第6話 冬の嵐(ハ)
俺が水筒を手にとると、リサがマグカップを突きつけてきた。とってもファンシーなワンちゃんの絵柄がついた白いマグカップだ。リサ愛用の品物だ。俺は黙ったまま、リサのマグカップを先に満たした。水筒の中身は砂糖とミルクがたっぷり入った熱い紅茶だった。明け方、寄宿舎でリサが寮母の涼子さんと一緒に作ったものらしい。
これは砂糖を入れすぎだろ。
甘いものが嫌いな俺は顔をしかめた。
横目で視線を送ると、マグカップをふうふうしながらリサは頬をゆるめている。
「聞こえるのは雨音だけだな――」
天乃河隊長が表へ目を向けた。紅茶を飲みながら俺も表へ視線を送った。ガラスの引き戸は壊れていて開けっ放しになっている。廃墟の村は冷たい雨で青ざめていた。雨雲はしつこいまでにぶ厚く太陽を遮って辺りは夜のような暗さだ。
「まあ、どれだけ雨が降っても、ここなら崖崩れの心配だけはない」
俺は言った。
「――で、どうするんだ、礼音団長」
めしを食い終えた宍戸が天乃河隊長を見やった。
「俺は隊長だよ。宍戸、何をどうしたいんだ?」
天乃河隊長は空にした容器を脇に置いて笑顔で応えた。
この美男子はいかなるときも大崩れをしない。
「何をって――」
宍戸が三久保へ視線を送った。
「何だろうな――」
三久保は空にした容器をもてあそびながら姫野へ視線を送った。
「うーん、その――」
姫野は腕組みして呻いた。
秋妃さんはまだ、豆とごはんをモソモソ食べている。
リサが俺の脇腹を肘でドスドスやった。
それに促された俺が、
「天乃河、月日集落が無人だった場合はどうするんだ?」
「例え無人でも定年組はそこで降車をさせるさ。輸送トラックの食料の備蓄は――」
言葉を切った天乃河隊長が俺を見つめた。
「――ああ、それは納得している」
俺は頷いた。
リサは視線を落とした。
宍戸たちもうつむいていた。
秋妃さんも似たようなものだ。
「――うん。月日集落が完全に放棄されていた場合、この廃村――阿南集落へ戻って、ここを寝床に使うしかないだろうな?」
天乃河隊長が語尾を上げて同意を求めてきた。
「しかし、阿南集落は危険だから放棄された場所じゃないのか?」
俺は頷かずに言った。
「確かに黒神の言う通りだ。だが山腹にある道で待機すると雨で崩れる危険も高いし――」
天乃河隊長が眉を強く寄せた。そうしても、これは他人へ不愉快な印象を与えない顔だった。
「――ああもう、ファッキン・ヘルな状況だな」
宍戸が呻いた。
秋妃さんが空にした容器を脇にやったのを確認して、
「わかった。みんな、めしは食い終わったんだろ。さっさと当初の目的地――月日集落まで移動して積み荷を軽くしようぜ」
俺は言った。
誰からも返事はない。
続けて、
「特に宍戸たちだ。あの陰気なヤク中どもに付き合うのも、そろそろ精神的に限界なんじゃないか?」
俺は言った。
「――うん」
宍戸が間を置いて頷いた。
「ああ、それは早く終わらせたいぜ」
三久保も頷いた。
「だな――」
姫野も腕組みをしたまま頷いた。
「――黒神」
天乃河隊長が俺へ顔を向けた。
「何だ、天乃河。まだここで待機するのか?」
俺は上がりかかった腰を元へ戻した。
「やはり、君が隊長をやるか?」
天乃河隊長はキラッと笑った。
白い歯が眩しい笑顔だ。
嫌味で言ったわけではなさそうだ。
ああもう、こいつの相手は本当にやり辛いな――。
「――天乃河、俺は他人の分まで責任を取れるような人間じゃないぜ」
俺は脇に置いてあったSG553を片手に立ち上がった。
その俺のジャケットが引っ張られた。
