4.戦争の姿

 現実の世界の戦争は、突然始まった。


 いつどこで、なにが原因で開戦したのか、未だ知らない。

 その日の朝の新聞を、いつも通り父は読んでいたはずだったけど。

 情報は何ひとつ無かった。


 五機の隊列を組んだ戦闘機が町の上空に現れた直後だった。


 降り注いできた無数の槍と火の玉。


 本当に意味がわからなかった。


 自分を突き飛ばした父の、肩に刺さった槍。


 黒く変色して、崩れていく父の姿。


 総毛立った直後、再び現れた五機の戦闘機。


 鼓膜が破れそうなほどの轟音で、周りにいた人達の悲鳴や叫び声はかき消された。


 みんなの口の動きが、逃げろ、と言っているのはわかった。


 もしくは自分の本能の声だったのかもしれない。




 逃げろ。


 逃げろ。


 逃げろ。




 どこかへ……





 ……どこへ?





 戦争なんて経験したことのない町に、逃げる場所なんて無かった。

 家の奥も、納屋も、金属の槍はどこでも貫通する。

 槍が爆発して火の球が飛べば、池も川も一瞬で熱湯に変わった。


 運良く、自分は降り注ぐ槍に当たらなかったけど。


 じゃあ槍が刺さった父は運の悪い人だったのか?


 料理が好きで、料理人として真面目に仕事をして、お客さんを喜ばせることが自分の使命だと言っていた父が、使命を全うできなかったことは。


 運が悪いだけのことだったのだろうか。





 怖い。


 怖い。


 怖い。





 悲しい。


 悲しい。


 悲しい。





 それよりも。





 悔しい。


 悔しい。


 悔しい。





 理由もわからず一方的に命を奪われること。


 目の前の愛しい風景をぐちゃぐちゃにされること。


 沸騰を超える怒りの感情を押し付けられること。


 そして成す術が何もなく無く、ただ逃げるしか選択肢がないこと。





「うわあああああああああああああああ!」





 三度目の戦闘機の襲来。


 ドアが爆風で吹き飛んで、ぽっかり空いたその家の中へ自分は飛び込んだ。


 頭を抱え、体を丸めて、暴れ狂う心臓の鼓動と自分の荒い息遣いだけが、耳に入らなくなったことに気付くまでしばらくかかった。


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