第4章 追憶の復讐者

第1話 パフェと修羅(イ)

 珈琲風味の生クリームとカスタードクリームと珈琲風味のアイスクリームと珈琲ゼリー。背の高いガラスの器にどっさり盛られたそれらへ、甘いモカ・カプチーノ・リキュールをたっぷりと垂らした、モカ・カプチーノ・パフェだ。これはゴチック・メイドなデザインの紺色の制服を着た若い女の店員が、俺の前へ運んできたものだ。俺が自分で注文した。だから当然、注文通りのものが運ばれてきた。みんながみんなパフェを注文するから、ひとりだけ珈琲を頼むのも気が引けて、ついついこんなシロモノを発注してしまった。場の空気を乱すと必ずトラブルを呼ぶものだろう。俺は面倒事を極力避けて生きる主義なのだ。

 だが、俺は甘いものが嫌いだ。

 大嫌いだ。

 目の前にそびえ立つクソの山――もとい、珈琲パフェから目を逸らすと、ぴかぴかに磨かれた大きなガラス窓から入る明るい陽の光に乗せて、楽し気なBGMが流れている店内の客は、たいていが若いカップルだとか子供連れの家族だとかで、彼ら彼女らは談笑をしながら和やかな雰囲気を醸していた。

 一方、このお洒落な店の中央にある丸テーブル席へどんと陣取ったこのメンツだよ。

 内山佐次郎(五十九歳)、

 島村勇人(五十八歳)、

 斎藤晴彦(三十四歳)、

 橋本力也(三十三際)、

 三久保義昭(たぶん三十路)、

 以上、すべて中年以上の男性だ。

 このむっさ苦しくてガラが悪そうなオッサンどもの前にあるのは、色とりどりの甘ったるいパフェだった。例外はひとつもない。この視覚的には犯罪者の集団に、リサと俺も加わっている。この集団は完全にこの場から浮いていた。周辺からちらほら飛んでくる胡乱な視線でそれがわかる。さっきテーブルへパフェを運んできた店員の女の子は明らかに笑いを堪えていたし。

 俺は周囲に気づかれないよう溜息を吐きながら隣の席へ視線を送った。

 リサが目の前にきたイチゴ・チョコ・パフェDXを見て顔を真っ赤にしている。怒っているわけではない。馬鹿でかい器に盛られた生クリームだのアイスクリームだのイチゴだのチョコだのを見て興奮しているのだ。鼻息もふんふんと荒く、超がつくほど興奮しているのだ。

 リサは甘いものが大好きだからね――。

 年末に小池主任から連絡を受けたリサと俺は森区の大農工場から浜松居住区へ移動してきた。そのあと、俺たちは藤枝居住区から移動をしてきた内山狩人団と一緒に仕事をやった。もちろん、アブラ狸の裏工作に便乗して規定以上の報酬を受け取りながらだ。俺と内山さんとアブラ狸がグルになってやった汚い仕事は、ここまですべて順調に終わっている。

 今回やった仕事が終わったあとだ。

「来月から俺たちは付き合いのある狩人団のヘルプで、名古屋居住区へ移動しなきゃならねェんだよ。だから、しばらくの間はお別れだ、コノヤロー。黒神、リサちゃん、今からちょっとツラを貸せ。旨いものを食わせてやるからよゥ」

 内山さんがそう告げた。その内山さんにつれてこられたのが、浜松居住区の駅前にある高級甘味専門店『富士屋』という店だ。本来なら見送る立場の俺から内山狩人団の面々へ酒の一杯も奢るのがスジなのだと思う。しかし、そこは親分肌の内山さんが譲らなかった。まあ、俺よりも内山さんのほうがアブラ狸の小細工で遥かに稼いでいるから、その埋め合わせの意味もあるのだろうが――。

 しかし、何が悲しくて、命懸けの仕事をやってきた男と男が別離する席で女子供が好む甘ったるいパフェをお昼どきに食わねばならんのだ?