「どうした、リサ?」
俺は訊いた。
リサはSG553を両手で持って立ち上がった。
その間に銃の安全装置を外す動作があった。
狩人の横顔を見せたリサの視線は豪雨にむせび続ける表へ向いている。
名倉商店表の脇道から人影がわらわらと現れた。
「――ファッキン、NPCかよ!」
宍戸が立ち上がってSG553を構えた。
「ほら、おいでなすったぜ。ずっとヘヴィな予感はしてたんだ」
三久保も並んでSG553を構える。
「ああ、こうなるんじゃないかと思ってたよ――」
姫野が持っているのは個人で持ち込んできたミニミ軽機関銃だった。
分隊支援火器の担当らしい。
「待て、NPCにしては様子がおかしい、まだ撃つな!」
天乃河隊長が怒鳴った。
秋妃さんは兄の横でSG553を構えている。
落ち着いた態度だ。
俺は人影に照準を合わせたまま、
「リサ、あいつらは人間か?」
リサは銃を構えたまま小さく頷いた。休憩所に使っていた廃屋――名倉商店を囲むようにして出現した人の数は三十前後だった。彼らは全員が大きな雨笠をかぶって
NPCは銃器を使わない――。
「――撃たないでくれよ!」
外から大声が聞こえた。
「――何者だ!」
天乃河隊長が怒鳴り返した。
「お前らは、
怒鳴り声が外から返ってきた。
「その通りだ。組合員ナンバー四〇四五九号。名前は天乃河礼音」
天乃河隊長が言った。
「――わかった。俺たちに
外からの声だ。
さっきよりも落ち着いた感じの声だった。
「おかしな真似をしなければ、こちらからも攻撃はしない。それは約束する。代表者が一人でここへ入ってこい。いいか、一人だけだぞ、銃の持ち込みは許可しない!」
天乃河隊長が大声で言った。
「――こっちは本当にお前らと戦うつもりがないんだ。丸腰でいくからな。頼むから、撃つなよ」
外の声の主が軒先に出現した。
その軒先でその男は雨笠と蓑をとった。
「ゆっくり動いてくれ。俺たちだって人間を撃ちたくないんだ」
天乃河隊長が銃口を向けたまま少しの笑顔を見せた。
「まさか、あいつ――リサ、大丈夫か?」
俺は横のリサへ目を向けた。
「!」
リサは軒先に出現した男をはっきり睨んでいる。
「人間を撃つのは俺の仕事だぞ。車のなかでそれは約束しただろ?」
俺は声をひそめた。
リサは戸惑った様子を見せたあとに小さく頷いた。
「リサ、銃口を下ろせ」
俺は命令した。
リサは視線と銃口を下ろした。
「――ところで、君はどこの誰なんだ?」
天乃河隊長が訊いた。
「ああ、言い遅れた。俺は月日集落の青年消防団に所属している猪瀬拓馬。あんたがさっきの天乃河さんか?」
軒先に出現した男――猪瀬が言った。こいつは藤枝居住区で見たあの猪瀬拓馬だ。背丈恰好も年齢も間違いない。三十路絡み。背が高くスマートな体形。特徴的な箇所は細くて少し吊り上がった目つき。これも見覚えがある。居住区で見たときよりも無精髭は多くなっていた。以前はスポーツ刈りに近い髪型だったがその髪が長くなっている。組合のジャケットにジーンズの身なりはそこまでボロボロではない。肌の色つやは健康的に見える。少なくとも食を欠かしている様子はない――。
「そうだ、天乃河でいい」
天乃河隊長がキラッと笑った。
「――ああ、わかった。天乃河」
猪瀬が一歩下がって緊張した声で言った。
イケメンオーラに押されたようだった。
「――月日集落の消防団?」
宍戸が首を捻った。
「消防団って何だ?」
三久保も怪訝な顔だ。
「狩人団でなくてか?」
姫野が太い首を捻った。
「あなたは――猪瀬さん――?」
