第3話 奴隷の少女(ハ)
目を閉じていても視界が赤かった。
朝だ。
壁にもたれかかってまどろんでいた俺は目を開いて舌打ちをした。床に落ちた俺の背嚢が逆さまになっている。なかにあった荷物が埃塗れの床でとっ散らかっていた。
あの少女に逃げられたか――。
俺は思った。それでもいいか。俺はそう思ってもいた。だが、昨晩の少女は俺の近くにいた。俺と同じベッドの上にいる。少女はフォークを使ってサバの味噌煮缶をモリモリ食べていた。ガラスが割れた窓から朝陽が差し込んでいる。
天気は晴れ。
昨晩、ひどい油断をしたが、俺は運良く生きていた――。
「――おい、お前」
俺の声に眠気が残っていた。
ベッドの端っこに腰かけていた少女は背を向けたままだった。
「そのサバ缶はな、俺の朝飯だ」
俺は声を荒げた。顔を振り向けた少女は、手に持ったサバ缶を逆さまにして俺へ見せつけた。唇は閉じて、まだモグモグしている。少女は笑っていた。
もう空だ。
ざまあみろ。
そんな意味合いの笑顔だった。
俺の胸にその幼い笑みが刺さる。
「こんなに散らかしやがって――」
自分の感情に驚いた俺は、その驚きを呻き声で誤魔化しながら、床に散らばった荷物をまとめた。その最中、無くなっていたものに気づいた。
缶詰ではない。
振り返った俺は、
「おい、お前。その地図に
少女はボールペンを使ってガリガリと地図に何かを書き込むと、それを乱暴に投げてよこした。
「――っと」
胸元で受け止めた地図の裏には、
「――
そう下手くそな、丸っこい文字で大きく書かれている。
「――リサ。これがお前の名前か?」
俺は訊いた。
少女は――リサは頷きもせずにボールペンの先で俺の胸元のあたりを指し示した。
「――俺の名前?」
俺が訊くと、リサはまぶたを半分落として軽く頷いた。
「それを知ってどうするんだ?」
俺は鼻で笑ってやった。
リサは眉間をキッと厳しくして俺を睨んだ。
歯ぎしりの音までさせている。
「――俺は
面倒になって名乗った俺はベッドの端に転がっていた飴玉を拾い上げて、それを口へ放り込み、凹んだ腹の足しにした。
そして、俺は顔を歪めた。
俺は甘いものが大嫌いだ。
§
仮宿にした老人ホームを出発したのが午前六時五十分。
そこから荒れた区外の道路を南へ歩き続けて今は午前九時五分。
静岡居住区の北西の検問ゲート付近まで来ると、
「おーい、そこの二人。一旦、停止しろ、両手を上げてからゆっくり歩け!」
障壁の上から拡声器を通した声が飛んできた。
「リサ」
俺は立ち止まった。
「!?」
かなりの距離を取って横を歩いていたリサが俺を睨む。二時間近く歩いているが、ずっとリサはこんな態度だ。昨晩、俺がリサに強要したことをまだ強く根に持っているらしい。
当然の話でもある。
「言われた通りにしろ」
俺は横目で視線を送って言った。
「!?」
眉間を益々厳しくしたリサはさらに身を引いて、俺から十分な距離を取った。俺に見られるのも不愉快という態度だった。しかし、それでもリサは俺にここまでついてきた。
他に行き場所がないというのもあるだろうが――。
「障壁警備員から何をされても絶対に抵抗をするな。抵抗したら俺たちは撃ち殺されるぜ」
俺は検問所のゲートへ両方の手のひらを見せて歩きだした。その途中で後ろへ視線を送ると、リサも渋々の態度で両手を上げてついてきている。
「よーし、両手を上げたままだ。検問までゆっくり歩いてこい。走るな、走ったら発砲を開始するぞ!」
検問ゲートから拡声器の声がまた聞こえた。
高さは四メートル前後。
