第50話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第50話》
「ずいぶんジメジメしてんな・・・」
俺たちは警戒しながらも揺れと共に現れた海上のダンジョンらしき洞窟へと足を踏み入れていた。中は今まで海底に沈んでいただけあって湿度が高く、壁も心なしかコケなのかカビなのか、体には不衛生極まりなさそうな塊が目に入った。道は舗装されていない道路のようで、一本道が続いている。全て下に向かって歩いているため、外が海中ということだけが分かっている情報だ。
「そろそろ灯りが欲しいところだな」
視界が著しく乏しくなる程の暗さに思わず目を細める。と、アレスが右の拳にメリケンサックの様な物をはめて魔力を込めた。するとボッと、音と共に火が拳に灯った。しかし戦闘時の時の様に激しく燃えるのではなく、暖色の電球でも点いているかの様な、優しい魔力。
「これで少しはマシだろう?」
「ありがとうございます!」
突撃部隊のソフィアが言っていた、『魔力が弱く、付与する時間が数秒しかできなかった』というのが嘘のように、アレスの拳に込められた魔力は何事もなかったように灯り続けた。
「にしても、何なんだろうな、ここは?」
アレスは小さく溜め息を吐き、後ろを振り返る。遥か向こうにある入り口の光は、俺たちを送り出している様に微かにチラつく。ざっと計算しても100m以上は歩いていそうだ。
「海賊が残した財宝があるのか、はたまた遺跡か・・・。あ、ここ照らしてくれませんか?」
デネブがアレスの拳の灯りを壁に近付けてくれと合図を送る。壁に何かあるのだろうか。俺たちはつられて注視する。
「・・・何だこれ?」
そこに書いてあったのは、下向きの矢印の様な、鳥の足跡の様な、はたまた3本の矢尻を合わせたかの様な模様だった。
ふむ・・・。
顎に指を這わせて考えてみるが、さっぱり分からない。初めて来るダンジョンなのだ。分かる方が凄い。
「壁画、の様ですけど・・・。とりあえず覚えておきましょう」
そう言うと、アルタイルはジッと見つめていた。
「どれぐらい深い所なんだろうか?」
いい加減、暗さにも目が慣れてきたが、まだ先は見えなさそうだ。
「ある程度行ったら一旦戻るか?食料もそうだが、ここで野営するのは流石に難しいだろう」
アレスの言う通りだ。ダンジョンの地図があり、深さや広さが分かれば良いのだが、生憎(あいにく)そういう物は持ち合わせていないし、最深部に行くのにどれぐらい掛かるかが分からない以上、無理に進むのは得策ではない。
「そうですね。アレス副隊長の魔力が尽きる前には戻る算段を付けましょう・・・っおわっ!」
と再び歩き始めようと道を進んだ瞬間、俺は眼前にあった壁らしき物に顔をぶつけた。
「痛たた・・・。何だ?」
鼻をさする。ぺたぺたと触り、そこにコケが生えていない事だけが分かった。材質は石の様な、でもゴツゴツとした物ではなく、洗練された、まるで大理石かと思う程、そこだけ異質な物で作られていた。不審に思ったアレスがそれを照らす。すると、洞窟の通路のど真ん中に、先を塞ぐ様な壁があった。俺が思った通り、材質は大理石が加工されて作られた様なツルツルとした手触りをしていた。
大理石って確か・・・。
俺は覚えているだけの知識を振り絞る。炭酸カルシウムを50%以上を含む石灰岩からなるもので、微生物や貝殻やサンゴなどが堆積してできたものだ。
加工してある、ということは、人工建造物、なのか・・・?
元の世界の、理科の教科書で得た知識ではこれが限界だ。だがしかし、1つ分かった事がある。
「この先は、何者かが作った場所って事か・・・?」
俺の言葉に食いついたのはアルタイルだ。
「てことは、黒龍の力でできた物ではない、と?」
「いや、そこまではまだ分からない。俺たちが歩いてきた洞窟は黒龍のものかもしれないし、この壁だけ、人工物なのかもしれない。この先を見てみないことにはハッキリしないな」
ゴンゴン、と壁を叩く。ずいぶん厚そうな音がし、まるで侵入を拒んでいるかの様だ。と、アレスの拳の明るさが、暖かみのある光から荒々しい光へと変わった。
「これを壊せば良いんだろ?」
ニコッと笑った顔が火に照らされ、揺れ、何とも不気味な顔になっていた。
「あ、いや待ってください、これが何か支えてる可能性も
「おらぁあああああ!!!!!」
俺が言い終わる前に、アレスは『火』の付与をした拳で殴り壊してしまった。音は洞窟内に反響し、狭い所での轟音に思わず目とつむり、耳を塞いでしまった。これがどんな意味でここにあったのかが定かではない。壊してしまえばこの洞窟が崩落したり、何かの罠が作動したりするかもしれなかったが、どうやら今のところは何も起きてはいない。ゴクリと唾を飲み、目を開ける。
「おお、先に何かあるぞ?」
アレスの言葉に、俺は目を疑いたくなった。壊した壁の向こうには、広さ的には教室2つ分程、天井の高さは5m程の、古代遺跡の様な部屋があった。しかもところどころには自ら発光する岩もあり、空間内が明るからず薄暗かず目視できる。神秘的極まりなかった。真ん中に台座があり、何かが置かれている。近寄って見てみると、俺は言葉を飲んだ。
「・・・これは・・・」
その台座に置かれていたのは、龍が翼を休めている様な姿をした、黒い置物だった。
3頭の龍の伝説は本当だったのか・・・!!!
俺たちがその置物に見入っていると、背後から野太い男の声がこだました。
『おっと、そこまでだ!!』
声の方に振り向くと、アレスが壊した壁の場所に何者かが立っていた。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第51話》へ続く。
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