楽しいデート


 これは、一平くんが赤ちゃんになっちゃったって話である。


 本当は、付き合って半年の間、私が一平くんと過ごした幸せなお付き合い日記にでもしたいのだけれど、そうも言ってられない事態に私は陥ってしまった。




 一平くんとのお付き合いは、本当に毎日が楽しくて、初めてのことだらけで、すごく刺激的だった。


 運動が好きな一平くんに付き合って、ボーリング、スケート、ゲームセンターにも初めて行ったし、映画も観に行った。


 運動音痴の私に一平くんはいつも合わせてくれて、よく

「こんなに運動できないやつっているんだーー。」

 って、楽しそうに笑ってた。

 その言い方には優しさが伝わってくるから、私はこれっぽっちも嫌じゃなかった。

 苦手なことにも積極的にチャレンジできて自分でも楽しいって思えることを発見できた。

 映画や音楽は、話してみると意外と趣味が合って、私たちはこれからもデートで映画館やコンサートに行くのもいいねっていう話をしたりしていたんだ。



 あの日、私は一平くんとのデートの帰りに何の気なしに通りかかった神社へ寄ったの。


 私は、一平くんのために冬用のコートを作っていて、クリスマスにプレゼントする計画を立てていたので、


 手製のコートが上手に完成しますように――。

 そして一平くんが喜んでくれますように――。

 そう、願って。



「美波の趣味って神社めぐりなの?」

「……そうなの、うち、別に神道じゃないんだけどね、神社とか日本の神様とかの話、好きなんだーー。」

「へえ、あ、でも俺も日本書紀とか古事記とか、歴史で習ってちょっと楽しかったな。」


 一平くんは、私の趣味を笑ったりしない。


 私は以前、自分の趣味のことで友達にからかわれたことがあった。

 それから自分の話をするのが、なんとなく苦手になってしまったんだ。



「この神社の神様って、どんなご利益があるんだろうね。」

「うーんと、水天宮は水商売とか子宝に恵まれるって聞いたことあるよ。」

「ふーん……今の俺らにはどっちもあまり関係ないね。」

「そうだね。でも本当に、寄ってっていいの?」


 デートの帰り、神社を見つけて、私が寄りたいと言ったのだ。

「いいよ。ご挨拶して帰ろーー!」




 子宝の神様にお願いしちゃったせいなんだろうか……。




 私たちはその後、帰り道で流れ星を見た。

 それはとてもロマンチックな光景で、私は今まで生きてきた中で一番幸せな日だった。


 このときはまだ、その後に降り掛かる厄災を知るよしもなかった。

 私の大きな試練――。




 私たちはいくつも現れる流れ星に興奮していた。

 まさかその隕石の一つがこちらに向かって落ちてくるとは夢にも思わずに……。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る