちろん無事だ。

 ここまで無傷の天竜自警団は「駆除作業を支援する」と言っておきながら、実際は伊里弥狩人団へ銃口を向ける形で作業を強要していた。これも最初からそうするつもりだったのだろう。後続からの増援で人数を増やし続ける天竜自警団へ、伊里弥狩人団からの反論はなかった。この作業中、頻繁に何か言いたそうな顔で伊里弥団長が顔を向けてきた。

 俺は何の表情も浮かべずに視線を返してやった。

 リサはずっと下を向いていた。

 カルロスはへらへら笑っていた。

 感染者駆除作戦には丸二日を費やした。夜は胞子の反応が出ない家屋に移動して、除菌剤をかぶって寝た。耐胞子マスクをつけたままだ。息苦しくてほとんど眠れない。それに危険な山中での野営だ。NPCに襲撃を受けないことを祈るしかない。幸運なことにNPCの夜襲はなかった。しかし、もうここまでくると無事に朝を迎えても運がいいのか悪いのかわからない。ともあれ、リサも俺もその一晩を生き抜いた。

 夜間、感染者からの散発的な反撃があったらしい。家屋から出ると感染者の死体が道端の一ヵ所に積み上がっていた。その死体の山は真っ白だ。佐久間は雪が降ってもおかしくない気温の低さだったが雪ではない。除菌剤を振りかけてある。見上げると寒空は昨日と同じように青く晴れ渡っていた。俺の横でリサは下を向いている。

 朝から感染者駆除作戦を続行した。

 佐久間前哨基地の北方面――佐久間ダムの施設や発電所に大人数の感染者が立てこもっていた。そこでも催涙ガスが役に立った。カルロスと一緒に後方に控えた俺は催涙ガスの充満したダム施設から飛び出てくる感染者をかたっぱしから撃ち殺した。佐久間ダムは高低差で百五十六メートル近くあるらしい。俺が撃った感染者が何人かはダムの下へ真っ逆さまに落ちていった。俺は笑ってしまった。ひとの手で作られた大渓谷へひとだったものが落ちていくその光景が、ひどく間抜けに見えたのだ。

 リサは俺の横でずっとうなだれていたから表情がわからない。

 俺の周辺で銃を使っていた自警団の連中も顔色が良くなかった。

 笑っているのは俺とカルロスだけだった。

 二日目の夕方に感染者の駆除はおおむね終わった。佐久間前哨基地には千人近くの住民がいたらしいが、俺達が駆除をしたのは五百名に満たなかったと思う。感染が始まると感染したものと感染しなかったものの間で諍いが起きる。俺たちの到着前に死んだ人間も多かった。催涙ガスをぶち込んでも反応のない家屋のなかにはたいてい死体があった。その死体は全部まとめてガソリンをかけて広場で焼いた。この駆除作業で伊里弥狩人団から出た犠牲者もそこで焼かれた。伊里弥団長が「それでいい」と言ったらしい。伊里弥は意識的に作った余裕を常に匂わせているような男だったが、駆除作業を終えたあとその余裕が消えていた。そこにいたのはくたびれた表情の中年男だった。

 それでも俺たちの仕事はこれで終わったのだ。

 リサと俺、それに伊里弥狩人団は来た道を引き返した。カルロスも「俺も自治区へ戻るわ」と言って俺のハンヴィーへ乗り込んだ。後続で到着した天竜自警団の大半は現地に残った。

 彼らは佐久間前哨基地の復旧作業に当たる――。


 §


 秋葉前哨基地で一夜を明かした俺たちは、朝を待って天竜自治区へ出発した。

 どうにか、任務完了まで動いてくれたオンボロ・ハンヴィーの運転手は俺だ。カルロスはやっぱり車の運転をしてくれない。

「伊里弥狩人団を半分も減らせなかったな」

 カルロスが笑った。伊里弥狩人団から五十人以上の犠牲者が出た。伊里弥団長が乗ったストライカー装甲車が俺の前を走っている。俺はカルロスへは返事をせずに助手席のリサへ目を向けた。リサは俺の視線に気づいても車窓を眺めていた。