秋妃さんが呼びかけた。
「ああ、ほら、見ての通り武器はないだろ?」
猪瀬が両方の腕を広げて見せた。
俺は「いやいや、背中のほうに武器が隠してあるかも知れんぞ」と身構えた。
「いえ、猪瀬さん。NPC狩人組合のジャケットを着ているようだけれど――?」
秋妃さんが囁くように問いかけた。
「あっ、ああ、俺も元々はNPC狩人なんだ――今は色々ワケありでこの先にある月日集落で――な、何だとォ!」
猪瀬は仰け反った。
「――いよう、猪瀬拓馬。ここで会ったが百年目だよな?」
挨拶をした俺が持つSG553の銃口は猪瀬へ向いている。
「くっ、黒神武雄、何でこんなところに!」
猪瀬は悲鳴を上げた。
「そりゃ、俺の台詞だぜ、猪瀬」
俺は低い声で応えた。
「黒神?」
天乃河隊長だ。
「黒神さん――」
宍戸が呻いた。
「おい、黒神さん?」
三久保は眉を寄せていた。
「何だ何だ?」
姫野はキョロキョロしていた。
「どうしたの――」
秋妃さんが囁いた。
俺はそれらを全部無視して、
「猪瀬よ、そこから一歩も動くな。お前はリサの顔も当然、覚えているよな。忘れたとは言わせねェぜ――」
猪瀬は顔を青くしていた。
身を寄せてきた天乃河隊長が、
「黒神、一体、どうしたんだ?」
「天乃河、猪瀬拓馬が何をどうしたのか。こいつ自身の口から聞かないと俺もわからないんだ。だから、それを今から訊こうと思っている。少しだけでいい。俺に時間をくれるか?」
俺は小声で返した。
天乃河隊長が眉を寄せて、
「黒神が怒っているのはわかった。でも、猪瀬を殺すなよ――いいか?」
「――努力はする」
俺が頷くと、それで納得したのかどうかはわからないが、天乃河隊長は身を離した。
「じゃあ、リサ。猪瀬拓馬をお前はどうしたい?」
俺はリサへ視線を送った。
むろん、銃口は猪瀬を捉えたままだ。
リサは少し間を置いたあと両方のまぶたを三分の一落とした。
少々不服。
でも猪瀬を殺さない――。
リサの返事はこうだった。
「本当にリサはそれでいいのか?」
俺は目を開いて訊いた。
リサは小さく頷いた。
「命拾いをしたな、猪瀬よ。だが、俺のほうの気分が甘ちゃん対応で晴れないって場合もあるぜ?」
そういうことだ。
リサが許しても俺は許す気になれなかった。
俺は他人へ許しを与える存在ではない。
何かに許しを乞うたこともない。
それでも俺はここまで生きてこれた。
これからだってきっとそうだぜ――。
「――黒神、まずは俺の話を聞け」
猪瀬が言った。
「聞きたくない、面倒だ」
俺は即答だ。
「頼むから俺の話を聞いてくれよ!」
猪瀬が震え声で怒鳴った。
「黒神、聞いてやれ」
天乃河隊長が言った。
「何だよ、言ってみろ」
不承不承だ。
俺は猪瀬を促した。
「俺は誓って黒神の妹さんに何もしていない。あれはやったのは、
猪瀬は強張った顔で言った。
俺は横目でリサへ視線を送った。
リサは小さく頷いた。
顔は強張っている。
動作も硬かった。
あのときのことをリサは思い出している――。
「――徹か?」
俺は呟いた。
「そうだ、妹さんに乱暴したのは徹なんだよ。俺はやっていない。あ、あれを俺は見ていただけで――」
猪瀬がうなだれた。
「徹って、誰だったっけ?」
俺は訊いた。
「――徹は木村徹だよ。黒神は覚えてないのか?」
猪瀬は顔を上げて応えた。
リサが俺を睨むようにして見つめている。
頬にあたる視線の強さでそれがわかった。
少し記憶を辿ったあと、
「ああ、木村狩人団の木村徹のこと?」
俺は訊いた。