 確かに汚染列島でこの手の甘味は高級品になった。

 俺が頼んだこの珈琲パフェだって五千円近くの値段がついていた。

 奢る値段は間違いなく豪気。

 だけど、俺には内山さんのセンスがよくわからない。

 内山さんが、たらいサイズのガラス容器へカチ盛りになったプリンアラモードから顔を上げて、

「おい、黒神、そんなに遠慮をするな、コノヤロー」

 内山さんのしゃくれた大顎の先に生クリームがついていた。

 普通、それがつくのって鼻の先じゃないのかな――。

「ああ、うん。じゃあ、もらうよ――」

 俺は珈琲パフェをスプーンで口へ運んだ。口のなかで広がった珈琲のほろ苦い香りを、生クリームのしつこい乳臭さと甘味が虐殺していく。舌の上に残るのは喉と胸が焼ける感覚だ。俺はコップの水でそれを強引に流し込んでやった。

 俺は甘いものが本当に苦手なのだ――。

「どんどん、食えよゥ、お代わりも遠慮するなよゥ――」

 目を細めた内山さんに、リサはぶんぶん何度も頷いて見せた。

 イチゴチョコパフェを抱えこんだリサは鼻先に生クリームをつけている。

 これが正統派だ。

 顎の先に生クリームってのはあり得ないよ。

 ま、そんなのどうでもいいけどね――。

「――内山さんたちは、今月中にも名古屋へ行くの?」

 俺は話の続きをした。

「あァ、そうだ。どうしても、俺からは誘いを断りきれなくてな。だから、黒神とやる浜松の仕事も今回で終いになる。悪いなあ、コノヤロー」

 内山さんが特大のカスタードプリンを金色のスプーンで崩しながら笑った。

「正直、こっちのわがままなんだ。急な話ですまないな、黒神さん」

 島村さんが毛髪の足りない頭を下げた。

 島村さんが食っているのは緑色のキウイパフェだ。

 まあ、この情報はどうでもいいか――。

「いやいや、内山さんたちが謝る必要は全然ないよ。俺は浜松でも内山さんの団に甘えて随分と稼がせてもらったからね。こっちとしては本当に感謝しかないから――」

 俺が手を振りながら笑うと、

「あのさ、黒神さんさあ――」

 一緒の卓にいた三久保が顔を上げた。チョコバナナパフェをモリモリ食う三久保は、森区の大農工場でひと悶着あったあと、居住区でNPC狩人として活動するようになった。俺のほうもついでだったから、内山さんの狩人団へ三久保を紹介してやった。まだ、入団してひと月ていどだ。でも三久保は内山狩人団に溶け込んでいるように見えた。やたら長かった三久保の髪も今では短く刈り込んである。化粧もやめた。そうしている三久保は以前と違って清々しい男前に見えた。団の雰囲気に合わせて変身したんだろうね。この元V系ロックの男は俺と違って世渡りが下手なタイプの人間ではないようだ。

「何だよ、三久保?」

 俺は苦笑いで訊いた。

 三久保が言った。

「黒神さんとリサちゃんも、俺たちと――内山狩人団と名古屋に来ればいいんじゃね。名古屋の組合がさあ、来月から大規模な作戦をやるらしいんだよ」

「へえ、藤枝でやったローラー作戦みたいな?」

「いや、名古屋は居住区を拡張するらしいぜ」

「――拡張か?」

「うん、その工事をしている間、それを警備するNPC狩人は仕事が途切れない。こんなおいしいイベントは滅多にないだろ」

「へえ、そんなことが――」

 俺はリサへ視線を送った。

 リサはイチゴチョコパフェの器に顔を埋めたまま、じろりと視線を返してきた。

 元静岡居住区はNPCの制圧下にある。かろうじて武装ディーゼル機関車の運用は続いているが奪還できていない。藤枝居住区へのNPC襲撃も日々増加しているらしい。沼津ベースに駐屯している在日米軍が、西へベースを移す計画が持ち上がっている。日本再生機構が区民の生活空間を広げるため、西で動いているということなのだろうか。