 リサが全然相手をしてくれないので嫌々だ。

「――カルロス。そうやってへらへらしているがな、天竜自治区は本当に大丈夫なのか?」

 俺は訊いた。

「秋葉で無線連絡を入れたけど何の問題もなかったみたいだぜ――おい、黒神、灰皿あるか?」

 カルロスが煙草を咥えた顔を運転席と助手席の間へ突き出した。

「ああ、リサに撃ち殺されるのが希望なら好きに吸え。これはレンタカーだからな。吸い殻は適当にそこらへ捨てろよ」

 俺が応えると、

「!」

 リサが抉り込むように首を捩じって、くわっとカルロスを睨んだ。

「ま、煙草はやめておくか――」

 その視線に叩かれるような形でカルロスが顔を引っ込めた。

「このまま皇国軍が自治区で何もせずに大人しく帰ると思うか?」

 俺はストライカー装甲車のケツを眺めながら呟いた。

「どうだろうな――ああ、リサちゃん、飴、食べる?」

 カルロスが飴玉を持った手を突き出した。

 飴玉を受けとったリサは手にきたそれをじっと見つめた。

 俺が横目で見やるとニッキ飴だ。

 これって、かなりひとを選ぶ味の飴だよね――。

「――今回の仕事だ」

 俺は言った。

「皇国軍にとって何の得もないぜ。これだとただの死に損だ。それになカルロス、お前個人だって皇国軍の連中から恨まれたぞ。これはやり方が強引すぎるぜ」

「ま、そうだろうなあ。だから俺は自警団の二百をつれて帰ってきた。本当ならこいつらも佐久間前哨基地の復旧作業に残したかったんだけどね――」

 カルロスが車窓に目を向けた。曲がりくねった細い山道を後ろからぞろぞろと天竜自警団の車がついてくる。改造して後部に機関銃を取り付けた四輪駆動車やトラックが多かった。区外でまともな装甲車を調達するのは難しい。それでカルロスは組合から借りてきたオンボロでも俺の運転しているハンヴィーに乗りたがる。こいつは各部補強されている。NPCは簡単にドアを引っぺがすことができない――。

「――ああ、それは知ってる」

 俺は言った。

「それに黒神ィ――?」

 カルロスのおどけた声だ。

「何だよ?」

 俺のほうは唸り声だ。

「犬ってのは飼い主のために働くものだろ。飼い主の手を噛んだらそれは狂犬だ。胞子に感染していなくても狂犬は殺処分だよな?」

 カルロスが笑った。

「まあな」

 俺は無感動な気分だった。

「天竜自治区は浜松居住区へ鼻薬をたっぷり嗅がせているんだ。正確には日本再生機構の審議員へだな。綺麗な取引だけで互助関係を構築しているってわけでもない」

 カルロスが言った。

 言葉と一緒にニッキ飴の匂いがする――。

「――そうだろうな」

 俺は頷いて話を促した。

「日本再生機構は皇国軍のパトロンだろ? 天竜自治区はそのパトロンといい関係だ。だから、日本再生機構は天竜自治区へ気前良く飼い犬を貸してくれたんだよな。それをどう使い捨てても文句は出てこないだろ。再生機構のお偉いさんは現場でひとが何人死のうと気にしないだろうぜ。そういう奴らだからな」