静岡居住区を囲う鉄筋の入ったコンクリートの壁の内側には、さらに背の高い監視塔が並んでいた。そこから例の挽肉製造機――ミニガンの銃口が突き出ていた。この指定居住区を守る障壁は、俺も所属している日本NPC狩人組合の手で管理されている。検問にいたのは監視塔と地上含めて百名前後の障壁警備員だ。なあなあとお互い言葉を交わしながら仕事をしている様子を見ると、彼らは全員が同じ狩人団に所属するお仲間なのだろうそれぞれ武装をしていた。持っている銃は自動小銃が多数派だ。居住区で買える銃のなかでは適当に安価で信頼性が高いAK47を持つ者が多く目につく。AK47と言っても東海地方に出回っているのは、ほとんどが人民解放軍の作ったコピー品で正式な名称は五六式自動歩槍というらしい。もっとも違うのは名前だけで、外見も性能もAK47と変わらない。この彼らは武装をしていても兵士ではない。特殊公務員的な立場の日本NPC狩人組合員は自腹を切って銃も弾も調達する。
地上にいる狩人の銃口はすべて俺とリサへ向けられていた。
さっきまで離れて歩いていたリサがいつの間にか俺の横にいる。
黒い髪がひと筋かかったリサの頬から血の気が引いていた。
赤い耐胞子スポ―スタマスクを口元へつけながら、鉄門から歩み寄ってきた髭面の大男が、
「お前は何日か前に偵察へ出た組合員――黒神武雄だったよな?」
「あんたは確か――ここの検問所の警備隊長だったよね――確か、名前は安田だったか?」
頷いた俺はジャケットの腹部分から突き出した中年男の贅肉を眺めている。正直、俺は自信がなかった。出掛けにも言葉を交わしたし頬も顎も髭まみれの、このむさくるしい中年男の顔はよく覚えている。でかい鼻の先を赤くしているのが特徴だ。ただ、俺は他人の名前を覚えるのを少し苦手にしている――。
「――そうそう。俺はその安田」
腹を揺らして笑った中年男――安田の様子を見ると名前はそれで合っていたらしい。
「ああと、黒神組合員、わかっていると思うが――」
安田がすぐ真顔になった。
「ああ、さっさとやってくれよ」
頷いた俺は安田へ口を開けて見せた。
「
安田がジャケットのポケットから感染者テスタを取り出した。俺がリサに使ったのと同様の道具だ。大柄な安田のゴツゴツした手のなかに納まるとそれはかなり小さく見えた。
「おーい、お前ら、検疫だぞ!」
安田が後ろへ髭面を向けて怒鳴った。
「入場検疫、入場検疫!」
「大田ーッ、早く火炎放射器を持ってこい!」
「そんなに急かすなよ、重いんだぞ、これ!」
鉄門付近で火炎放射器を背負った障壁警備員が怒鳴り返した。感染者が確定した場合、俺はここで撃ち殺されたあと、寄生されたゾンビ・ファンガスごと火炎放射器でこんがり焼かれることになる。これが居住区へのゾンビ・ファンガス胞子侵入と拡散を防ぐための規則なのだ。
俺が最も死を意識する時間は、
「――ほいっと、無事に
ピッという感染者テスタの音と大田の声であっさり終わった。
「胞子と放射能はどうだあ、大井川あ――」
俺の衣服を軍手をはめた手ではたきながら、胞子・放射線観測機を近づけていた痩せた男――大井川が、
「――おう隊長、こっちも問題なしだぜ」
「そうか、黒神組合員、仕事お疲れさん。黒神さんが受けた依頼は安倍川上流付近の偵察だったよな。北はどんな様子だった?」
安田が緊張していた目元を和ませた。
「あそこの集落で生きていた人間はもういなかったよ。上流の水力発電所はNPCの巣だ。数は確認できただけでも十五以上だな。近寄ってはいないが、あの調子だとおそらく飛散している胞子もありそうな気配だった。ただ、周辺で検出された放射線はなし――」
隠すようなことでもない。
正直に伝えた俺は、
「――ああ、検問にある無線を使って組合本部へ連絡をしていいか?」
そのついでに申し出た。
「組合の備品を使うのに組合員が断りを入れる必要はないだろ――それでな――」
安田は俺の横で身を固めていたリサへ視線を送った。
「――ん」
俺もリサへ視線を送った。
怯えた様子のリサは上目遣いに視線を返してきた。
「そっちの女は黒神さんの何だ?」
安田がゲジゲジの眉根を寄せた。
その眉毛がほとんど繋がっている。