 それを訊こうとしたところで、

「三久保、おい、コノヤロー」

 内山さんが声と大顎を上げた。

「あえ?」

 三久保の間抜けな返事だ。

「この俺だって黒神とリサちゃんを団へ何度も誘ったんだぜ。でも、絶対に首を縦に振らねェんだ、このバカヤローはよ」

 内山さんが俺を睨んだ。俺は素早く視線を逃がしておく。触らぬナントカに祟りなしだ。この初老の男は信じられないほど怒りっぽい。

 決して悪い人間ではないのだけどね――。

「――黒神さん、気にしなくていい。ウチの団長は何に対してもかなりしつこい性格だからね」

 島村さんが髭面に穏やかな笑みを浮かべた。

 その黒い髭に生クリームがべっとりついている。

「黒神、遠慮はするな――」

 斎藤君が呟いて、

「いつでも歓迎だ!」

 橋本が暑苦しく吠えた。

 斎藤君は俺と同じ珈琲パフェで、橋本はミックスバケツパフェという名がついたこの店で一番に重量のあるパフェを食べていた。名称はバケツだが容器はバケツっぽいガラス製だ。これはパフェ世界のモンスターだと俺は思った。この二人もいい大人の癖に甘いものが嫌いでないようだ。もちろん、二人とも獣の匂いがする野郎もいいところだ。橋本は、これから使う予定もないのに散弾銃までも背負っていた。斎藤君は脇から吊るしたホルスターに、黒いフレームのコルト・ガバメントを突っ込んである。

 まあ、これもどうだっていいね――。

 俺はうつむいたまま歪んだ笑みを浮かべて、

「お誘いは、もちろん、ありがたいよ。でも俺は以前、所属していた狩人団で少し面倒な思いをしたんだ。それからは単独で組合の仕事をやることに決め――ぐあっ!」

 痛い。

「!?」

 俺の向う脛がリサに蹴っ飛ばされた。

「リサ、気軽に他人様の足を蹴るな」

 俺は唸ってみた。

 リサはイチゴチョコパフェを素早く食べながら俺をギュッと睨み続けている。

「まあ、今はリサと組合の仕事をやることにして――いや、まあ、俺の昔話はいいんだ。内山さんたちがいなくなるとまた寂しくなるね」

 俺は小さな溜息と一緒に弱く笑って見せた。一匹狼として組合の仕事をするのに慣れている俺だが、やはり信頼できる同僚がいると頼もしいものだ。アブラ狸の指示で内山狩人団に交じって報酬をチョロまかす手口もだいぶ慣れてきた。内山さんの口利きでリサと俺の報酬も増額された。おっかない連中を多く抱えている内山さんから強く出られると、アブラ狸もさすがに腰が引けるらしい。その件だって俺は内山さんに感謝をしている。

 しかし、汚染されたこの世界でぬるく鈍るとそれは死という結果に繋がる。

 俺は他人をアテにできる環境に身を置いて、自分の感覚が鈍ってしまうのが怖かった。下手なしがらみに縛られた場合、それが危機を招く懸念も持っている。汚染後、俺はこのしがらみに何度か殺されかけた。人間というものはお互いの距離が近すぎると致命的なトラブルを招く。俺はアブラ狸に都合良く使われているていどの軽い立場のほうが楽だ。内山さんの誘いは俺にとって重すぎる。リサと俺が内山狩人団に所属するとなると、アブラ狸だっていい顔をしないだろう。リサと俺は二人で動けるからこその価値を持っている。

 これは他人から見ると大した価値ではないのかも知れない。

 だが、俺にとっては、俺が持つ価値観こそが最重要だ。価値観は誰かの物差しで計測するものでない。俺が生活する場所にしているのは人間が持つ共通の価値を失いつつある汚染列島だ。ならば、価値は各々の判断で定義するしかない。

