第74話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第74話》
「カイゼル騎士団長!!」
俺は彼を探している道中、再びカペラとシャウラと合流して情報を共有した後、探していない場所をしらみ潰しに行き、残った大会議室で見つけた。カイゼルはセンウィル国王と何やら話をしており、俺たちに気付くと厳しいそうな顔でこちらを向いた。
「どうした?」
「報告申し上げます!ここより北の方角から、大きな気配と魔力が近付いていると、遊撃部隊長のリゲル・サンドウィッチから伝言を頼まれました。いかが致しましょう?」
俺の報告に、カイゼルは北の方角が見える窓に目をやる。しかし、空には何も見えない。
「遊撃部隊長のリゲルが、そう言ったんだな?」
『はい!』
俺、カペラ、シャウラはそれに返事をする。
「分かった。私が出よう。他の隊員に危害が及ぶ前に対処しよう」
と、カイゼルは国王に一礼すると、駆け足で大会議室から出て行った。その背中を追う俺たち。少し気まずそうに、カペラが口を開く。
「カイゼル騎士団長・・・、この戦い、ジュラス王国は何が目的なんでしょうか・・・?」
もしかしたら、エドワーズはそれをカペラたちに言うつもりで呼び出していたのかもしれない。しかし、俺には思う事があった。ジュラス王国が今、濃い魔力の入った血を欲していること。アラグリッド王国内での戦闘で、魔力を持たず、立場が弱い人々は見逃されている。リゲルの言った『こいつらは時間稼ぎをしているだけ』というセリフ。そしてグランツ城に迫る大きな気配と魔力。これら全てを合わせれば、自分なりに1つの答えが出る。
街を襲うのは恐らく陽動。本命は王国騎士団員の血・・・、か?
そうなると、魔力を持つ人間の割合が大半を占める王国騎士団は格好の餌食だ。
「・・・カイゼル騎士団長、発言良いですか・・・?」
「何だ」
俺は考えを事細かに伝えた。ジュラス王国への遠征時のやり取りや、街で聞いた話、リゲルが到着する前に起きた事を。するとカイゼルは立ち止まった。
「なるほどな。それなら、私は奴らにとって1番の獲物というわけだな」
「あ、いや、獲物という事では・・・」
慌てて否定するも、彼は笑った。
「良いではないか。強さは誇示するものではないが、見せておかねばならぬ時がある。それは命が危ない時だ。隊長、副隊長達は強いだろう。それもそのはずだ、常に命を狙われる戦場、強さを見せ、下の者を奮い立たせ、相手を威圧する。そうでもしなければ自分が死んでしまう。奴らは、そういうところに居るんだ」
至極当たり前の事だが、何故強いのか、という事は考えたことなかった。それは隊長だから、副隊長だから強い、のではない。強さを証明できるから隊長、副隊長なのだ、と。カペラとシャウラも今の話を聞いて思うことがあるのか、ギュッと拳を握ったり、胸に手を置いたりと、各々反応を示していたが、ほぼ初めて見るカイゼルの優しい表情に、少し緊張が和らいでいたのは確かだった。しかし俺たちのその僅かな緩みは、すぐに絶望へと変わった。
ドガァッ!!!
「がはっ!!!!!」
え・・・?