「――ああ、こいつは今回の任務の戦利品かな?」
首を捻った俺の返答にも疑問符がついた。
「なあ、黒神さん――」
呼びかけながら安田が送ってきた視線を、
「ん?」
俺が見つめ返した。
「黒神さんが居住区の外で、この女を見つけて居住区へ連れてきたと。ということは、この女はお前の奴隷か?」
安田はリサを眺めながら言った。
「ああ、うん。そうだな、そういわれるとリサは俺の奴隷になるのか――」
俺は自分でも納得いかないような態度で頷いた。
「――NPC狩人が奴隷狩りをしてきたのかよ?」
近くにいた大井川が訊いた。
その周囲にいる障壁警備員もちょっと怪訝な表情だ。
「ああいや、あくまでリサは――この奴隷は拾いモノだったんだよ――まあ、
返答に困った俺は視線を惑わせて下手な冗談で誤魔化した。安田と大井川、それに物珍しさで寄ってきた障壁警備員は揃って笑った。
結構、受けたらしい。
「!?」
リサだけは俺を強く睨んでいる。
俺は声を出さずに笑って返した。
「――まあ、とにかく、そいつも検疫をするぞ」
安田が感染者テスタをリサへ突きつけた。
「――ああ、頼む」
俺が頷いた。
リサの検査結果は、
「
安田の声で伝えられた。
「――胞子の反応もなし」
リサの身体をべたべた触っていた大井川の声は少し遅れた。
「しかし、これは、なかなか――」
安田がリサの細い顎を乱暴に掴んだ。
「!」
無理に顔を上へ向けられたリサは身体を硬くした。
それでも俺の忠告通り抵抗はしなかった。
「へえ、やっぱり、かなり可愛いなァ――」
後ろに回り込んだ大井川が両手でリサの胸を撫でまわした。
「――!」
リサは背を丸めたがそれでも抵抗をしなかった。
ニタァとゲスな笑顔になった障壁警備員がリサを取り囲んだ。男たちの手でリサが蹂躙され始めた。両手を確保されたリサが、顔を下に向けて振ると涙の粒が散った。
障壁内にある監視塔からだ。
「おゥい、俺も混ぜてくれよゥ!」
そんな声が落ちてきた。
「交代の時間まで我慢をしとけや!」
「そこで見てろ!」
「お預けだ、わんわん!」
そんな返答を聞いて、上からひどい罵声が次々返ってきた。地上にいた障壁警備員は揃って笑っている。野郎どもの笑い声に囲まれたリサは、うつむけた顔を振りながら泣いていた。俺も声を出さずに笑った。
安田が紅潮した髭面を俺へ向けて、
「なァ、黒神さん。同じ組合員のよしみだ。俺たちにひとつ、こいつを使わせ――」
「それは駄目」
俺は笑顔のままで拒否した。
リサは顔を上げて俺を見つめた。
その瞳も長いまつげも濡れている。
「おいおい、もちろん、
苦笑いの安田がリサのあちこちをいじっていた障壁警備員たちを見回すと、
「おう、そうだ、そうだ!」
「黒神さん、金より煙草のほうがいいか?」
「あっ、酒だってあるぜ。皇国軍からみんなで買い取った洋酒が何本かあっただろ。あれ、持ってこい!」
「――おぅい、黒神さん、そいつのおまんこの払いは、このバーボンでどうだ。正真正銘、アメリカ製のバーボン・ウィスキーだ!」
走っていった障壁警備員のひとりが天幕の下の箱から酒瓶を取り出して見せた。遠目で見てもわかる、七面鳥のラベルがついた瓶だ。十三と数字もついている。
「アメリカのバーボン。七面鳥、十三年――」
俺は自分の喉が鳴るのが自分の耳に聞こえた。
あれを瓶口からちびちびやりながら、埃っぽい男たちに手荒い扱いを受けるリサを鑑賞するのも悪くない――。
喉元に手をやった俺はリサを横目で見やった。男の手で拘束されたままのリサは泣き顔で俺を睨んでいた。白い部分が赤くなった瞳から、大粒の涙がぽろぽろこぼれて落ちている。
少女の涙が俺の喉元にあった渇きを強くした。
「ああ、それでいいよ、安田さん。あの酒と引き換えにリサを一時間貸してや――」
俺は途中で思い直して言葉が止まった。
