3.ドアの外の世界

 爆音を轟かせた軍用ヘリコプターが、厚みのある灰色の空の下を、巣を移動する蜘蛛のように動いている。


 フラッシュのように何度も光が瞬いた後、けたたましい音が振動と共に一帯に響く。


 むき出しの地面に乾いた風が吹き、巻きあげった砂埃が枯れ草の上に新たな砂の層を作る。


 なにかの、おそらく肉や脂や毛が焼ける臭いと、腐ったような臭いが交りあって、それは風が止むと全身にまとわりついてきた。


 人の声など聞こえない。

 もうここに、生きている人はいないのに。


 ヘリコプターは何を標的に攻撃をしているのか。


 街や人の営みの音までも掻き消してまで。


 だけど、これが本来の世界の景色。


 自分が逃げて来た、現実の世界の姿。


「ああっ……」


 尻もちをつくと、りんどうのドアの外側に立っていた林堂りんどうさんが「大丈夫か?」と声をかけてくれた。


「あっ、いやっ、はい」

「あんたのところの戦争は、まだ終わってないんだな」

「まだ、ですね……」


 尻もちをついて投げ出されていた自分の足を、両手で引き寄せた。震える自分の体を、強く抱きしめる。


 自分は、この世界の人間ではない。


 ここではない世界の、貧しくも裕福でもない町に暮らして、父のようなみんなから愛される料理人なる夢をもった、ごく普通の人間だった。

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