 カルロスはそんな考えらしい。

 俺は訊いた。

「その日本再生機構との交渉役も、お前がやっているのか?」

「いや。外との交渉役は栄倫さんだよ。栄倫直親」

「あの坊主か――」

「あれはそういう仕事に向いているんだ」

「まあ、営業はお前向きじゃないよな」

「ま、そういうこっと――」

 そこでカルロスと俺の会話が途切れた。リサがニッキ飴へ鼻先を寄せてふんふんしながらすごい顔をしている。この表情を言葉にすると「警戒心」になる。

「リサ、その飴ね。匂いは独特だが甘くて旨いものだぞ。俺は嫌いだけどな」

 俺は無表情で教えてやった。

 俺の嫌いな食べ物のたいていを俺のリサは好んで食べる。

 リサは目を丸くして俺へ視線を返した。

 頬が熱くなるほどの熱視線だ。

 俺は前を向いて運転を続けながら、

「カルロスはまだ天竜自治区で働くつもりか?」

「――んぁあ?」

 カルロスはあくび交じりの返事だ。今回の作戦中、カルロスは不眠不休で働いていたから、疲れが溜まっているのだろう。

 あと一時間も走れば天竜自治区へ帰還できる――。

「――お前さえ良ければ、俺が居住区の狩人団を紹介してやるぜ」

 俺は言った。

 どうしてこんなことを言ったのか自分でもよくわからなかった。

「へえ、珍しい――黒神、お前は作らないのか?」

 カルロスが訊いてきた。

「――何を?」

 俺は首を捻った。

「仕事仲間?」

 カルロスも首を捻ったような口調だった。

 俺は少し考えて、

「――ああ、自分で狩人団を結成しないのかってことか?」

「それだそれ。別に狩人団でなくて会社でもいい。お前、御影狩人団が解散してからずっと一人で仕事をやってきたって言ってたよな?」

 カルロスが身を乗り出した。

「まあ、今はリサがいるぜ」

 俺が目を向けると、

「!?」

 リサは顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。

 変な顔だ。

 泣き笑いみたいな表情だ。

 リサはニッキ飴を口に入れたらしい。

 それ好きなひとは好きらしいぞ。

 俺は大嫌いだけどな。

 そんな感じで俺はニッコリ笑ってやった。

 笑顔は返ってこなかった。

「ま、リサちゃんも含めてだな」

 カルロスが言った。

「二人きりで仕事をやるのは色々と不便じゃないのか。今回だってこんなヤバイ任務を組合から回されたんだろ。俺が直接仕切っていなかったら黒神だってリサちゃんだって危なかった。いや、この際だな、黒神が天竜自警団で働くってのはどうだ。リサちゃんは愛空と聖空と仲がいいよな。学校だって行っておいたほうがいいだろ、な?」

「――リ、リサが学校ね」

 動揺した俺はリサへ目を向けた。

 ニッキ飴を口にいれたリサはさっきと同じ体勢でまだ俺を睨んでいた。

 顔が真っ赤だ。

 よくもわたしを騙してくれたな。

 命果てるまでお前を恨み抜いてやる。

 覚悟をしろ!

 まあ、そんな感じだ。

 しかし、リサは少し時間が経つと怒っていたことを忘れてしまう鶏頭なのだ。

 気にする必要は全然ない。

 ほっと息をついた俺が視線を前へ戻すと、

「おゥ、黒神ィ。そこらはどうなんだよ?」

 カルロスが話を促した。

「俺は組織で働くのに懲りたよ。あのとき――御影狩人団が解散したとき、お前へもそう言った筈だぜ?」

 俺はカルロスへ目を向けた。

「ああ――」

 頷いて見せたカルロスが、

「でもさあ?」

 次の発言でもう納得いかないような表情だ。

「何だよ?」

 俺はぞんざいな態度で促した。

「黒神は昔からよく言ってただろ、いずれ自分の狩人団を立ち上げるってな、な?」

 カルロスが言った。

「とにかく、今の俺にそのつもりはない」

 俺は言った。

「そもそも、人間ってのは向き不向きがあるからな。俺という男は組織を率いるのに向いてない。組織なかで働くのにも向いてない。年齢を食った後で、それがわかった――」

「ああ、そう?」

 カルロスが後部座席へ戻った。

 余計なお世話かもな。

 そんな感じで迷ったのだが、結局、

「――カルロス。お前だって上役には向いていない性格だ。そろそろ、天竜自治区の運営からは身を引いたほうがいいと思うぜ」

 俺は言った。

「おいおい、黒神。今の俺は天竜自警団の団長だぞ。一度に千人は動かせるんだ。御影狩人団より人数はずっと多いぜ」

 カルロスがおどけた声を高くした。

「ああ、数だけはな――」

 俺は呟くように言った。

「――ま、数だけだ。だが、俺は組織を動かしている。それで成功もしているさ」

 カルロスが怒った様子もない。

 当時の御影狩人団は組合でも屈指の埃っぽい野郎どもで作られた組織だった――。

「それは、あのな、カルロス――」

 俺は言い淀んだ。稲葉・カルロス・譲司は結局のところ天竜自警団を信用していない。信用していないから今回の失地奪還作戦で外部勢力に頼った。天竜自警団の団員もカルロスから距離を取っている。実際、部外者の俺の装甲車にカルロスは同乗しているが、お伴の団員の一人だってつれていない。おそらく、ついてこないのだろう。何日か一緒にいたからわかった。天竜自警団の連中はカルロスとの間に一定の距離を置いている。へらへらしているが仕事へ入るとカルロスという男は過剰に苛烈だ。感染者の駆除に腰が引けるような連中とは住んでいる世界が元々違う。直接的な暴力ではなさそうだが、カルロスは天竜自警団を恐怖で支配をしているのだろう。恐怖で支配された組織はいずれ自壊する。人間の集団は長い時間の強圧に耐えられない。

