第30話

《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第30話》


「ただいま戻りました〜」


ウサギ型の魔獣の親玉を倒した後、俺たちは依頼者のお婆さんへ報告。研究機関の方へ報告書の依頼を掛けた後、ニコラス副隊長、カペラ、シャウラと別れ、俺はアレス副隊長、アイザックと共に、突撃部隊の部屋へと戻ってきていた。


「おう、ご苦労だったな。それで、どうだった?」


ソフィアが椅子に座りながら聞いてきた。目の前には山程の書類が積まれており、それ一つ一つに目を通しているようだった。


「はい、依頼者のお婆さんも大変喜んでおり・・・

「そうじゃない」


俺の言葉を、ソフィアは遮った。


「こいつの強さはどうだったか、と聞いてるのだ」


そう言いながら、彼女はアレスを一目見る。すると、アイザックが興奮気味に答えた。


「いや、凄いの一言では表せない程、魔獣を圧倒してました!陽動部隊のニコラス副隊長との連携もさることながら、アレス副隊長個人の力が光った戦いでした!!」


それにはアレスも照れていた。ソフィアも、ほうほう、と頷いていたが、結局何が言いたいのかは全く分からない。


部下自慢でもしたかったのか・・・?


と呆れようとした溜め息を吐くと、ソフィアは口を開いた。


「アレスはな、魔法の力が弱かったんだ。お前たちの年の頃は、付与するのに数秒しかできなくてな」


・・・えっ?


「元々、アレスは幼少期の私の護衛の1人。腕っぷしだけは昔からあったんたが、魔法の事はからっきし。私が隊長に就任してからは離れてしまったが、こうして奴は努力だけで魔法を自分の使いやすい形に昇華させた・・・。何が言いたいか分かるか?」


いや、さっぱりっす・・・。


俺たちが黙っていると。彼女は立ち上がり、窓の外を眺めた。


「アレスの強さに圧倒されたのであれば、お前たちもその努力次第ではそうなれる、ということを肝に銘じておけ。努力は、才能を凌駕する」


それは、俺の背中を激しく押している様に聞こえた。俺も努力次第では、クシャミ以外で【エアロブラスト】が出せるようになるのかも、しれない、と、希望が持てた。ソフィアの重みのある言葉に、アイザックも言葉を失っていた。


「さぁ、お前たちは疲れたろう。今日はもう上がって良いぞ」


ソフィアは手を叩き、俺たちを正気に戻した。そして挨拶をし、部屋を後にする。


「なぁ、この後うちで飲まないか?」


アイザックの言う、うち、とは親父さんが経営している『ビッグ・ディッパー』の事だろう。


「あぁ、良いぜ」


快諾し、そして夜、着替えやら諸々を済ませた俺たちは初依頼の成功に乾杯し、良い酒を飲む事ができた。


いや〜、お酒飲めるって、悪くないなぁ〜。


俺はほろ酔いのまま、千鳥足とは言わないが、気分良く寄宿舎の自室へと戻ってベッドへ体を放り投げた。こんなに心地いいのは初めてかもしれない。ウトウトとしかけ、そのまま眠れそうだった頭を、とある音が呼び起こした。



カンカンカンカン!!!!!!



ん・・・?


俺は明らかな物々しい鐘の音に体を起こし、自室の窓を開ける。するとそこには、酔いすら覚める光景があった。


「な、何だよこれ・・・」


俺が見たのは、逃げ惑う人々、燃え上がる家屋、そして、人々を追い掛ける魔獣たち。先程の鐘の音は、魔獣により被害が広がる恐れがあることに対しての警鐘。今すぐ民間人は逃げろ、との合図だった。俺が窓の外の状況を確認し終えた時、扉を激しく叩く音がした。



ドンドンドン!!



