第4話
彼はあっけらかんと、茫然と一瞬するが、すぐさま戦闘態勢に戻る。その姿に少し関心と、悲しさを覚える。この世界がいかに弱肉強食か知らしめられたような気がしたのだ。
この子と、信頼関係を築いてから私の楽園に加えることは果たしてできるのだろうか。不安しかなかったが、この子の顔に惚れてしまったのだ。惚れた方の負けとよく言うがまったくもってその通りだとジーンは思った。
背中を見せずにこの中途半端な箱から出ると、リュウがいた。でてくるのを待っていたのだろうか、だとしたら他のお客さんは大丈夫なのだろうか。
「ご安心を、当店の店員は皆優秀なので。」
心を読んだように言わないでほしい。怖すぎる。
「ふふ、それでは契約の方に入りたいと思うのですが、ご説明などしたいと思いますので一度移動して、そこでもう一度熟考していただければと思います。」
「…はい。よろしくお願いします。」
もはや何も言うまい。深く突っ込んだら負けである。
通されたのは先程とは全く違う、やっぱり綺麗な部屋だった。よくテレビでみた商談に使われるような部屋そのものだった。カーテンから差し込む柔らかな日の光。小綺麗な花瓶に花が彩りを飾り、絵画で華やかさが演出されていた。テーブルも重厚感が溢れ、豊かな装飾が施されている。調度品全て一級品なのだろう。
リュウと向き合うようにソファに腰掛けると、メイドによって紅茶と焼き菓子のセットが置かれる。一口、出された紅茶を口に含み終えるとリュウは口を開いた。
「失礼を承知で伺いますが、ジーン様は奴隷のことをどれくらい知っておりますか?」
「じ、実は、何も知りません…」
「そうでしたか、僭越ながらわたくしからご説明しても?」
「はい。ぜひお願いします。」
「承知いたしました、それではまずーーー
“この国の歴史から参りましょうか”」
えっ???なんで?????
まじでこの国の歴史からいくとは思わなかったし、初代国王の褥事情とか詳しく知りたくなかった。なんだ美女と美男子侍らせてたとか、うらやまけしからん。私もそこの領域に達してやるんだからな…!う、歴史の勉強なんて何十年振りだろうか。悲しくなってきた。やめよう。
窓から日の光が差し込んでいたのにもう日は沈んでいっている。つまりもう暗くなり始めているのである。要するに、もう夕方。朝早くからきたはずなのに、気がつけばジーンはこの館で丸一日過ごしたことになる。どうしてこうなった。
「ああ、もうこんな時間なのですね。まだまだ話し足り…説明したりないのですが、そろそろ本題の方を話し始めないとなりませんね。」
「今確実に話し足りないっていったよね?」
「今回、ジーン様が購入なさる奴隷ですが、あ、そうでした!ああわたくしとしたことが!忘れるところでした。」
あ、スルーなのね。気にしないけども。
リュウは大袈裟に態とらしく手を叩いてから、ジーンに近づき、腕につけていたアクセサリーをするりと外す。少しドキッとしてしまったのは秘密だ。
そういえば確かにつけておくといいみたいなことを言われたからつけたが。結局のところなんのアイテムだったのかは鑑定していなかった。というより今の今まで忘れていたのが正解だが。
「こちら、恐怖無効の効果が得られるアクセサリーなのですが、ジーン様には不要のようでしたね!わたくし達はこちらのアクセサリーを身につけた上でもう何ヶ月も彼と対面していますからね、慣れましたが、彼と初対面の方々は皆様失神するのです。しかし、ジーン様はさすがでいらっしゃる!」
そうノンストップでキラキラとした目でリュウは告げてくるが、ジーンの内心はリュウに対して物申したい気持ちでいっぱいだった。そして許されるなら、お〜いちょっと待ってくれ〜。それってつまり、あの子は常に状態異常、恐怖状態を付与してくる、スキル持ち、もしくはそういう攻撃を常にしている状態だった、ということでは?そういうの事前にお客さんに伝えておくものなんじゃないのかな?あれ?私が間違ってる?と伝えたかった。
伝えたかった、が、ジーンはできなかった。なぜならジーンも怖がっていたからである。かなり怖がっていたのを知られるのをジーンのプライドが許さなかった。それと彼の顔ばっかりみて冒険者として大切な行動を何もできていないことをバレたらと思うと、ジーンには適当に乾いた笑みを貼り付け誤魔化すしかできなかった。
アクセサリーがリュウのポケットに仕舞われていく。ああ、それくれないかなあとじっと見つめてしまうが許してほしい。
「それではまず奴隷についてですが、奴隷として生まれてきた者、借金が返済できずに奴隷に落ちた者、犯罪を犯して奴隷となった者、この様に奴隷となる経緯は多種多様でございます。因みにジーン様が購入なさろうとしている427は少々…かなり特殊でして、どれに近いかと言われますと…、……奴隷として生まれてきた者、になるんですかねえ?」
ジーンはリュウが少々と言った後かなりと言い直したのが気になった。それと疑問形で聞かれてもわかるはずがなく、とりあえずはあ、と返しておく。
「まあ427の出自のことは一旦置いておきまして、」
あ、置いておいちゃうんだ、とジーンは思ってしまったがそこは飲み込んでおくことにした。
「借金奴隷に関しましては、借金返済が完了次第解放となります。その際には一度こちらに来ていただくか、事前に言っていただければこちらから伺い、奴隷解放の手続きさせていただく手筈になっております。開放した奴隷を継続して雇うか、雇われるかなど込み入った話は各々話し合って決めてください。」
借金奴隷に関しては頷いてから、なるほど名前の通りだなと思う。
ふと、バビロニア式借金奴隷とかあった気がした。数字に弱い上に、うまい具合に借金増やすなんて、どこのヤクザかな?ジーンはホワイトをモットーにしていこうと心にかたく誓った。
「犯罪奴隷ですが、殺人から窃盗まで。要するにこの国の罪を犯した者たちがなります。そしてこの犯罪奴隷ですが主に二種に分かれます。犯した罪の重さですね。まず主に重罪を犯した者たちですが、ほぼ使い捨ての様な扱いをされます。ごく稀に奴隷まで漕ぎ着く猛者もいますが、解放までの道のりはかなり難しいものになります。その理由は軽罪者を話した後お話しいたしますね。それでは軽罪に移りますが、軽罪を犯した者たちですが、重罪者よりはまだ希望があります。彼らは借金奴隷よりの扱いになります。なので勤勉にしていれば解放条件を満たすことも、あります。ここまでよろしいでしょうか?」
「まあ、概ね。ですがその解放条件っていうのは…?」
「それは重畳。解放条件は…そうですね、その奴隷の犯した罪次第、となります。軽ければ主人の許容次第なところもありますし、見過ごせない罪であれば国が定めている場合もあります。」
「それは…難しいですね。」
「そういったご相談も受け付けておりますので、ご安心を。」
今日一胡散臭い笑みを浮かべたリュウが言う。
何故だろうか、一番安心できない気がするのは気のせいいかな?そう思いたいジーンだった。
男女問わず顔がいい子を侍らせたい!! 葉山藤野 @hayama_no
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