リサの首に俺の貸した赤いスカーフが巻いてある――。
「――あっ、いや、安田さん。リサはまだ使役できないんだ!」
俺は安田へ視線を送った。
「黒神さん、そうケチなこと言うなよ、なあ?」
安田がうなだれたリサの長い髪を掴んでその顔を無理に引き上げた。
「――!」
リサの唇が大きく開いたがその喉から悲鳴は上がらない。
「俺はそいつの――新宮りさの奴隷証明書をまだ取ってないんだよ」
俺はできるだけ残念そうな表情を作ってサカリのついた男たちへ見せた。
それが上手くいったのかどうかわからないが、
「あっ、そうか――」
顔をしかめた安田が掴んでいたリサの髪を離した。
リサは顔を斜め下に逸らした。
それ以上の抵抗はしなかった。
「その奴隷を居住区内で使役する権利が俺にはまだないってわけだ。もうここは居住区だからなあ――」
俺はわざとらしく肩を竦めて見せた。
粘っこい視線を未練がましく送りながら、
「黒神さんはお硬いんだなあ――」
リサの手を離した大井川が不満気に呟いた。
「ま、規則は規則だからね」
俺は言った。リサを囲んでいた障壁警備員が渋々の態度でリサを解放した。周囲を見回して、迷うような動きを見せたあと、リサは俺の横へふらふらしながら戻ってきた。震える続ける膝小僧が内側でぶつかりそうになるほど怯えている。
「区民と違って俺たちみたいな組合員は立場が弱いからねい――」
大井川の横にいた天然パーマに黒ぶち眼鏡の障壁警備員が言った。
「居住区の規則を破ると後々が面倒だからな――」
安田が頷いた。
「医院と役所で奴隷証明を取ったら、俺はこいつを奴隷市場で競りにかけるつもりなんだ。ああ、みんな、良かったらこいつの競りに参加してくれるか。できるだけ、こいつの値段を高くしてくれよ?」
俺は笑顔を見せた。
まあ、これは作り笑いだ。
「――意地が悪いよなあ」
安田がボヤくと、
「奴隷なんて下っ端組合員の俺達に所持できるわけないだろ!」
「どうしたって維持費がな――」
「人頭税が高すぎるんだよ」
「しかし、黒神。本当に売っちまうのか、かなりの上玉だぞ」
「でも、こいつは目つきがちょっと悪いな」
「ほら、また睨んでる」
「身体も全然子供だぜ。おっぱい、超小せえ!」
障壁警備員がああだこうだと言った。
「――!?」
俺の横でカッと顔を上げたリサが、「おっぱい、超小せえ!」と発言した障壁警備員をはっきり睨みつけている。真っ青になるまで怯えたり目尻を吊り上げて怒ったり、忙しい奴だ。
俺はそんなリサを横目で眺めていた。
「ま、この年齢ならまだ育つさ」
「そ、育てるなんて、もったいない。もったいないッ!」
「高畑さあ、ロリコンってのは一種の病気らしいぜ――」
障壁警備員のなかにいた高畑という男はロリコンらしい。その高畑はさっきも見た天然パーマで眼鏡をかけた若い男だった。高畑は「わかってない、こいつら何もわかってない」そんなことをぶつぶつ言って不服そうだった。
「NPC狩人の俺が子供を――奴隷を連れ歩いても死なせるだけだろ。お前らだってNPC狩人だ。こいつは居住区で安穏としている奴らが買って好きに使えばいいんだよ」
俺は声を出さずに笑いながら言った。
リサは何か言いたそうな表情で俺を見上げた。
俺はその視線を無視した。
「それもそうだが――」
安田がまたリサへ視線を送って、
「黒神さん、やっぱり、売るのはもったいないだろ?」
「そうでもないんだ」
俺は頭を振って見せた。
「そうかなあ?」
額にシワを作った安田は結構しつこい性格のようだった。
「こいつ、キズモノなんだよ」
俺はリサへ視線を送った。
リサは睨み返してきた。
「――キズモノ?」
顔をしかめた安田が一歩後ろへ下がった。
「げえっ、その女は病気持ちかよ!」
「さ、先に言ってくれよな!」
「おいおい、酷いな――」
障壁警備員が一斉に身を引いた。
「
俺はリサを眺めながら言った。
