第49話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第49話》


そこから20分弱船を走らせ、俺たちはとある海域までやってきた。バルカンの言う通り波が激しくなり、天気も心なしかどんよりしだした。


「荒れてんなぁ・・・おわぁっ!?」


俺は暴れ馬の様になった船に必死にへばりつく。もう船酔いしてる余裕すらない。


「ここまで来たら後少しだ、我慢だぜぇ!?」


バルカンも力強く舵を握り、船の先端があらぬ方へ向かぬように留めている。その筋肉たるや、アレスと同格か、はたまたそれ以上に盛り上がり、レグルスとアリスが両腕にぶら下がってもびくともしない、いや、プラス俺がぶら下がっても姿勢を崩すことはないぐらいだろう。


「この海域は毎日こんなに荒れてるんですか!?」


「あぁ!小さい漁船なら軽く転覆するな!ガッハッハッ!!」


笑い事か、それ?


それでも、この船が転覆していないことを見れば、バルカンの操舵技術が素晴らしいのか、船が大きいからかは理由は定かではないが、ひとまずは安心だ。


「この波が穏やかになるポイントがある。地図の印がその辺りだ」


ふむ、もうじき、というところだろうか。


と、そろそろ腕が痺れてきそうだと思った矢先、視界の先に雲が一切掛かっていない、いや、ぽっかりと空に穴が空いているかの様な、野球ができそうなほどの広い場所が海上にあった。そこからは太陽光が差し、何とも幻想的な雰囲気を漂わせていた。


「・・・何だあれ・・・?」


波の飛沫(しぶき)を被りながらも、その場所に視線が釘付けになる。アレスやレグルス、アルタイル、デネブ、アリスも口数が減り、船がそこに着く頃には、全員息を飲み、黙り込んでいた。波は、文字通り穏やかになっており、先程の荒々しい場所と壁で隔てているかの様な静けささえあった。


「どうなってるんだ?」


不思議の文字が頭に浮かぶ。するとバルカンが答えた。


「ここは特別な海域で、魚は寄り付かねぇ。だから漁では来ないから、海賊や冒険家がこぞって集まってんだろうなぁ」


バルカンは舵から手を離し、船首に片足を乗せた。目を細め、何を思ったのか溜息を吐く。


「・・・で、どうしたら良いんだ・・・?」


島や、目印などはなにもない。強いて言えばポッカリと空に空いた穴から差す光があるところだけ波がないだけだ。俺たちはそのど真ん中で、何をすれば良いのかも分からず途方に暮れた。


この景色がお宝だ、なんて言わないよな・・・。


そんなありきたりな物じゃ、割りに合わない。船酔いを経て、苦労してたどり着いた場所に何もなければ、海賊や冒険家たちは落胆したに違いない。まさに、今の俺の様に。


「それにしても綺麗な場所ですね〜」


アルタイルが船上を歩き回り、景色を眺めていた。


・・・まさか、な。


俺はアルタイルから言われた事を思い出す。『アナタの後ろに黒い龍が見える』。もしかしたら、その占い師の言う事が本当ならば、鍵はアルタイルだ。


「アルタイル、ちょっと」


俺は手招きして船首に呼び寄せる。何だ何だ、と集まる他のメンバーをよそに、アルタイルを座らせた。


「コ、コウキさん、一体何を?」


「いいから、何か念じてくれないか?」


王道の物語であれば、念じれば何かしらのリアクションがあるはずだ。


まぁ、ダメ元だけどさ。


薄い期待を胸に、アルタイルは俺の意図を理解せずまま何かを念じ始めた。すると、海の異変はすぐに起きた。海面に無数の気泡が湧き、それが次第に大きくなり、数も多くなる。沸騰させたかの様な泡の出方にバルカンは慌てて船を後退させようと舵を切るが既に遅く、大きく一波うねる。


「わ、わっ!!」


転覆しそうな程の大きな波は太陽光が降り注いでいる場所のど真ん中から起こり俺たちを襲うが、その大波1つ来た程度で、後は余韻で揺れていただけだった。余りの衝撃に目を閉じてしまっていた俺だったが、目を開けた時には波の衝撃とは違う衝撃的な光景が広がっていた。


「・・・し、島・・・?」


いや、大きさは島だろうが、俺たちの目の前に現れたのはただの島ではない。植物の一切生えていない更地だった。


・・・?


訳もわからず船はその場所に近付く。観光スポットの砂浜の様なその場所は、俺たちに考える隙も与えずに招き入れているような、不思議な魅力があった。


「・・・降りてみるか」


意を決して、俺はその地に立とうと船から身を乗り出した。それにつられるようにアレスたちも船を降り、足首程度まで浸かっている海をバシャバシャと掻き分けながら、バルカンを除く全員が誘われる様に更地へと踏み入れた。突然現れたのだから、またいつ消えるのかは分からない。だけど、俺は元より、アルタイルは目が据わっている。何かを感じ取っているに違いない。


「アルタイル」


「ええ。あの占い師が言う事が正しいのであれば、黒龍の手掛かりが掴めるでしょう」


彼はコクンと頷き、アルス、レグルス、デネブ、アリスも無言で頷く。全員、ただならぬ雰囲気に気持ちは既に騎士団のそれだった。


にしても、この場所のどこに何があるんだ?


と一歩踏み出した瞬間だった。再び激しい揺れが起き、俺たちは思わず地面に手を突く。


くそ、もう消えちまうのか!?


先程揺れと同時に島が現れた事から、この揺れで再び消えてしまうのか、俺たちは海に投げ出されるのか、と思っていたが、俺の予想は違っていた。揺れている最中、この島のほぼど真ん中の位置に何かが徐々に隆起し続けていた。


「みんな、大丈夫か・・・!?」


安全を確認するも、そこはやはり騎士団だ。数々の鍛錬や依頼をこなして来ただけはあり、これくらいじゃ動じない。立ち上がり、隆起した何かを確認する。


「あれは・・・岩、か?」


鋭く、黒く、いかなる魔法すら跳ね返しそうな輝きさえ感じ取れる岩の塊。近付くにつれてその全貌(ぜんぼう)が明らかになってきた。


「こいつは・・・。ははは・・・」


アレスが笑うのも無理もない。俺たちの前に現れたのは、冷たい空気が漂う岩の洞窟だった。しかも地上に隆起したところが入り口になっており、そこから下る様に中に繋がっている。


ドラゴンと聞いた時はファンタジー極まりないとは思っていたが、ダンジョンまで出てこられちゃ、世界を救う勇者になった気分だな。


俺たちは再び頷き合い、気合いを入れ直して中に進んでいった。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第50話》へ続く。

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