 それができない奴はいずれ均衡バランスを失って自滅する――。

「――黒神、リサちゃん」

 そう呼ばれて顔を上げると、

「名古屋に来たら声をかけろよ、コノヤロー。またお前らの面倒を見るぜ」

 内山さんは目尻のシワを多くしていた。もう怒ってはいない。内山佐次郎はすぐに怒り狂うのだが、その怒りを引きずるケチな男ではないのだ。五分もすれば怒りを忘れてケロリとしている。

「うん、そうさせてもらうよ」

 俺も少し笑って返した。

「!」

 リサが生クリームのついた唇を笑みの形にした。

「ああ、内山さん、話は変わるけどさ――」

 俺は珈琲パフェに視線を戻して表情を消した。

「何だ、黒神、コノヤロー?」

 内山さんは唸るように応じたが、カスタードプリンの甘さに目を細めていた。

 俺は珈琲パフェのウェハースを齧りながら、

「甘いなあ、やっぱり――ああ、八反田の姿が見えないよね。年末一緒に仕事を――都田方面のNPC偵察・駆除任務をやったときは、ウキウキと元気そうだったのに、どうかしたの?」

「ああ、八反田シゲは年明け早々に包丁で刺された。あのバカヤローは本当に馬鹿だからな」

 内山さんが淡々と言った。

「えっ、八反田って馬鹿の癖に刺されたくらいで死んだの?」

「!?」

 俺とリサは目を見開いた。

 内山さんは顔を渋くしただけで何も応えない。

「いや、黒神さん、八反田はそれで入院中なんだ。あいつは馬鹿だからな」

 代わって島村さんが呟くように言った。

「八反田は明日に退院する。馬鹿は死んでも治らないと言うが――」

 斎藤君が暗い声で言って、

「馬鹿はしぶといから殺そうとしてもなかなか死なないんだ。だから馬鹿は数を減らさない!」

 橋本は真正面を向いて吠えた。

「――包丁ねえ。八反田は誰かと喧嘩でもしたの?」

 俺は首を捻った。若い八反田は少々軽薄な性格ではある。しかし、他人とまともに衝突して大喧嘩になるような性格だとは思えない――。

 丸テーブルを囲んだ男たちは黙々とパフェを食いながら、そのうちのひとりの男へ視線を送っていた。そのひとりだけうつむいている。リサと俺の目もそれを追う。

 そこにいたのは、

「あっ、ああ、喧嘩は喧嘩だよな?」

 呻き声を上げた三久保だ。

 チョコバナナパフェを食う三久保の視線が上がってこない。

 リサと俺は視線を素早く交換した。

 三久保は何かの事情を知っているね。

 この悪い顔色と曖昧な物言いは漏らすと本人が面倒になる類の情報だろう。

「いや、黒神――」

 斎藤君が暗く呻いて、

「女だ、女の所為なんだ!」

 橋本が吠えた。

 この二人は三久保をはっきり睨んでいた。

 三久保は顔を上げない。

「へえ、女絡みときたか。そこで女から刃物が出るとなると相当な修羅場ってやつだ。ああ見えて八反田も隅に置けないなあ――」

 俺は声を出さずに笑った。

「?」

「?」

「?」

 リサが赤らめた顔を左右にぶんぶん振って卓上の発言を促した。

 だが、誰も返事をしない。

 パフェを食う男たちは、リサと目を合わせないよう視線をそれぞれ逃がしている。

「!?」

 リサがカッと目尻を吊り上げて俺を睨んだ。

 お前が何とかしろってか。

 面倒だなあ――。

「後学のために、になるのか?」

 俺は苦笑いで言った。

「!」

 リサが力強く頷いた。

 こういうときは――。

「内山さん?」

 俺は卓にいる埃っぽい野郎ども代表へ視線を送った。

「――あぁあ、黒神。よりによって俺かよゥ、バカヤローコノヤロー?」

 内山さんがすごく面倒そうに言った。特大のプリンアラモードはほとんど残っていなかったが、内山さんはその器に視線を落としたままだ。これは本気で嫌がっている態度だよね。