リサは首元にあったスカーフで顔をゴシゴシやっている。
「へえ、こいつ、言葉が喋れないのか――」
安田がリサをまじまじと見つめた。
「そう言われると、こいつ、さっきから一言も喋らないな」
「うーん、惜しいなあ。外面は一級品でも中身はキズモノの奴隷か」
「それじゃ、奴隷市場へ出しても、さほどの値がつかんだろ?」
「色々と惜しい――」
障壁警備員はそれぞれ視線を交わして言った。
リサは彼らから綺麗にした顔を背けている。
目も目元もまだ真っ赤だ。
場が落ち着いたところで、
「それより、安田さん。俺にちょっと教えてくれるか?」
俺が訊いた。
「――うん、何をだ?」
安田が俺へ髭面を向けた。
「皇国軍だよ。奴らに何か変わった動きはなかったか?」
俺は北へ視線を送った。
居住区内には皇国軍の静岡基地がある。
「ああ、そう言われると――いや、黒神さん。やっぱりこの北で何か面倒事があったのか?」
安田が髭面を近づけてきた。
「皇国軍がドンパチをやっていたのを北で見たよ」
俺は北へ視線を送ったまま言った。横のリサも俺の視線の先を見つめていた。両脇に廃墟が並ぶ二車線の舗装道路だ。アスファルトの路面が老人の肌のようにひび割れて、そこからは草が好き放題に生えている。区外にある道路はどこもたいていこんなものだ。
「――ああ、そうだったのか。その支援目的だったんだな。今日の明け方にまた奴らの部隊がこの検問から出ていったんだ」
安田が言うと、
「今度は戦車まで交じってたぜ」
「大隊程度の規模だな」
「黒神さんは皇国軍の戦闘を見たのか?」
障壁警備員が口々に言った。
「――遠目に見えただけだ。よくはわからなかった」
俺はそれとなくはぐらかした。面倒が多い皇国軍の連中と深く関わり合いになるのは御免だし、横にいるリサはどさくさに紛れて皇国軍からパクってきたものだ。
「安倍川の上流で何があったんだ。どうも、先発した隊が戻らなかったみたいだが。NPCの群れに襲撃されたのか?」
「先発した奴らだって装甲車に乗っていただろ?」
「ああ、アメリカ製のストライカー装甲車だ。あのゴツイ装甲車でも対応できないほどの大量のNPCが出たのか?」
「それで戦車を出したのか? うっへえ、もう、勘弁してくれよなあ――」
障壁警備員は揃って顔を歪めた。
「いや、皇国軍はロシア極東軍とやりあっていたみたいだったよ」
俺が言うと、
「ああ、そう」
「へえ、またか」
「軍の奴らは好きに殺し合えばいいだろ」
「それがあいつらの仕事だしな」
その途端、障壁警備員は冷めた表情になった。
美しい祖国、日本の再興のため。
元自衛隊の将校が組織した日本皇国軍は高邁な理想を掲げているが、その実体は完全武装した夜盗集団のようなものだ。居住区の警備を民間に任せきりで戦争ごっこ優先の日本皇国軍をNPC狩人も民間人も毛嫌いしている。ただ、日本NPC狩人組合の上層部である日本再生機構と日本皇国軍は仲睦まじいが――。
「しかし、北で騒がしくされると困るぞ。山にいるNPCが静岡居住区へ押し寄せてくると面倒だ」
安田が髭面を歪めた。
「――そうだな」
俺は頷いた。
深く頷いて返した安田が、
「そうそう。おい、それに黒神さんはもう知っているか。樹海のミュータント・NPCが群れで南下してるらしい。今朝、ラジオのニュースでな。沼津の米軍基地から出撃した無人機がまたバード・ストライクで撃墜され――」
「――安田さん、俺たちはそろそろ行くよ。こう見えても結構疲れてるんだ」
俺は歩きだした。北の遠くに見える山脈をぼうっと眺めていたリサが移動を始めた俺に気づいて追ってきた。
「あっ、ああ、そうだ、黒神さんは仕事帰りだったよな。すまんすまん!」
安田が俺の背に大声で言った。
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