第41話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第41話》


テントの中には、お腹がいっぱいになり横になるレグルスと、荷物を整理しているアルタイルの姿があった。


「お疲れさん、アルタイル」


「お疲れ様です。リーダーも大変そうですね」


他愛の無い会話から、この流れの中俺の聞きたい事を話す。


「なぁ、アルタイルの知ってる限りで良いんだけど、古代魔法ってどんなんなんだ?」


俺が質問すると彼は嬉々とした顔で答えた。


「コウキさんも興味があるんですか!?」


あ、何かヤバイかも。


俺の予感は的中し、アルタイルは誰が止めようにも止まらない、暴走機関車の様にその魅力を語り出した。


「まずですね、古代魔法と現代魔法の2つに分類されまして、僕たちの使っているのが現代魔法、今の魔法の元が古代魔法、と言ったところでしょうか!?その古代魔法から色々派生し、現代魔法と呼ばれる様になったのは、まだ歴史は深くなく、僕らでも辿れる程なんです!ただ謎は多く、いつ、どのタイミングで古代魔法がその形になったのかは分かっておらず、当時の文献も残ってなく、現代人のほとんどがその存在を忘れているのです!」


ほぉ〜・・・。


アルタイルの熱はまだまだ続く。俺の両肩を掴み、グラグラと前後に揺らす。


「それでも、僕はその古代魔法の魅力に取り憑かれているのです!先程、今の魔法の元になってると言いましたが、古代魔法にも属性があります。《火》、《水》、《風》、《土》の4つそれぞれに存在し、《火》は【ダンデライオン】、《水》は【クラーケン・ロア】、《風》は【エアロブラスト】、《土》は【カオス・リビングデッド】と名前も付いてます!あぁ・・・、名前を口にするだけでも他を寄せ付けないオーラにやられそうです・・・!!」


今度は明後日の方を向いて手を組んでどこかを拝み始めたアルタイル。彼のその研究熱心な知識に、俺も1つ知る事ができた。


ふむ、4属性それぞれあるのか・・・。


俺の【エアロブラスト】はやはり《風》の属性。もしかしたら、俺たち以外にも元の世界から飛ばされてきた人物がおり、その人たちが俺とは別の属性の古代魔法を使える可能性もある。戦闘向けなのか、サポート向けなのかは分からないが、自分の【エアロブラスト】を見る限り、現代の魔法より強力なのは間違いない。

グワングワン揺らされて俺も判断が鈍っているのか、暴走機関車に燃料をあげてしまった。


「・・・その4つの古代魔法の現象って、どういうのなんだ?」


「それが、僕もあまり知らないんですけど、考察はできます!《火》の【ダンデライオン】は・・・」


アルタイルがそこまで話すと、彼の言葉を掻き消すような声が聞こえた。


「みんなテントから出ろ!!魔獣だ!!!」


声の主はアレスだった。その声に呼ばれるがままテントの外に出ると、戦闘態勢になっている者が数名。焚き火はあるものの、突如闇に放り出されて目が慣れる頃には、事の重大さに気付いた。


「何だ、この数・・・!?」


無数の赤く光る目が、俺たちのキャンプ地を囲んでいた。明らかにこちらを威嚇する、グルルルという喉を鳴らす音。肉食動物特有の牙を有する狼の様な魔獣は、俺たちの逃げ道を阻む様に凝視していた。


「コウキ。君は下がっていてくれ」


アレスの言葉に従い、俺は少し下がる。


「アレスさん」


「あぁ、夜はこいつらの縄張りだったのをすっかり忘れていた」


カーニャも戦闘態勢になったのかアレスの傍に寄り、構える。


「何なんですかあの魔獣は?」


「ナイトウルフだ。夜しか行動しないデカ目の狼で、気性が荒い。魔法の属性は《風》が多いが、稀に違う属性のやつもいるらしいが、さて、今回のこの群れにはいるのかな?」


俺に質問に丁寧に返すアレスは、拳にメリケンサックらしき物を装着して魔力を込める。彼の《火》の付与の恩恵を受け、拳はナイトウルフの目よりも赤く、ジンワリと光を放つ。


「ここは、戦闘できる者だけで対処しよう」


構えるアレスは、やる気充分だった。


『待ってください!』


やる気満々のアレスの後ろから威勢の良い幼い声がした。男の子の様な気もするし、女の子の様な気もする。男の子ならば、まだ声変わりをしていない程の年の若い声だ。アレスや、魔力を込めて構える調査隊のメンバーが声の方へ振り向く。


「ん、君は・・・」


そこにいたのは、レグルスとそう年の変わらない金髪ツインテールの女の子だった。


「陽動部隊所属のアリス・テレスと申します!ナイトウルフの掃討、私にやらせてください!」


アリスは名乗ると、掌に魔力を込め始めた。


「おいおい、まだ容認したわけではないぞ・・・アリス?」


「いえ、アレス副隊長!あれぐらいの魔獣、私1人で十分です!」


「待て待てアリス、一旦話をだな・・・」


「いーえ、アレス副隊長、私にやらせてください!」


「アリス!」


「アレス副隊長!」


あー、もう名前が似てて頭がこんがらがる・・・。


「えっと、アリス・・・だっけ?相当自信があるようだけど、勝算はあるのかい?」


俺は困り果てるアレスを見かねて口を挟む。すると、彼女はスタスタと早足で俺の側まで歩み寄る。その圧はバーゲンセールで激安商品を狙うオバ様の様で、文字通り圧倒されそうになる程だった。


「勝算とは何か分かりませんが、あれぐらいの魔獣、私の魔法に掛かれば一撃です!コウキリーダーのゴーサインさえあれば、すぐにでも討伐します!さぁ、私に命令を!!さぁ!」


あからさまに困った顔でアレスやカーニャ、デネブの方を見るが、3人が3人とも溜め息を吐き、渋々首を縦に振っていた。


・・・しょうがない。


「・・・分かったよ。でも、こちらが無理だと判断したら、すぐにアレスたちを投入するからな?」


俺のその言葉を聞き、パァァと顔が明るくなるアリス。子供とはこうも喜怒哀楽が分かるものかと、改めて感服する。目でアレスに合図をし、頷くのを確認してアリスを送り出した。


「そんじゃ、アリス、頼んだぞ」


「はいっ!」


にしても、陽動部隊所属なのに殲滅を目的に率先して動くなんて、余程自信があるんだなぁ。


俺たちに見守られながら両手に魔力を込めるアリス。ポゥ、と明るくなると、両手を広げ、その力を一気に解放する。


「【ダンデライオン】」


「はぁ!?」


俺は、つい先程アルタイルの口から聞いた『火』の古代魔法の名前に、動揺が隠しきれなかった。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第42話》へ続く。

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