生きている人間の名前を覚えるのだって億劫なのに、殺した人間の名前なんていちいち覚えていられるかよ。
十四人もいっぺんに殺したらそれは尚更な話だろ――。
猪瀬が頷いて、
「あっ、ああ、そうだ、その徹だよ。俺から訊きたいことがある。徹と黒神の揉め事は最終的にどうなったんだ?」
「どうなったって――ああ、リサのことか。もちろん、すぐ入院したよ。たいした怪我じゃなかった。治療費はかなりの額をムシり取られたが――もしかして、猪瀬、あんたがリサの入院費を払ってくれるのか。それはありがたいな。最近、生活が益々苦しくなってきて――」
俺はリサへ視線を送った。
「――それは違う。徹のことだ。俺が知りたいのは木村徹と木村狩人団がどうなったかだ」
猪瀬が俺の話を遮った。
遮りやがった。
生活が苦しいのは本当だぞ。
大農工場を担当する組合の報酬は月賦制度でしかもそれがとても安いのだ。
リサはいくら言っても無駄遣いをやめてくれないし――。
「――俺はそんな他人事なんて知らんよ」
俺はフンと顔を横に向けてやった。
「その子のことで――リサちゃんのことで混乱をした俺は藤枝居住区を一旦はバックレたんだが――そのあとで考え直して、また藤枝へ――徹の団へ戻ろうとしたんだ」
猪瀬が言った。
「ああ、そうかよ」
俺は適当に返事をした。
「藤枝で使っていた宿へ連絡を入れたら、木村狩人団は全員が行方不明だと言われた。俺は未払いの宿代を請求されたぜ。だが、十四人もいっぺんに行方不明って、何かおかしな話だろ――」
猪瀬が俺をじっと見つめた。
「俺は知らんと言っただろ。だから、訊いても時間の無駄だ。わかった。俺はもうあんたに危害を加えるつもりがない。だから、あんたも俺を忘れていいぜ」
俺は銃口を下げてリサへ顔を向けた。
俺を見上げたリサの銃口はずっと下がったままだ。
「――リサもそれでいいと言ってるしな。俺たちの間にあった面倒事はこれで手打ちだ。猪瀬、それでいいな?」
俺は言った。
「あっ、ああ、黒神、わかった。俺のほうもそれで文句はない。実際、集落の住人の俺は徹たちと――木村狩人団ともう繋がりがないからな――」
猪瀬が硬い動作で頷いた。本当に納得したのかどうかはわからない。しかし、猪瀬は一旦、木村狩人団を見限った人間だ。今はNPC狩人とはまた違う生活の糧があるようにも見える。リサや俺に復讐心を抱くようなこともないだろう。
猪瀬拓馬が無駄なことをするような馬鹿でなければの話だが――。
「――天乃河。俺の話はこれで終わりだ」
俺は天乃河隊長へ目を向けた。
ほっと肩を下ろして微笑んだ天乃河隊長が、
「以前、黒神と猪瀬は何かトラブルがあったのか?」
「――さあね? あっ、そうだ、そうだ、言い忘れてたぞ、猪瀬!」
俺は声を上げた。
「――ん、どうした?」
天乃河隊長が眉を寄せた。
「なっ、何だ、黒神。この話はもう終わりじゃなかったのか?」
猪瀬の声が裏返った。
「猪瀬、リサは俺の妹じゃないからな」
俺は猪瀬の勘違いを訂正しておいた。
「!」
リサも強く頷いた。
猪瀬は何も言わなかったが、
「――えっ!」
天乃河隊長が俺を凝視した。
「――何だよ、天乃河?」
俺は訊いた。
怪訝な声だ。
そうならざるを得ない天乃河隊長の反応だった。
「ちっ、違うのか? リサちゃんは黒神の妹じゃなかったのか――?」
天乃河隊長は強張った顔と声で言った。
俺は視線を惑わせて、
「あのな、何なんだよ――リサと俺のことはもういいから、猪瀬と話を進めてくれ。天乃河が隊長だろ?」
「あっ、ああ、そうだったな。うん――本当にリサちゃんは黒神の妹じゃないのか?」
