第11話 デートプランニングは大変だ

 月島さんの黒い焔に全く気付かず、僕は先輩とのデートプランを練るため、書店に足を向けていた。目的の本は、誰もが初デートではお世話になっているはず(僕がそう思っているだけで、恋愛偏差値が高い人は不要なのだろうが)の雑誌だ。


 僕がいそいそと情報誌コーナーに向かうと、多くの先客に立ち読みされたシティ情報誌が置いてあった。『はじめてのデートで失敗しないプラン集』『ムードの良い夜特集』の特集が組まれたその雑誌を手に取ると、多くの先達が読み込んだセーブポイントが、『俺たちはここを参考にしたぜ、ついてくるなよ!いいか、絶対来るなよ!絶対だからな!』と言わんばかりに勝手に開いた。ここの店の立ち読み客、レベル高いな。マーカーまで引いてるぞ。


 あまりに必死になって見ていた様子が目に浮かぶので、この雑誌はパスしよう。そう思って棚に返したときに、全く別の雑誌が目に留まる。『新キャスト続々入店!最新猫カフェ』と書かれた雑誌を引き寄せられるように手に取る。パラパラとページをめくると、猫カフェやうさぎカフェなど定番どころから一風変わったものまで結構な量の動物系カフェが紹介されていた。


あぁ、このモフモフしたのを抱いた先輩は絶対可愛いよなぁ。


 よし、デートコースの一部に組み込もう。それとなく話題を出して、好きな動物をリサーチだ。すぐに雑誌を購入することに決めつつ、動物の話題が盛り上がればあるところに一緒に行くことを考える。大体の場合、こういう書店とかのカウンターにカタログとか割引券が…、あった。よし、一応これも候補リスト入りだ。レジで会計を済ませて、外に出る。


 さて、ダメだった時の二の矢、三の矢も考えないといけないが、それと並行してリサーチをしないといけないな。サプライズはさせたいが、変な探りでもどうせバレる。ここはある程度隠さないほうがいいはずだ。


『先輩、動物って好きですか?』

と、とりあえずライーンを送信。あと、動物系のスタンプ入れてこれでどうかニャン?いや、僕が猫になってどうする。撫でて欲しいのか。


『えぇ、好きよ。デートの行き先は動物園かしら?』

即レスで返答が先輩から来る。ふふふ、この反応は計算の内なのである。

僕は書店の近くのバス停のベンチに腰を掛けて返信を続ける。


『さすが先輩、勘が鋭いですね。動物たちと触れたり、エサをあげてみたり、運動するのってどうですか?』

動物園にデートに行くと思い込んでもらうようにしつつ、情報を聞き出す。まぁ、このやり取り自体がすでにデートの一部だから、そのまま動物園でもいいのだが。


『動物と運動?そんな動物園あるのかしら?でも、見るだけより、できることなら触れあいたいわね。』

『わかりました。意外と運動できるとこあるんですよ。カピバラに追いかけられたり、鹿が放し飼いになっていて、荷物食われるのから逃げたり。』

『鹿が放し飼いって、奈良や宮島じゃないんだから。』

先輩とのライーンはテンポよく進み、動物系のアプローチは問題ない事が確認できた。次の調査に進みたいが、できるだけ自然にこれも聞きたいので、一度ここでアプローチを『男の買い物に行く』と謎の発言で終了する。


「あ、すみません。チラシを見て電話をしているのですが——。」

今度は、先ほどカウンターで手に入れたチラシの電話番号に電話をしていた。おそらく問題ないと思っていたが、まずは時間の確認、そして必要なものの確認を行っていった。


「えぇ、その時間なら空いていますよ。レンタルの道具も準備できますから、女性の方は当日はスカート以外でお越しください。」

「ありがとうございます。あ、あと餌やりの時間も取れると嬉しいんですが。」

「あー、それは当日次第ですね。その日は小学生の団体も入っているので、あまり期待しないでください。」

「そうですが、わかりました。それでは、ひとまずこの内容で予約をお願いします。当日、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。先ほどお願いした事項の確認ができたらまたご連絡をお願いします。その内容でレンタルの準備をいたしますので。」

時間も問題なし。準備してほしいものも準備できたので問題なし。オプションは付けばラッキーで。よし、ここまでは順調だな。あとは学校で必要な情報を仕入れるとして、今日は帰ろう。



 翌日、いつものように先輩と登校をしていると、「動物園楽しみ」と先輩は動物園だと確信しているようだった。先輩、動物繋がりでも別件なんです。


 「こんなことして、ごめんなさい。男には、絶対に負けられない戦いがあって、そのためにはこうするしかないんです。」

謎の懺悔をしつつ、僕は3年進学コースの教室に侵入中。尚、僕は今、極度の下痢で保健室に行く途中。という事になっている。先輩のクラスは移動教室のため、今はもぬけの殻の教室のロッカーを僕は今、漁っている。


 そして、目的のブツは早々に発見される。体育館シューズと体操服だ。なんて背徳的な行動をしているのだろうか。ちょっとニオイチェックを、ってなんでやねん!僕は先輩の服のサイズを確認するためにこれを見に来たのだ。体操服はLで靴が24.0と。あぁ。先輩大きいもんなぁ、もちろんいい意味で。よし、これでここから退散っと。保健室に帰るまでが侵入ですよ。周囲の警戒をしつつ保健室へ。


 その後、無事に保健室で復活を数分で遂げ、教室に帰還した。次の行動を起こすべく昼休みまで休息(居眠り)を取った後、昼休みのチャイムと共にきた先輩に駆け寄り、昼食に向かったのだった。机の上に決定的な情報を置き忘れたまま。


 「ふーん。初デートでこんなところに普通連れて行かないけどね。」

細い指が、机に置かれたままの情報。雑誌とメモをめくっていく。

「まぁ、私は浩介と一緒ならそれだけで全部いいんだけど。」

メモに書かれた数字の意図を探るように指でなぞっていく。

「この数字、足のサイズと、バストに、着丈かしら。服のコーディネートでもしてあげたいとか?」


「まさか、ここまで簡単に情報が手に入るなんて思わなかった。それじゃ、こちらも準備をしましょうか。大方この案通りで動くはずだし。」

メモを元に戻して、月島 奏は去っていった。デートは安泰ではどうやらないらしいが、浩介はそのことにまだ気づいていない。さて、どうなるものか。

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