紺碧の海女(マーメイド)《外伝》~Satoru~

さいたに じお

第1話◆プロローグ

「・・・まさか、ココにも『住んでた』訳じゃあ無いよナ⁉️」


 この町に来る事になった時に、

一番にココへ行きたいと言い出した時は正直「またか」と呆れたが――・・・。


 歓び勇んで駆けていく、

我が《息子》に〈亮〉は少し辟易したように声を掛けた。

 しかし、

当の本人は『久し振りに』訪れたこの町が余程嬉しかったのか気にもせず、

 満面の笑顔を《父》に向ける。

「リョウ‼️・・・あのね、あのカドのさきに、

おおきくて、ステキな《きょうかい》があるんだよ‼️」


 ―・・・だが・・・。


そう言った小さな《息子》は、

 その角を曲がるや立ち尽くし言葉を失くしていた。


 「・・・⁉️―・・・どうした?サトル」


 〈サトル〉が見つめるその先には《我が子》が言う『大きくて素敵な教会』の影形もなく、

 洒落たアパートが建ち並ぶ《住宅街》だった――・・・。


 〈亮〉は近くに居た年配の男性に流暢な《スペイン語》で訊ねると、

 老人は目を丸くし、この若い《父子(おやこ)》の外国人観光客をマジマジと眺めた。

「・・・よくもまぁ、そんな昔の話を調べて来なすったねぇ~。

―・・・もう今から何百年も前に《大火》で失くして、地元の人間でもその存在を知ってるヤツは・・・そうは居らんというのに―・・・💧」


「・・・そんなに『古い時代』の話なんですか・・・?」

 《父》である〈亮〉の心が少し痛む。

「あぁ、モチロン‼️・・・このワシだって、未だ生まれちゃいない頃だよ(笑)」

 老人はそう言うと軽く挨拶をし去って行ったが、

 〈サトル〉は淋しげにずっと見つめていたままだった――・・・。




 仕事柄、海外を渡り歩く為に当然・・・自分の《養子》として迎え入れた〈サトル〉も同行させていたが、

 行く先々で、この《我が子》は不思議な事を口にするようになり〈亮〉は困惑する。

 

 初めは《環境》がガラリと変わったせいだとか、単なる自分の気を引かせる為の『デマカセ』かと思っていたのだが―・・・。

 その本人の言う『土地勘』や、

ある『時代背景』であったりなど地元の人間でさえ舌を巻く程の《知識》を持ち得ていたのである。


 聞けば〈サトル〉自身、家族で《海外旅行》をした事も無いという・・・。


『・・・幼児の頃は、生まれ変わる前の《記憶》を持っている場合があると訊いた事があるが――・・・』


 果たして、

ここまでの《記憶》を幼児(おさなご)が持てるモノなのか・・・? 

 何より多分、本人は判っていながらにしてその多くを語ろうともしない。

 〈サトル〉の見つめる『先』が決して単なる『いい想い出』ばかりでは無いと、

 〈亮〉は感じ始めていた・・・。


「・・・あのおじいさんは、なんていってた?」


 我が子の声で我に返る。


「・・・あぁ。もう何百年もの昔に《大火事》で失くなってしまったそうだ・・・」

「―・・・そうだったんだ・・・。

リョウにもみせてあげたかったな。・・・おおきな《まどガラス》がね。

ガラスが、ほんとうにおひさまのひかりで、キレイだったんだ―・・・」


 〈亮〉は思わず〈サトル〉を抱き締めた。


「・・・⁉️💦」


「―・・・オレはお前に、こんな辛い思いをさせる為に引き取った訳じゃ無いのに・・・っ」

「・・・リョウ・・・?」

 抱き締める〈亮〉の身体が小さく震えているのが判る。


『・・・リョウがないてる?』


 〈サトル〉は、何故今〈亮〉が泣いているのが判らなかったが、

 『自分の為に』だという事は幼心にも充分理解出来た。


「・・・どうしてなくの?ボクは『つらく』なんてナイよ?💦」

 そう言って《父》の涙を小さな手で、そっと拭う。

「・・・ボクね。リョウがいろんな《ばしょ》につれていってくれるの、たのしいよ?」

「・・・本当か・・・?」

「ウンっ‼️」

 我が子の、その愛らしい微笑みについ釣られるようにはにかむ。


「・・・だけど、ゴメンね?💧」

「・・・?」

「『ありがとう』って《おれい》にリョウにみせたいトコロが、

ぜんぶなくなってたりしてて・・・リョウによろこんでもらえなくて―・・・💧」

 その言葉に更に感極まり〈亮〉は再度抱き締めた。


「・・・いいんだ、そんなコト―・・・気にするナ」




 ――・・・いつも《孤独》を感じていた。


 それをあの時の〈サトル〉にも感じ、

何とかしてやりたい・・・と思っていたつもりだったが、

 いつの間にか自分が救われている事に気付く。 


「・・・お前の為なら、何でもしてやる」


 ・・・この小さな我が子の背負ったモノが何であっても、

 自分に出来るコトなら――・・・。

 全身全霊を掛けてやりたいと〈亮〉はこの時、誓う。

 自分には『与えられる』事が無いであろう―・・・と諦めていた、


《息子》というただ一人の《家族》の為に。

 

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