第28話
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第28話》
「カペラの言っていた通りだな」
俺たちは大きな木の影や草むらに隠れながら、魔力探知で反応があった場所の様子を伺っていた。そこには木の上に小屋が作ってあり、木の根本からはウサギが数羽出入りしていた。
「なるほど、小規模というか、2、3人が出入りできるところのようだな」
アレスは、小屋を見るなりそう判断した。
「本当に野盗なら、捕縛して連行しますか?」
アイザックはやる気満々だ。しかしその彼とは裏腹に、ニコラスが冷静に口を挟む。
「いや、今回の依頼はウサギ型の魔獣の討伐だ。魔獣の相手をしながら野盗とも戦うとなると、少し新人には荷が重い」
ニコラスは俺たち1人1人と目を合わせる。
確かに、急に対人ともなると、『覚悟』がいる。『もし自分の魔法で死なせてしまったら』という。
俺は、そういう場所に属しているのだと再認識をした。だが、その野盗捕縛にNOを出したニコラスから、とある指令が出された。
「一緒に潰してしまえば、同時に相手になる事もあるまい。よし、新人4人で、ウサギ型魔獣の巣と、その上にある野盗の小屋を同時に叩け」
『えぇ!?』
俺たちは、声を合わせるつもりはなかったが、自然と合ってしまった。
「先程新人には荷が重いと・・・」
「うむ、先程は、な。君たちの力がどれ程のものか、試してみようと思ってね。なに、ちゃんと尻拭いはする、安心してぶっ潰せ」
カペラの言葉を遮るかのようにニコラスは満面の笑みで親指をグッと立てた。
いやいやいやいや、物騒な事をさらりと笑顔で言わんでくれよ。
俺の心の中のツッコミは置いてけぼりで、他の3人は急にやる気に満ちていた。カペラとシャウラは長年のコンビだから気の合い方は分かるが、アイザックまでもが、長年連れ添った戦友かのように彼女らの傍に鎮座していた。
構図は完璧なんだよなぁ。
ゲームや漫画の世界ならば、これほどカッコいい姿はないだろう。俺はその新人の内の1人だという事も忘れ、ただただ勇ましい3人に魅入っていた。
「作戦はお前たちで立ててみろ」
アレスも容認したようで、優しい眼差しで腕を組んでいた。どっこいしょ、とその場に座り込み、横にニコラスも座ると、どこから取り出したのかは分からないが、小さな皮袋とお猪口(ちょこ)を持ち、酒盛りを始めてしまった。
どっちが持ってきたんだろうか・・・。
仕事中の酒盛りが今後どの様な影響を及ぼすかは分からないが、俺たちには何も言えない。
「・・・とりあえず、作戦、かぁ・・・」
俺が溜め息を漏らすと、カペラが口を開く。
「小屋の中に3人いるとして・・・。シャウラの【赤光砲(しゃっこうほう】で上の連中は何とかならないかしら?」
【赤光砲】。確か騎士団の入隊試験の時にシャウラが放っていた、至近距離で爆発させるように撃ち出す『火』の魔法だ。カペラの言う通り、小屋に放てばただでは済まないだろう。それぐらい威力のある魔法なのだ。
「・・・私1人だと、小屋を吹き飛ばすだけで精一杯。・・・中の野盗たちもとなると、難しい」
小屋を吹き飛ばすのはできるのかよ。
というツッコミは置いておき、俺も何か考えなくては、と頭を捻る。
ウサギ型魔獣の数にもよるけど、ここはやっぱり火力のあるシャウラを軸に考えるのが良いだろう。アイザックの魔法も、バッファロー型の魔獣の時にはっきり見ている余裕はなかったしな〜・・・。
などとぶつぶつ言っていると、シャウラがポケットからゴソゴソと何かを取り出した。
「・・・コウキ、これ」
「ん?」
彼女はバッファロー型の魔獣を倒した時と同じ、穂先がファサファサした植物を差し出した。
「ありがとう、今日はコレ持ってるから大丈夫だよ」
俺はポケットからペッパーミルを取り出して彼女に見せる。するとシャウラは何かを思い付いたように、あからさまに手を叩いた。
「・・・コウキ、魔法を木の根本に放てる?」
「何か良い案でもあるのか?」
「・・・うん。私とコウキは放出系。カペラとアイザックは付与系。2手に別れて同時に攻撃すれば、いけると思うの」
ほうほう。
「・・・組むのは、コウキとカペラ。私とアイザック」
ほうほう・・・ん?
「あれ、シャウラはカペラと組まないのか?」
「・・・今回の作戦は、カペラと私が組むのは、相性が悪そう。・・・それに・・・」
シャウラはそこで言葉を止めた。それを聞いたカペラは何かに気付き、一度頷いた。長年のコンビにしか分からないものが、そこにはあったのだろう。
それに、何だったんだろうか?
俺にはサッパリだった。
「詳しい作戦の内容は?」
アイザックは今の話を聞いて、やる気に満ちていた。手をパシンッと鳴らし、今にも突撃部隊らしく突撃していきそうだった。
「・・・一番良いのは、上の小屋に誰も居ない事」
「そうね」
カペラはもう一度頷く。
「・・・じゃあ、作戦を伝えるね。まずカペラとコウキ。カペラが【剛矢(ごうし)の型】で根本の巣穴に一撃。そこは中の魔獣にダメージが無くてもとりあえずは大丈夫。異変に気付いた魔獣たちが巣穴の入り口に来たであろうタイミングでコウキが巣穴に、私とアイザックが小屋に直接魔法をぶつける。最後にもう一度、私の【赤光砲】で木をなぎ倒す。・・・以上」
余りにも大胆な作戦を思い付いたシャウラに驚きを隠せないが、何も無く無闇に突っ込むよりか良さそうだ。
「よし、それでいこう」
「・・・一応木が倒れれば巣穴の入り口は塞がると思う。倒し漏らしがあればそれぞれで対処。・・・じゃあ、健闘を祈る・・・」
シャウラはフッと笑い、自らをも鼓舞しているように見えた。
「やるぞぉ!」
俺は声高らかに自身を奮い立たせた。
《異世界に飛ばされたらクシャミが空気砲になった話 第29話》へ続く。
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