 カルロスも俺もだ。

 現場で恨みを買って生きていくしかない人間だ。

 だから、すべての責任を負う必要がない副団ていどの役職がお似合いなのだ。

 御影狩人団でもカルロスと俺はそんな役回りを担当していた。

 それにだ。

 あの団を仕切っていた御影洋一という男は――。

「――まあいい。カルロス、内山狩人団だよ」

 だが結局、俺は自分の考えを言わなかった。

 言ってどうなるものでもないだろうしね――。

「ああ、あの大顎の団長さん?」

 カルロスが言った。

「そうだ。内山さんのところの団は羽振りがいいぜ。団員は厳ついのが多いがそれでいて仕事は手堅い。カルロスにその気があるなら紹介してやるぞ?」

 俺は少し笑った。

「ふぅん――」

 カルロスの返事はこれだけだった。

「乗り気じゃないみたいだな――」

 俺は呟くように言った。

「黒神は内山狩人団に入団しないの?」

 カルロスから逆に訊かれた。

「だからさっきも言っただろ」

 俺は言った。

「もう組織で仕事をするのはウンザリだ。どうでもいいような人間関係の面倒事が多すぎるからな――」

「それを何故、俺に勧めるんだ。怪しいなあ――」

 カルロスがフンと笑った。

 俺のほうはムッとして、

「いや、内山さんの団は本当に手堅いぜ。何度も一緒に仕事をやったから間違いないよ」

「――そうなのか?」

「カルロスだって天竜自治区より居住区で暮らしたいだろ。自治区には飲み屋すらないじゃねェか。よく正気を保てるもんだな、あんな環境でよ」

「あのさあ、黒神、お前は昔から非情な奴だよなあ――」

 カルロスがわざとらしい溜息を吐いた。

「その台詞だけは、お前の口から聞きたくなかったぜ――」

 俺だって溜息を吐いた。

「俺が居住区へ移動したら、聖空と愛空はどうすりゃいいんだ」

 カルロスが言った。

 声が笑っていない。

「――ああ」

 俺の顔が歪んだ。

 歪んだ俺の顔がサイドミラーに映っている。

「その内山狩人団がさ、居住区の住民票を買えるほど報酬をくれるならいいんだけどな」

 カルロスが言った。

「もちろん、聖空と愛空の分もだ。だが、いくら羽振りが良くてもそれは無理だろ。あの二人をNPC狩人として組合に登録するわけにもいかないよ。黒神のところのリサちゃんは特殊すぎるんだ。あんな――」

「――どうかな」

 俺はカルロスの話を遮った。

「カルロスだってこれまでの仕事でだいぶ金をため込んでいるだろ。もう何年か天竜自治区でお山の大将をやってるわけだしな。お前こそ指定居住区で何かの事業でも旗揚げしてみたらどうなんだ。飲み屋でも火砲店でも風俗でも何だっていい。仁侠連ヤクザのツテが欲しければ、それだって俺が何とかしてやれるかも知れないぜ」

「――金、ね。そうでもないよ。あの栄倫ってクソ坊主は案外とケチなんだ」

 カルロスは表情のない声で言った。

「案外? 寺の坊主ってのはまあ、みんなそんなもんだろ?」

 俺は笑ってやった。

 カルロスは天竜自治区を支配下に置いているわけではない。

 最初はそのつもりだったのかも知れない。

 だが、それができなかったのだろう。

 あくまで稲葉・カルロス・譲司は今も雇われの兵隊だな――。

「――ま、気を使ってもらって悪いがな。俺は天竜自治区でまだ粘るつもりだ」

 カルロスが言った。

「聖空と愛空が独立するまでか。それはまた涙がちょちょ切れる話だよな――」

 俺は呻くように言った。

 助手席のリサが俺をまだ見つめているのがわかった。

 運転席の俺は前を向いたまま彼女に視線を返さなかった。

「――ま、そんなところだ。あいつらが――聖空と愛空が地力で居住区の住民票を買うなり、他の手段で生きていけるようになったら、俺もまた身の振り方を考えようかな?」

 カルロスが軽い調子で言った。

「――天竜自治区はそこまで持つのか?」

 俺は訊いた。

 低い声だった。

「そこを俺が持たせるのさ」

 カルロスが笑った。

「ああ、そうかよ――」

 俺は呆れて鼻を鳴らした。

 そのあと、車内の会話は途切れた。暇になったカルロスが車載のラジオの電源を入れた。それ壊れてる。スピーカーからはノイズしか聞こえてこない。後部座席から身を乗り出したままの姿勢でカルロスはじっと視線を送ってきたが、俺はそれを無視してやった。

 こんなの俺の所為じゃないからな――。

 何が面白かったのか、よくわからない。

 無言で動きを止めたカルロスと沈黙する俺を見て、リサが笑っている。

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