窓ガラスや壁が盛大に壊れる音と共に苦痛の声を上げるカイゼル。一瞬の出来事で思考が追いつかなかったが、どうやら何者かが窓と壁を破壊し、カイゼルを死角から攻撃したらしい。右の脇腹から反対方向へと貫通して突き出した槍の先端。俺たちは突然の出来事に絶句したが、理解するのに時間は必要なかった。
「カイゼル騎士団長!!!」
自然と体が動く。不意打ちだったとしても、カイゼルに一撃与えた奴だ。手練れに違いない。リゲルの言っていた『大きな気配と魔力』の正体なのかは分からないが、俺はそいつとカイゼルを引き離そうと殴り掛かる。
「おらぁっ!!」
しかし拳は空を切る。槍を離してヒラリと避けたヒョロっとした体は芯を持たない様にフラフラとし、不気味に揺れる。黒い長い髪で顔は分からないが、体付きを見れば男だと分かった。カイゼルは貫かれた所を押さえながら壁に寄りかかり、息を荒くする。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・・・。くっ・・・、全く油断していた」
ギリッと奥歯を噛み締め、自分を刺してきた男を睨み付ける。男はそんな事は気にも止めず、持っている試験管の様なガラス瓶に少しだけ溜まるカイゼルの血を眺め、首を横に振る。
「・・・足りない」
男は初めて口を開いた。それは青年の様な爽やかさを帯びながらも、どこか幼い声。足りない、一言だけ呟くと男は右手の指を鉤爪の様に開いて突き出しながらカイゼル目掛けて飛び出す。が、俺が間に割って入る。殺意しか見えないその衝動により攻撃はワンパターン。対象が分かっているのであれば攻撃をいなす事も容易、なはずだった。
「うっ・・・くっ・・・!!」
その貧弱な体からは想像も付かない、純粋な力の強さが俺を押しのけようとしている。
くっそ・・・!!
足の踏ん張りが効かなくなってきているのを感じる。もうダメかと思ったその時、俺の両サイドから飛び出す2人が見えた。
「【アクアレイブン】!!」
「【赤光砲(しゃっこうほう)】!!」
カペラとシャウラは持ち前のコンビネーションを活かし、お互いの技の射線が被らないように魔法を撃ち込む。《水》の付与系のカペラは左腕に装着した小さなボウガンの矢に魔力を込めて威力と射速を増大させて射出し、シャウラは掌から直径1m程の火球を撃ち込む。2人とも、入団試験の時とは威力も大きさも、速さも段違いだった。
「・・・っ!」
男は流石に俺から飛び退き離れた。
「【ストーンバレット】」
と一瞬の隙を突き、俺の耳をかすめんばかりのところを弾丸の如く螺旋状に回転し過ぎ去る小さな石飛礫(いしつぶて)。カイゼルの放った《土》の放出系の魔法が男の左肩を貫く。
「・・・ぐっ・・・!!」
ヨロヨロと蛇行しながら下がるが、俺たちはそれを見逃さない。すぐに間合いを詰め、今度は力比べにならないように俺が先手を打つ。ここで起きている戦闘でかろうじて埃(ほこり)が漂い、その気になればいつでも発射可能だった。
「これでも食らっとけ!!」
俺は思いっきり鼻から息を吸い込む。すると僅かに漂う空気中の埃を感じ取り、鼻はムズムズと、その初期動作に入る。
「えっくしゃい!!!」
俺のクシャミは《風》の古代魔法【エアロブラスト】となり、男を捉えようとする。が、クシャミから放たれる呼気の風速は、時速約320kmで飛ぶのに対し、男はそれに反応したかのように足元にあった窓ガラスや壁の大きな破片を蹴り上げて俺の【エアロブラスト】にぶつける。するとどうだろう、その大きな破片に当たった俺の魔法は奴には届かずに発動し、破片だけを跡形もなく消してしまった。
「何ぃ!?」
ここにきて自分の魔法に弱点の様なものが存在する事が発覚したショックは大きいが、今はそうは言ってられない。
「ちくしょう、もう1発・・・!」
「・・・タニモト・コウキ!!」
俺はカイゼルの声に振り向く。するとそこにはいつものような覇気は無く、口からは血が垂れ、息が上がった彼が壁に寄りかかっていた。
「はぁ・・・、はぁ・・・。もっと冷静になれ・・・!熱くなった時こそ周りを俯瞰しろ」
「はい!」
「そして相手だけに集中しろ。後ろは信頼できる奴に任せれば良い」
そう言うとカイゼルは床に両手を突き、魔力を込め始めた。
「今から高位魔法を奴に撃つ。魔力が溜まるまで、お前たちには前線を頼みたい。・・・やれるな?」
『はい!!!』
俺たちは即答した。仕切り直し、カイゼルの魔力が溜まるまで足止めできるか、正直不安はあるが、やらねばやられる状況に、俺は奮い立っていた。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第75話》へ続く。
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