天乃河隊長がまた俺へ顔を向けた。
真剣な眼差しだ。
そんな目つきで俺を見られても困るだろ。
何を考えているのだ、この変態性癖の優男は――。
「あのな、天乃河――」
俺はうなだれた。うつむけた顔から横目で見やると、リサは目をざぶんざっぶん泳がせている。天乃河隊長は妹という存在に強いコダワリがあるらしい。まあ、当然、それはあるのだろうね。俺は秋妃さんのほうへ視線を送れなかった。リサも似たような感じだった。
俺たちは猪瀬から話を聞いた。
月日集落で活動をしている青年消防団――猪瀬達の集団は定年組を出迎えるために、ここまでやって来たらしい。一台しかない輸送トラックを見て、NPCに襲われたのではないかと警戒していたのだとも言った。
「ああ、落石だよ。道が閉じて後続の車両は来られなくなった。先頭にいた俺たちは孤立しているんだ」
天乃河隊長が簡単に現状を説明した。実際、天候を見れば疑う余地もないだろう。それを聞いて猪瀬は何だか悔しそうな顔つきになった。俺は意外だった。月日集落はそこまで人手が必要なのだろうか。区外にあるたいていの集落はギリギリの生活をしているものだ。居住区と同様、労働力として使えない人間を嫌う傾向がある。俺たちが護送してきた定年組は使い古しの老人がほとんどだ。NPCと胞子汚染の脅威に晒され続ける集落の過酷な生活に耐えられる人員だとは思えない。集落は物資だって常に不足している。
この点、俺はよくわからなかった。
短いやりとりを終えると、
「事情はだいたいわかった。月日集落まで消防団が案内する。集落なら間違いなく安全だ」
猪瀬が移動を促した。名倉商店の軒先に出てみると消防団が乗ってきた軽トラックや二トントラックがあった。どれも修理に修理を重ねてボロボロになった車だ。
「猪瀬?」
俺は呼びかけた。
「なんだ?」
雨笠に
そのまま時代劇に出てきそうな格好だ。
俺は疑問をそのまま口にした。
「集落にあるトラックの燃料はどうやって調達しているんだ?」
「ああ、ここより北の――ロシアの支配地域にある居住区との交渉で手に入れる」
「――ロシア? マジかよ?」
「集落の神主はロシア語に堪能だ。他はフランス語に英語、中国語だってできる。神主は――
「そう、なのか――」
俺は視線を落とした。
どこか、おかしな言い回しだ――。
「――驚いただろう?」
猪瀬が唇の端を歪めた。
雨笠から垂れた水がその脇を流れていった。
「――ああ、驚いたよ」
俺は猪瀬の顔を眺めた。無精髭が増えている。しかし、以前にあった毒気の抜けた猪瀬の顔だ。前に見たときはチンピラよろしく細い目つきが厳しい男だった。
「黒神が疑うのは無理もない。俺も月日集落へ来た当初は驚いた。本当に――」
猪瀬が言った。
「猪瀬は集落へ歩いてきたのか?」
俺は訊いた。
「違う。俺は大農工場で社畜失格の烙印を押されて、この阿南までつれてこられた。阿南に来てすぐだ。村の廃棄が決まって居所を無くしていたところを、月日の神主様に助けられたんだ」
そう言って、猪瀬が背を向けた。
蓑で覆われた背中は何も語っていない。
声も平坦だった。
「定年組としてつれてこられたのか?」
俺は訊いた。
「そうだ、早く行こう」
猪瀬は軒先から出ていった。猪瀬が指示をすると名倉商店を武器を手に囲っていた消防団の男女は自分たちのトラックへ乗り込んだ。大半の姿が消えたのは幌で囲った荷台のほうだった。
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