「リサがその話を――八反田の血生臭い愛憎劇をどうしても聞きたいらしいよ。女の子はこういう話題が好きだよな――」

 俺がリサの存在を盾に言うと、

「!」

 リサがふんっと強く頷いた。内山さんが気まずそうな顔になった。とにかく、内山さんはリサに甘いのだ。

「おい、リサちゃんがアレを詳しく知りたいみたいだぞ。黙っているんじゃあねェよ、おい、コノヤロー」

 内山さんがプリンアラモードの端にあったメロンを食いながら、三久保へ鋭くなった視線をぶっ刺した。

「――なっ、何よ、団長?」

 三久保はチョコバナナパフェをスプーンでかき混ぜていた。

 その手が細かく震えている。

「これはてめェの話だろうが、コノヤロー!」

 内山さんが怒鳴った。その両脇にいた島村さんと斎藤君が顔をひどく歪めた。耳鳴りだろう。内山さんは地声がでかいのだ。その上で怒りっぽいからすぐ怒鳴る。俺は少し笑った。リサは真剣な顔で三久保を見つめていた。リサの前にあったイチゴチョコパフェの容器はほぼ空だ。俺の珈琲パフェはまだまるまる残っている。

 これ、どうしようかな。

 全部食べないと内山さんがへそを曲げそうだしな。

 俺はそんなことを考えながらアイスクリームをスプーンで口に運んだ。溶けかかった冷たい甘味は通常より尚甘く感じる。俺は甘味で喉を焼いて笑顔を歪めた。顔を歪めたまま視線を送ると、内山さんは三久保をまだギリギリと睨んでいる。

 これに耐えきれなくなったらしい。

「なっ、何だよ、団長。八反田の件は俺の所為じゃないだろ」

 三久保がチョコバナナパフェの器から顔を上げた。

「いや、三久保、ここはお前が話すべきだろうな」

 島村さんが三久保を見やった。

「えぇえ、島村さんまでそんなことを言うのか――」

 三久保は顔をへし曲げた。

「三久保まで八反田がやらかした女絡みの刃傷沙汰に絡んでるのか?」

 俺は呆れ顔だが、リサは真剣な表情だ。

「いや、黒神さん、俺はほとんど関係な――」

 顔を引きつらせた三久保の言葉を、

「黒神、三久保がよくないんだ――」

「よくない!」

 斎藤君と橋本が遮った。

「斎藤、橋本、お前らまで何だよ!」

 三久保は喚いて抗議をしたが斎藤君と橋本はどこ吹く風だった。

「三久保、これ以上、愚図愚図抜かしていると――」

 内山さんが顔を真っ赤にして唸り声を上げた。

 椅子から腰が浮いている。

 これは暴力を発動させる前兆だ。

 両手を振って観念した様子の三久保が、

「団長、わかった、わかったよ。俺が話すから――黒神さん。最近、秋妃が八反田と付き合い始めてさ――」

「えっ?」

 俺は目を丸くした。

「!?」

 リサはクッワッと瞳を開いた。

「リサ、どうした!」

 俺が促すと、リサのじたばたとやったジェスチャーは、

「三久保と秋妃さんは付き合っていたのじゃないのか?」

 こうだった。

 俺が発音した。

 リサは満足気に頷いて見せた。

 それに頷いて返した俺は、

「そうリサは訊いているぞ?」

「ああ、いや、そのねあのね、黒神さん――」

 三久保が視線を落とした。

「何だよ、そのジジイの小便みたいなちょろちょろとした言い草。早く言えよな」

 俺が促すと、

「うん、秋妃って誰とでも寝る女だったんだ――」

 三久保が告白した。

 卓を囲んでいた男たちが一斉に目を伏せたので、これはれっきとした事実なのだろう。

「おぅふ」

 俺は呻いた。

 そのくらいの反応しかできない。

「!?」

 リサが背筋をピシッと伸ばした。

 俺の彼女が何を考えているのかはいまいちよくわからない。

 女の子の気持ちって男にはよくわからないときがあるよね。

 それが今だ。

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