「コウキ、起きろ!!緊急指令だ!!!」


次第に荒ぶる声の主は、突撃部隊・隊長のソフィアだ。俺はその声を聞き、すぐさま扉を開ける。彼女は急いで走ってきたようで、肩で息をしていた。


「何があったんです!?」


「説明は移動しながらだ、今は皆を起こせ!!」


指示通り、寄宿舎に寝泊まりしている同期を起こして周り、全員集合できたのはものの1、2分後だった。中でも緊急事態だったが、ソフィアの声を聞いた途端飛び出してきたのは、やはりカペラで、男の俺よりも着替えのスピードが速かったようだ。そして俺たちはソフィア先導の元、アラグリッド城へと急いでいた。走りながらの会話なんて、漫画やドラマで見るほど楽ではなかった。


「で、何があったんです!?」


「魔獣たちの奇襲だ。既に騎士団の数名がやられている」


「見張りの人らはどうしてたんですか?」


「それが、街の地下から複数体同時に現れたんだ」


地下から複数体同時に・・・?


ソフィアの言葉に、俺たちは疑問を抱いてそれぞれ顔を見合わせる。何か嫌な予感がする。

アラグリッド城へ入ると、騎士団長のカイゼルが他の隊長たちを集めて指示を出していた。彼はソフィアが戻ってきた事、俺たちを連れて帰ってきた事に顔を明るくした。


「おぉ、戻ったか!今回は魔獣戦だ、新人には期待している」


カイゼルはニヤッと口角を上げた。かと思った。


「だが、今回は新人には民間人の避難誘導、及びいくつかある避難場所の1つを守ってもらう!」


まぁ、新人には妥当な指令だな。


などと思いながら、俺たちは指示された避難場所である、アラグリッド城の屋内演習場の場所を確認し、避難場所への誘導する組と、避難場所を守る組に分かれた。俺はアイザック、シャーク、ルナールの3人と屋内演習場に残り、避難場所の守護に当たった。それから程なく、カペラ、シャウラ、レグルス、アルタイルの4人が残された近隣の民間人の誘導をするために外へ出て行った。


何も被害がないのに越した事はないが、起きてしまったのなら少しでも被害を少なく、だ。


俺たち4人が屋内演習場に入った頃、既に、十数名が避難しており、中には泉の姿もあった。


「あ、コウキくん・・・」


「大丈夫でした?」


「う、うん・・・」


泉は明らかに怯えていた。こんな時、ヒーローならなんて声を掛けるのだろうか。言葉が出てこなかった。しばらくだんまりが続いていると、アイザックが俺を呼び付けた。


「・・・おい、コウキ」


「すまん、つい・・・」


「お前な、俺たちの任務を忘れるな?心配なのは分かるが、俺たちはここを守らなければならない。命に変えても、な」


と、彼は俺の左胸にトンッと拳を当てた。


「だから、もしものことがあれば、あの人はお前が死ぬ気で守れば良いだけの事だ」


「・・・アイザック・・・」


俺は不謹慎だが、彼の言葉で少し安心してしまっていた。今のこの状況が、幸せでならない。アイザックと顔を見合わせて浸っていると、少し遠くの方で衝撃による地鳴りが聞こえた。まだ魔獣たちが暴れている証拠だ。その地鳴りを聞き、逃げてきた民間人の方々から出た恐怖の声が、屋内演習場のあちこちで聞こえる。それを聞いたアイザック。怯える人々に向けて言葉を伝える。


「みなさん、どうかご安心を!ここは天下のアラグリッド城!そう易々と魔獣は入れやしません!!」


お前はどうしてそんなフラグを建てたがるんだよ・・・。


俺がそんなツッコミを入れ、アイザックが拍手された瞬間、俺たちのいる場所で地震が起き、砂煙が上がった。


『うわぁぁぁぁ!?!?!?』


ほら言わんこっちゃない・・・。


街で暴れまくっている内の1匹の魔獣が、アイザックの建てたフラグを回収しに来たかの如く、俺たちの目の前に地面を突き破って現れた。その姿は俺たちがいた世界にもいたが、中々お目にかかれない生き物だった。


「モ、モグラ・・・!?」


そこには、穴から顔を出す、目を紫色に光らせた巨大なモグラがいた。


《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第31話》へ続く。

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